第48話
「お兄様、どうしたの?」
「ああ。なんか、運営からお知らせが来ててな。なんでも、PKの対策をしてくれるらしい」
「それってつまり、もうお兄様が異邦人さんを攻撃しなくてもいいってことですか?」
「そういうわけだな。ちっ」
「な、なんでそこで舌打ちするんですか?」
「いや、結構金稼ぎになってたからなぁ」
「……お兄様も雑魚狩り楽しんでるんですか?」
「雑魚って、ルルラも酷いこというな?」
「ち、違います……っ! そういう意味じゃなくてですね……!」
「俺だってそうだぞ? 別に金稼ぎはできるし、感謝はされるし、登録者数も増えるし、まだしばらくこのままでいいとか思ってないぞ?」
「……思ってますよね?」
「よし、あと一日! 平和を守るために雑魚狩り頑張るぞー!」
「言った! お兄様も言いました!」
俺が歩き出すと、ルルラは慌てた様子で俺の後を追って飛んでくる。
すでに目撃情報はかなり減っているようで、もう正直言ってこの辺りで戦闘をする意味もなくなってきてしまった。
ただ、埋まっていなかったマップ埋めや、倒していなかった魔物を狩りまくっての称号獲得なども進められたので、全く無駄ということもないんだけど。
緊急メンテナンスの日は休みの日になりそうだな。
日本に戻ってからこのゲームしかしていないし、久しぶりに外に出るのも悪くないかもしれないな。
『アサシンブレイク』たちは、アンタレスの街の裏路地に集まっていた。
この場所には、空き家がいくつもあり、家として使うことはできないのだが、彼らはそこをアジトとして使っていた。
その一つの建物で、リーダーたちは作戦会議を開いていた。
「リーダー……部下たちがまたひょっとこ兄貴にまたやられました」
「……相手のスキルは判明したのか?」
「い、いえ……まったく」
「ちっ、使えねぇな!」
リーダーが苛立ったように声をあげると、皆がびくりと肩を跳ね上げる。
「とりあえず、初心者狩りまくってゴールド稼ぐ予定がなんだよこれ? 最近じゃほとんど失ってんじゃねぇかおい」
「……そ、そうっすね」
「オレの今月のタワマンの家賃、どうするんだ? ああ? 『リトル・ブレイブ・オンライン』が発売してから、急速に過疎化した『トラップオンライン』にもどれってか?」
『トラップオンライン』は約一年ほど前に発売したオンラインゲームだ。
当時では確かなクオリティはあったのだが、いかんせんクオリティは『リトル・ブレイブ・オンライン』に比べるとかなり劣る。
今回の『リトル・ブレイブ・オンライン』に比べると似たようなゲーム性でありながら質が悪いのだから、多くのプレイヤーがこちらに移ってしまった。
すでに、ゲーム内通貨やアイテムなどは二束三文まで値段が落ちてしまっていた。
『アサシンブレイク』のリーダーカツキは『トラップオンライン』で一気に有名になり、そちらでもPKを行って荒稼ぎを行っていた。
稼げなくなると分かっていた彼は、メンバーたちに声をかけ、『リトル・ブレイブ・オンライン』へと移動し、すぐに初心者狩りで稼げることに気づいたのだが――それは一瞬。
すでに、獲得したゴールドと失ったゴールドはほとんど変わらない。
確かに、所持ゴールドやアイテムは最低限にできるとはいえ、身につけていた装備品などはPKKされたときに落としてしまうため、下手をすれば赤字の状態だ。
「ちっ、『マッスルーズ』と『ハムストリングス』だけならよかったってのによぉ……ひょっとこ兄貴が目障りなんだよな」
爪を噛みながら、カツキはぶつぶつと呟く。
このゲームではそんなカツキのピリついた空気までも再現していて、周囲にいた部下たちは怯え始める。
「り、リーダー……どうするんですか?」
「まあ、この稼ぎがいつまでもできるとは思ってねぇからな。どうせ運営も動いてるだろうし……手を引くってのもありだが――だからってやられっぱなしはつまらねぇよな?」
ここでPKを行わないとなれば、それはつまり、敗北宣言と同じだ。
カツキには、『トラップオンライン』でトッププレイヤーとして君臨していた自分の才能に絶対の自信があった。
「オレはこれでも、喧嘩に関しては負けなしなもんでな。たかがゲームだろうとも、負けるわけにはいかねぇんだよ」
「……つまり、どうするんですか?」
「最後に一発、どでかい花火を打ち上げようじゃねぇか」
カツキは笑みを浮かべ、集まっていたメンバーに声をかける。
「――ひょっとこ兄貴をPKするぞおまえら」
明日。メンテナンスが行われる前に、ひょっとこ兄貴をPKすることができれば、それはすなわちカツキたちにとっては最高の形でメンテナンスを迎えられることになる。
「これからメンバー全員でひょっとこ兄貴をやる準備に入る。PK活動は最低限にして、全員全力でレベル上げを開始しろ!」
カツキの命令に、メンバーたちからは歓喜の声が上がった。
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