第53話


〈おいおい、『アサシンブレイク』の奴らは何が目的なんだ?〉

〈ひょっとこ兄貴が強すぎるんだろ。あんだけ奇襲して倒せないとは思ってなかったんだろw〉


 まあ、コメント欄は盛り上がってくれているからいいか。

 【鋭い感覚】を使うと、この先隠れている『アサシンブレイク』が丸見えになった。

 リアルでも似たようなことはできるのだが、こゲームでもやはり便利だな。

 決してダメージのあるスキルではないのだが、奇襲を受けないというのは普通のプレイヤーにとってはかなり嬉しいことだろう。


 まあ、今は配信をしながら動いているので、俺の居場所は晒している状況なんだけどな。


「お兄様、結構攻撃されてますけど、大丈夫ですか?」

「別に大して強くないから余裕余裕」


 そんな会話をしながら、先を進んでいく。

 たぶん、もう襲ってこなそうだな。俺の配信を見て、進行方向に間違いがないことが分かっているようだ。


 しばらく歩いていくと、開けた空間にでた。

 そこに待ち受けていたのは、大人数の武器を持ったプレイヤーたち。

 全員仲良く目が赤い集団――『アサシンブレイク』。

 彼らの中央に立っていた男は腕をくみ、にやりと笑う。


「よぉ、ひょっとこ兄貴」

「……どちらさん?」

「この『アサシンブレイク』のリーダーを務めてる、カツキって言うんだ……そして、これからお前をぶっ倒す男の名前だ」


 カツキは笑みを浮かべると、彼の周囲に控えていたプレイヤーたちが弓を構えた。

 ……構えが変なやつもいるので、全員のメイン武器が弓というわけではないんだろう。


 総勢、五十名くらいか? よくもまあ集めたものだ。


〈おいおいおい! さすがにこの人数でPKって卑怯すぎんだろ!〉

〈ひょっとこ兄貴! 今すぐ逃げてくれ!〉

〈場所はどこだ!? ひょっとこ兄貴を助けに行かないと……っ!〉


 コメント欄は慌てたように声をあげる。

 ルルラもさすがにこの数は危険だからか、俺のポケットに入ってちらちらと見てくる。


「ひょっとこ兄貴。装備品と金全部置いて行ったら見逃してやらんこともないぜ?」

「同意見だ。そういうわけで、さっさと置いていきな? 見逃してやるから」


 俺がひょいひょいと挑発するように片手を向けると、カツキは苛立ったように眉尻を上げた。

 ゲームなんだから、このくらいの盛り上げは必要だろ?


〈ひょっとこ兄貴!?〉

〈い、いけるんか?〉

〈さすがにこの数は無理だろ……っ! 対人戦だとそんなにレベル差も関係ないって聞いてるし……!〉


 俺の言葉に、コメントはさらに加速していく。『アサシンブレイク』の登場に合わせ、さらに視聴者数は伸びている。

 登録者数も爆伸びだ。もしかしたら、今日中に登録者数10万人を超えるかもしれない。

 ここまで盛り上げてくれた『アサシンブレイク』には感謝してもしきれないな。


「……てめぇ、後悔すんなよ!」


 カツキがそういった次の瞬間、俺に向けて矢が放たれた。

 一斉に放たれたのだから50近い矢が飛んでくるのだが、そのすべてが俺に当たるように飛んできているわけではない。


 なんなら、適当に放ってるやつもいるようで他の矢を巻き込み、向きがおかしくなっているのもある。


 軌道を見切り、自分に向かってきているものだけを弾きながら短剣を振り抜いていく。

 矢の雨を潜り抜けながら『アサシンブレイク』に接近すると、俺の突撃に明らかに動揺が走る。


「……怯むな! 全員で叩け! 仲間とか関係ねえ! とにかく、その舐めたガキに攻撃を叩き込んでやれ!」

『おおおお!』


 男女様々な音程の雄叫びが響き渡り、彼らが突撃してくる。

 もっとも近かった男の剣をかわし、その首を刈り取る。

 俺の背後をとった男が攻撃してくるが、俺は360度どこでも見られる。


 だって、分身が俺の配信を見ているんだからな。視野の広さだけでいえば、リアルの体と同じように展開できるわけで……その状態の俺が集団戦に負けると思っているのか。


 なんなら、分身の視界だけで対応できるので、それこそ目を閉じながらでも倒せるほどだ。

 そもそも、目を閉じていても敵の動きと声で十分対応可能なわけで――。


 連続で『アサシンブレイク』たちを仕留めたところ、明らかに向こうの勢いが下がっていく。

 俺を狙っているのに、攻撃はすべてかわされ、下手をすれば同士討ち。

 そして、俺の攻撃はすべて寸分違わず仲間の急所に吸い込まれていく。

 こんな状況を見れば、そりゃあ勢いもなくなるだろう。

 俺はさらにそれを削ぐように余裕ぶって、倒していく。


「くそっ! 怯むな! 怯むんじゃねぇ!」

「ほら、どこ見てんだよ!」


 一人安全圏から指示を出していたカツキにナイフを投げると、彼は慌てたようにかわした。

 一応、リーダーを張るだけはあり、このくらいはかわせるようだな。


「てめ……」

「リーダーが一番びびってんじゃねぇか?」

「ふざけんじゃねぇ!」


 カツキと対話していると、脇から剣を突き刺してくる男がいた。

 その攻撃をかわしながら、頭を掴み地面に叩きつける。

 俺の背中を狙ってきた男の攻撃を横に転がってかわすと、勢いよく地面にいた男を切りつけてしまう。

 かわしてすぐ、その場で回るように足払いをかける。倒れた男の喉に短剣を突き刺す。

 迫ってきた男に、短剣を振り上げて胸から喉へと切り裂く。


 やってることは単調だ。敵の攻撃を受け流し、仕留めるだけ。

 スキルを使ってくることもあったが、どれもこれも見切りやすいので、回避か【パリィ】が余裕でできてしまう。

 あっという間に残りは五人となる。カツキに短剣を向け、俺は問いかける。


「運営のアップデート待ってからだったら、ここまで被害も出なかったんじゃないか?」

「……」


 カツキは小さく息を吐いてから、右手に剣を持った。

 そしてこちらをじっと睨んでくる。


「テメェ……オレに勝てると思ってるのか?」




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