第二章 紋別に向かう

  おおとり号は、遠軽駅の1番線に止まった。ホーム中程に改札が見える。

 彼らがホームに出た途端に

「ご乗車お疲れ様でした。遠軽、遠軽です。紋別方面へお越しの方は、2番線にお越しください」

と、3人を出迎えるように放送が聞こえてくる。

 テッペイ達一行は近くの階段から跨線橋に上がり、足早に向こう側のホームへと向かった。

 反対側の島のようなホームに降りると、銀色の車体に赤い帯をつけたディーゼルカーのキハ54系がガラガラとエンジンを鳴らしながら2番線に佇んでいる。

 ワンマン・紋別行きというLEDの表示を確認し、3人は列車に乗り込む。

 その車内ではクロスシートが並んでいる。背もたれが垂直の固定されたものである。彼らは中程より少しうしろに陣取り、まずはそのままおおとり号を見送ることにした。

 その電車が動き出すのを見るやいなや、エリの表情が変わった。

「あれ、なんか来たときと逆に行ってない?」

「ああ、ここから網走へは更に東に向かうには方向転換しなきゃなんだ」

「え、どういうこと?」

 テッペイがエリの疑問に答えるも、彼女の頭にはなおもはてなマークが浮かぶ。すると

「ここの線路はY字をひっくり返したようなかっこうだからよ」

と合掌のようなポーズでその形を作って見せる。

「てか、地図見たほうがわかりそう?」

 テッペイはスマホを手にして遠軽駅周辺の地図をエリの目の前で映し出す。

その地図上では、確かに線路が逆さのY字、あるいは人の字形のように見える。そこから地図をズームアウトし、網走との位置関係がわかるようにして見せる。

「こういうわけか……」

 これでエリには方向転換の理由に納得いったようだった。

 疑問がひとつ解消されたところで、彼女はまたひとつ問うてくる。

「あのさ、もうひとつ気になったことがあるんだよね。電車降りたときに周りを見たけど、電線なかったよね?」

「電線?」

「ああ、架線のことだね」

「そうなの。これって電車だよね?」

「そうだぜ」

「ディーゼルとかだったらわかるけど、電車だったら架線っていうのがなけりゃ走れないよね?」

「そりゃ、いままでのような電車だったらね。けど、最近の電車は蓄電池を使うものもいくつかあるんだ」

「そ、ちなみにこの電車もそうだぜ。架線のあるところではそっから電気とって、走りながら同時に充電もするってわけよ」

「あ、そうなんだね。んで、えっと……、こういうのなんていうんだっけ? え、え、エーブイ……」

「ちょ、おいおい、なんでそこでエロいのが出てくんだよ!」

 AVっつったらアダルトビデオじゃねえか、とアキラがボケるリエにツッコミを入れる。

 その傍らで、テッペイが口をはさむ。

「ねえ、それってEVのことじゃないかい?」

「そ、そう、それそれ」

「たく、びっくりしたじゃねえか」

 そうこうしているうちに発車時刻が来た。軽快なチャイムを鳴らして扉が閉まると、列車はエンジンをうならせて走り出す。

 遠軽駅を出てすぐに複数の線路がカーブの所で単線にまとまっている。その先には、緑が広がっており、ところどころに雪が積もっている。

 更に、建物がぽつりぽつり姿を見せることもあれば田畑も目に入ってくる。

「あ、ところで北海道って大昔は路線結構あったんだって?なんかあちこち廃止になったらしいけど」

「そうなんだよ。結構いろんなところがなくなったみたいでね」

「ちなみに今走ってるとこは最近復活したところでよ。こっちは名寄本線っつってたもんな」

「そ、んで今じゃ遠軽から紋別までが復活して紋別線になったんだ。地元じゃ流氷ラインとも言われてるよ」

「そっかそっかー」

そう聞いてホクホクするエリなのであった。

 列車は北へ向かい、北遠軽、開盛、共進、上湧別と進んでいく。

 更にその先の中湧別近辺では、公園らしきものの中に柵に囲まれたようなものと尖ったかっこうの塔についている風車が車窓から見える。それを見て、エリがきいてくる。

 「あ、こんなところに公園があるんだ」

「ここはね、湧別じゃ有名なチューリップ公園なんだ」

「ま、そのチューリップが時期じゃねえしまだ咲いてねえけどよ」

「ここ、ちょっとよってみたいかも」

「いやいや、今回の目的忘れてないよね?」

「そうだぜ、ここは我慢してくんね?」

少年二人にそう言われたエリは

ちぇっ、などと言って口を尖らせた。

 中湧別を出ると、列車は左に大きくカーブする線路を走行し、オホーツク海に沿うように走行する。

 さらに川西、沼ノ上、小向と順に進んで行く。

 元紋別の近辺まで来ると、次第にオホーツク海が見えるようになった。

 遠軽を出て50分ほど経っただろうか。三人はようやく紋別駅にたどり着いた。

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