第36話


「く、そが!」


 迫ってきていた男二人が、同時に剣を振り抜いてきた。

 ……連携、というほどの連携じゃないな。

 俺はインベントリから取り出した短剣を握りしめ、それらの攻撃を捌いていく。


「どうした! 防戦一方じゃねぇか、【スラッシュ】――」


 男が放ったスキルに合わせ、俺もスキルを合わせる。

 ――パリィ。


「が!?」


 攻撃を弾いてやった。この程度、初見でも余裕でカウンターできるな。

 やはり、攻撃系のスキルは挙動がわかりやすいな。

 パリィによって弾かれた男が、隙だらけとなったので仕留めようと短剣を構えると、


「こっちに、まだいるぞ!」


 まだ無事な一人が背後から剣を突き出してくる。

 俺はそれをギリギリまで引きつけてから、かわした。

 突き出された剣を、男は慌てて止めようとしたが俺は笑顔とともにその背中を押した。


「ぐあああ!?」


 結果。同士討ち。仲間の剣を胸に受け、パリィで行動不能だった男は倒れた。


「おっ、 PKKおめでとう!」

「てめ……っ!」


 怒りに任せて振り抜かれた剣を、短剣の腹で撫でるように上方へ弾き、左の短剣で喉をかっさばいてやった。

 【致命的な一撃】で見つけた、急所だ。一撃で仕留めると、最初に矢を受けた男が突っ込んできた。

 さらに、矢を構える男がいた。家を構えている方角は、俺ではなく空城院のほうだ。

 あー、対人戦が楽しくてついつい離れちゃったな。


「せめて、あいつだけでも……!」


 そう言いながら、矢が放たれる。

 俺はその軌道に合わせて短剣を放り投げる。

 キンッと金属音が響き、矢を弾き落とす。


「……え!?」


 弓使いの男が驚いたような声をあげている。

 俺がそちらに視線を向けると、突っ込んできた男が剣をかまえる。


「よそみしてんじゃねぇぞ!」


 見てなくても、分かるんだよ。

 動きに無駄がありすぎて、音が聞こえる。足捌き、剣を構えたときの挙動。


 ……この程度、耳さえあればいくらでも対応できる。

 短剣で受け流しながら,インベントリからもう一本短剣を取り出す。

 近場で撃ち合ったのは数秒。男の剣を弾き飛ばし、その首を交差させた短剣で切り裂いた。


 男は倒れ、体が消滅する。

 俺が視線を弓使いに向けて微笑むと、


「ひ、ひぃぃぃ!」


 悲鳴を上げ、背中を向けて走り出す。

 逃すと思っているのか?

 その背中を追いながら、俺はそのふくらはぎに短剣を投げつけた。


「ぐあ!?」


 一撃で仕留めきれなかったが、男は派手に転んだ。

 リアルならば、足の腱にダメージがあるだろう場所を狙ったので……まともに動くことはできないだろう。

 俺は涙を流しながら震えている弓使いににこりと微笑む。


「おまえ、配信してんのか?」

「……は、はい……っ」

「おっ、それならちょっと使わせてくれ。そしたら見逃してやるからよ」


 俺はそう言って弓使いの腹を踏みつけながら、ひょっとこの顔を弓使いに近づける。

 なんか、めっちゃ怖がっているようでガタガタ震えている。


「ああ、どうも視聴者さん。ひょっとこ兄貴です。そのうち俺も配信するから、よろしくな。あと、キリキリマイっていうVTuberがいるんだけど、俺の妹で超絶可愛いから登録しておけよ。んじゃ、宣伝できたんで、じゃあな」

「……え? み、見逃してくれるって!」

「え? そんなこと言ったっけ? じゃあ前言撤回で!」


 にこりと微笑んでから、俺はその首をはねるように短剣を振り抜いた。

 よし、これで宣伝には十分だ。

 俺はドロップしたアイテムとたんまり手に入ったゴールドを回収し、満足していた。




「お兄様……すごかったです……! ばーってやって、首が飛ぶところとか、興奮しました……っ」

「え? 首が飛ぶところに?」

「はい……っ! 綺麗でした!」

「……」


 首が飛ぶ、といっても斬りつけた瞬間に消滅するようになっているのだが……ルルラは興奮した様子で叫んでいる。

 そこで興奮するのは、危険な匂いがするが俺は触れないでおいた。



「さて……えーと、空城院? 大丈夫か?」

「……うえ? う、うん。大丈夫、だけど……」


 なんだか彼女は呆けた様子でこちらを見ていた。

 もしかして、ビビられてる?


「大丈夫だ。PKKはするけど、PKはしないからな。安心してくれ」

「……あっ。ありがとね……助けてくれて。友達と一緒にやってたんだけど、その……先にやられちゃって……」

「あ? 友達とやってたのか?」

「う、うん……その私たちも、VTuberで『メニーフレンド』っていう事務所に所属してて……二人で配信してたんだけど、さっきの奴らに襲われちゃって……」


 なるほどなぁ。

 さすがに話題のゲームだし、みんなやってるんだな。

 そんでもって、配信しながらやってるもんだから、ああいう輩に狙われる、と。


「不運だったな、狙われて」

「……売名目的、だったんだと思う、かな?」

「まあ、何もなくて良かったな」


 いや、何かはあったか。

 お友達はやられてしまったわけで、もしかしたらドロップしたアイテムの中にあるかもしれないな。


「この中にその子の装備はあるのか? ゴールドはどんくらい取られた?」

「……え? あー、これかな?」


 剣と盾が一つずつだ。まだ始めたばかりではあるが、魔物からドロップしたのかちょっといい装備ではある。

 あと、ゴールドも10000ゴールドほど。恐らく、チュートリアルクリアでもらったあと、スキルブックを購入して残った分とかだろう。


「それなら、これは友達に渡しておいてくれ」




―――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!



楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆やフォローをしていただけると嬉しいです!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る