第54話


「おまえは俺に勝てると思ってるのか?」

「テメェのことは調べたが……ただの引きこもりのインキャなんだろ? オレは前のゲームでトッププレイヤーだったんだ! テメェなんかよりも、ガチ対戦の経験は多いんだよ!」


 カツキが剣を構え、突っ込んでくる。

 確かに、他の奴らに比べて動きはまともだ。

 フェイントも多く、それはもう対人戦に慣れているのがよくわかる。

 いくつか、俺の回避を誘うような攻撃を繰り出してくる。

 俺の動きを誘導し、そしてそしてカツキの口角が釣り上がる。


「死ね!」


 振り下ろされた剣は俺にはあたらない。

 ここまで、すべて、俺に誘導されていたからだ。

 すべての攻撃をかわしてやると、さすがにカツキの表情も険しくなる。

 一発くらいは当てられると思っていたようだな。

 剣を構える彼に一歩近づくと、カツキは怯んだ様子で後退りする。

 それまでの攻撃的な姿勢から一変。怯えの混じった表情でこちらを見る。


「……それじゃあ、本物の攻撃を見せてやる」


 俺はそう言うと、カツキは慌てた様子で剣を握り直す。

 俺の攻撃を見切り、反撃するためにだ。

 一歩、また一歩と俺がゆっくりと近づいていく。それに合わせ、カツキは俺から距離を取る。

 だが、そのタイミングはくる。

 瞬きと呼吸をした一瞬――その隙に俺は踏み込んだ。


「え?」


 カツキからすれば,ワープしてきたように感じたのではないだろうか。

 まったく何の反応もできなかった彼だったが、慌てた様子で後方へとぶ。

 俺はその彼の右腕を斬りつける。


 カツキは顔を顰めながらも、後方へ跳んで逃げる。荒くなった呼吸の合間を縫うように、俺は距離を詰めて短剣を振り抜いていく。

 急所を外すようにして、何度も何度も致命傷になりにくい箇所へと攻撃を重ねていく。

 逃げても無駄だ。連撃を叩き込むと、カツキの表情がみるみるこわばっていく。

 先ほどまでの威勢は完全になくなり、恐怖に染まった表情にだ。


「どうした? 震えてるぞ?」

「……はぁ、はぁ……はぁ……! お、お前,何者なんだよ!」

「俺か? キリキリマイというVTuberの兄だ。あっ、チャンネル登録よろしくな」

「……ふ、ふざけるなぁ!」


 俺の発言で、せっかく与えた恐怖心が取り除かれてしまったようだ。あるいは、無理やり声を荒らげて勇気を振り絞ったか。

 カツキが突っ込んでくると同時に、剣を振り抜いてくる。

 ただ、力みすぎだ。スキルを発動したカツキの剣に、俺は【パリィ】を合わせた。


 タイミングは完璧で、カツキのスキルを無効化し、弾く。


「嘘……だろ……っ。なんで初見のスキルを――」

「似たような技はたくさん見てきたからな。じゃっ!」


 俺は笑顔とともに短剣を振り抜き、カツキの喉を切り裂いて仕留めた。

 カツキは確かに他のプレイヤーよりは強かったな。

 

 ただガチ対戦の経験は多い、と言っていたが俺だって負けちゃいない。

 何度も命のやり取りをしてきたんだ。勝負の回数が多いだけを誇りにされたら困るってものだ。

 カツキを倒したことで、残っていた『アサシンブレイク』のメンバーは完全に戦意喪失したようだ。


「どうした! もう終わりでいいのか?」


 俺が問いかけるが、彼らは顔を見合わせたあとすぐに背中を向けて走り出した。

 どうやら、リーダーの敵討ちをしようとする人はいないようだ。

 その辺りは、魔族に比べてやりやすくていいな。あいつら、命を投げ打ってでも突っ込んできたからな……。


「お兄様、終わりでいいですか!?」

「ああ、これで終わりだ。それじゃあ、締めの挨拶頼むな。俺、ドロップしたアイテム回収してくから」


 結構いい装備が落ちてる。特にリーダーのカツキが色々アイテムを持っていたようなので、忘れないように回収だ。


「は、はい! えーと、そういうわけでお兄様と『アサシンブレイク』の戦いをお送りしました……実況は、私ルルラが務めました。それでは、皆さん、ありがとうございました! ばいばーい」


 笑顔とともに彼女が手を振ったのを見たところで、分身が配信を終了した。

 最終的な同接数は、35000人か。

 まあ、十分か?

 登録者数ももうすぐ十万人にいきそうだし、これもルルラのおかげだな。


「ルルラ、何か食べたいものあるか?」

「え? なんでですか?」

「いや、配信が調子良かったからな。食べ物じゃなくても欲しいものならなんでもいいぞ?」

「それじゃあ、お兄様の髪をください」

「……え? 食べるのか?」

「はい!」


 ……笑顔とともにこちらに顔を向けてきたルルラに、俺は初めて冗談を返せず、髪を一本あげてそれ以上突くことはしなかった。




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