第4話 水野明日香について 2

 残された三人は誰もいないグラウンドを見ていた。

「しかし、休み時間だというのに誰もいないって……。最近の高校生は外へ遊ぶってことをしないのか」菅が呟く。


「さあね。秋といえども、まだまだ暑い時期だから、外に出たくないのかもね。ほら、スマホをいじってた方が楽しいじゃん」あかねはベンチにくっつくように背にもたれた。「あー、疲れた」

「まだ、何もしてないだろうが……」菅が突っ込む。「ちょっと、喉が渇いたな。何がいい? 俺そこの自動販売機でコーヒー買ってくるよ」


「じゃあ、あたし炭酸系。真君は?」

「僕はお茶で」


「お茶ってあんた、古風だね。つむぎと一緒みたい」

 “つむぎと一緒”という言葉だけで、真は胸を震わせていた。


「つむぎさんは茶道部でしたよね。茶道部の友達いるんですかね?」真は言った。

「まあ、あの子は基本一人大好きだから。それにあんまり喋らないしね」


「あかねさんには結構喋ってるじゃないですか?」

「あの子も色々とあったからね。うちら姉妹は。心を閉ざさしてしまったっていったらそうなのかもね」


「どんなことがあったんですか?」

「うん?」あかねは真っすぐ前を見た。「別に深い話をしに来たわけじゃないでしょ。さあて、今回の事件面白くなって来たよね」


「そうですね」真はあかねが急に話題を変えたことに、相当な闇を抱えているんだなと思った。こないだ話してくれた両親がいないという続きがあるのだろうか。


「では、俺は買ってくるよ」

 そう菅は立ち上がって、自動販売機の方に向かっていった。


「何か、悪いですね。僕らのもお茶を買ってきてもらって……」

「まあ、いいんじゃない。その分、事件を解決してくれってことなんじゃない?」


「今回も、菅さんから着手金貰ったんですか?」

「まあね。つむぎを見送ろうとしたらさ。電話が掛かってきて、首つり自殺が起こったから手伝ってくれってね」


「やっぱり、事件を二つ解決してるから、警察も頼むんでしょうか?」

「うーん」あかねは思案していた。「どちらかというと、菅さん一人で協力を懇願してる感じがするけどね」


「それで、着手金ですか……」

「まあ、今回はあたしも少額で手を売ったよ。多分、菅さんのポケットマネーじゃないかなと思ったからね。ただ、あたしたちの協力もあって事件も解決したら、菅さんの昇給もあるというわけだから」


「なるほど」

 真は頷いた。そう言えば、自分も天橋出版社で昇格という話も出てきているが、社長が神田で、部長が満田というスタンスを真自身崩したくないのもある。満田はブツブツ独り言うるさいけど、あの人はあの人なりに色々と苦労してきたという噂も聞いている。


 菅は三人分のペットボトルを持ってこちらに歩いてきた。

「おい、買ってきたぞ」


 あかねにはコーラを、真には緑茶のペットボトルを渡した。

「ありがとう」

 と、あかねは礼を言ってコーラを開けた。パンと高圧縮されたガスが一気に抜けた音がして、ぐびぐびっと飲んだ。


「あー。やっぱり、こういう時にコーラはいいね」と美味しそうに笑みを浮かべている。

 真もペットボトルのフタを開けて、緑茶を飲んだ。ひんやりとした冷たいお茶が、口から喉へと流れていく。


 菅もコーヒーのキャップを開けて飲んでいた。

「それで、水野さんの事件の件なんだけど。カギは演劇部にある可能性があるな」


「まあ、断定はできないけどね。つむぎが言った、友達の石留さんと、森本君。その二人に聞いてみたら何か答えは見つかるかもしれないよ」

「けど、森本君はアイドル的な存在なんだろう。結構面倒くさいな」


「そうですよね」真は相槌を打つ。

「何で?」あかねはきょとんとする。


「だって、アイドル的存在というと、女子生徒からキャーキャー言われてるってことになりますよね。すると、天狗になって高飛車的な行動を取ることがあるかもしれません」

「己惚れてるってこと?」


「はい」

「まあね。そんなクソガキがつむぎのことが好きだったら、金属バットでボッコボコにしてやるけどね」

 あかねは淡々と喋っているが、真も菅も「アハハ」と苦笑いを見せた。


 その時に後ろから、「あの、刑事さんですか?」と、声がして、三人後ろを振り向いた。

そこには学校の先生なのか、ただの職員の方なのか分からない。ひょろりとした背の高い、いかにも気弱そうな男が両手を揉んでいた。

「ええ、そうですが……」菅はコーヒーを飲んだ後に言った。


「すみません。校長先生がようやく手が空いたので、お話しできますが……」

「それなら、行こう」

 菅が立ち上がって、あかねと真も続いて立ち上がった。

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