第49話
すっかり、『アサシンブレイク』の活動が縮小したな。
……これは俺にやられるのを恐れて
いや、違うだろうな。
「ひょっとこ兄貴さん、でしたか」
すっと木の影から姿を見せたのは、半裸の男だ。
いや、ただ口元だけは忍びのような格好で姿を隠している。
隠すべき場所がもっとあるのではないだろうか?
「……へ、変態さんですか?」
ルルラが俺の首に抱きつきながら、声をあげると、彼は目元をにこりと微笑ませた。
ルルラを安心させるために笑ったのかもしれないが、さらにルルラは俺の首に強く抱きついてくる。
「やはり、ひょっとこ兄貴ですか。私は『マッスルーズ』の諜報員とでも言いましょうか」
「なるほどな、だからその格好か」
「お兄様、何がなるほどなんですか?」
「忍者をイメージしてるんだろうな」
「イメージが形になってないと思います!」
俺もそう思う。
「ご名答です。私は忍、さすが、ひょっとこ兄貴さん、話が早くて助かります」
「それで? 何の用事だ? 悪いがクランに入ってくれとかそういう話ならパスだぞ」
「違います。『アサシンブレイク』の件です」
「俺に襲撃する作戦でも立ててたか?」
俺が問いかけると、彼は少し驚いたように目を見開いた。
「まさか、あなたもスパイを使っていたのですか?」
「いや、そうじゃない。明らかにPKの数が減ってるだろ? だから、準備でもしてんのかと思ってな」
「……それだけで判断したのですか?」
「いや? 『アサシンブレイク』のリーダーさんについて、ネットを徘徊して調べたんだよ。もともと、別ゲームのトッププレイヤーでかなり稼いでたんだろ?」
「ええ。『トラップオンライン』というゲームでは最大手のPKクランでした」
「みたいだな。年齢も当時は大学生、過去の言動やたまに行われる『アサシンブレイク』での配信を見てみても、かなりプライドの高そうなやつだからな。そいつが、ちょっと一方的にやられたくらいで大人しくやめると思うか?」
「……そう、ですね」
「そういうわけだ。そんでもって、運営からのお知らせがきてから明らかにPKの様子も変わった。俺に舐められないようなのか、悟られないようなのか分からんが、最低限だけPKをしているが、それも全力じゃなくて下っ端も下っ端を使ってるだけだ。装備品も取られてもいいようなものしか使ってないしな。そこまでやってたら、メンテ前に最後仕掛けてくるんじゃないかって予想できたわけだ」
「……あなた、ゲームしながらそこまで調べたんですか?」
「ん? まあな」
ゲームしてないやつらが、な。
外にいる分身たちにスマホとパソコンを使って調べてもらった情報だ。
その合間に、ルルラのショート動画もあげている。
こいつも一コンテンツとして注目されているようなので、そこまで登録者数は増えないが仕方なくやっている。
「今はPKもほとんど収まってるし、しばらくは『マッスルーズ』と『ハムストリングス』に任せてもいいか? 俺も義妹のために新しい装備を集めたいんでな」
「……分かりました。しばらくは引き受けましょう。確認ですが、『アサシンブレイク』の襲撃作戦にはどう対応するつもりなんですか?」
「え? 正面から受けて立つつもりだが?」
「…………本気ですか?」
「ああ本気だ。下手に手を出すなよ? その日は初配信もしてみようと思ってるんでな。いいコンテンツになりそうじゃないか?」
俺が笑顔とともにそういうと、彼は引き攣った笑みを浮かべた。
「……そう、ですね。もしも援軍が必要であれば私に連絡してください。あっ、フレンド登録いいですか?」
「おお、いいぞ」
『ネタギ』からフレンド申請がきたので、受け入れる。
もしかしたらどこかで何かの協力を頼む可能性もあるからな。
俺との会話を終えると、彼は【ワープ】を使用し去っていった。
……いつの間に、うちの店を使っていたんだか。
「お兄様……本当に一人で大丈夫ですか?」
「一人じゃないだろ? ルルラがいるじゃないか」
「お、お兄様……っ! わ、私応援頑張りますね!」
「いや、静かにしてくれるだけでいいからな?」
「え? それって別に私いてもいなくても変わらない……?」
「いや、配信するときにルルラがいるだけでたぶん視聴数稼げるからな。俺は戦闘に集中するから、戦闘の解説とか視聴者へのアピールは任せたぞ」
「うえ!? そっち!?」
当たり前だ。
俺は別にトーク力があるわけではないからな。ただ、ネットを見た限り、可愛い女の子が一生懸命何かをしている姿というのは、それだけで一つのコンテンツになるようだからな。
なので、ルルラに全て任せるというわけだ。
とりあえず、現在登録者数は八万人。
最初にあげたチュートリアルの動画は、もう三十万再生を超えてるな……。
次にあげた『アサシンブレイク』の動画も同じように順調に再生数を伸ばしている。
むしろ、ペースとしてはこちらの方が早い。
たぶんだが、今『アサシンブレイク』とか『PK』とか『PK対策』みたいな言葉がよく検索されているようで、俺の動画にもそれらの単語が使われていたからだと思う。
これは完全に勢いに乗れたってことでいいよな?
ショートのほうが再生回数は回るようだ。適当な音楽に合わせ、ルルラの可愛らしい姿を映しているだけなのだが、再生回数はすでに百万を超えている。
これの理由は単純で、日本だけじゃなくて海外でも見られているからだ。
もしかしたら、解説動画とかも英語とか使ったら再生数が伸びるかもしれないな?
まあ、動画は基本日本語で作りつつ、字幕の設定があるのでそこで各国の字幕もつけてみるか。
これで、多少は海外の人にも見てもらえるかもしれないからな。
早速、分身に字幕の管理を指示しないとな。
それが終わったら、舞のために装備品集めに行かないとな。
―――――――――――
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆やフォローをしていただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます