第28話
前は正面からやりあっていたのだが、これは非常に便利だな。雑魚モンスター程度なら、これで無双できるんじゃないだろうか?
少なくとも、不意打ちにはこのスキルがかなり重要だな。
他にも汎用スキルでこの一撃必殺を強化できるようなものがあればいいのだが、それは今後の【暗殺者】のスキル次第かな?
今のままでも特に問題はないので、俺はそのまま魔物を倒して進んでいく。
特に大きな問題なく南の森を抜けると、何やら雰囲気の違う森に到着した。
マップを開いてみると、妖精の森と書かれていた。
どうやら、ここは街と同じ扱いのようだな。【ワープ】に登録されている。
仄かに光が差し込んでいる妖精の森は、神秘的な力を感じる。
何もいないな。
今は妖精たちはいないのだろうか? そんなことを考えていると、近くの木の穴からひょこりと顔を見せた。
「あっ、人間さんじゃん」
「え? マジで?」
「どしたん、何しにきたのー?」
「わー、変な仮面ー!」
「おお、久しぶりだー!」
……様々な妖精たちが近くの木々の中から姿を見せてきた。
こいつらが、フェアリーか。こちらに飛んできたフェアリーが、俺の近くを飛ぶわ、耳を引っ張ってくるわと色々やってくる。
モテモテだ。きっと俺の美貌に惚れたんだろう。
仮面を剥がそうとするやつもいたので、俺がそのフェアリーの首ねっこを人差し指と親指で掴んだ。
「俺はここに俺と契約を結んでくれるやつを探しにきたんだよ。誰か、契約してくれるやついるか?」
「え? 人間さん、契約してくれんの?」
「それなら、契約したいフェアリーに声をかけてみてよ! その子がオッケーだしたら、力を貸してあげるよ!」
……なるほどな。
「んじゃあ、全員の力を借りたいって言ったら皆俺と契約してくれるのか?」
「えぇ、浮気宣言?」
「そもそも、付き合うわけじゃないんだが?」
「だとしても、ダメー。今のあなたのレベルだと私たちと契約できるのは一人だけだよ」
レベル、か。もしかしたらまた転職でもしたら契約できる数が増えるのかもしれない。
とりあえず、フェアリーを厳選するか。
ずらりと飛んでいる子たちを見る。人懐こい子は目が合うと手を振ってくる。あら可愛いわね。俺も手を振り返しつつ、物色開始。
フェアリーは男女でいるようだ。
ふむ……どの子にするか。どうせなら女性の方がいいな女性のほうが。
男女平等に気に入られるのは可愛い男の子よりも可愛い女の子だろう。
ぶっちゃけ、どの子でもいいのだが……フェアリーたちって能力に差はあるのだろうか。
ありそうだな……。なんか、内気っぽい子とずっとついてくる子とがいる。
お店の店員を任せるなら、こっちの明るい子のほうが良さそうだが……
「わーちょうちょ!」
俺の近くを飛んで遊んでいるような人懐こい子は集中力がない。
……ちゃんと命令すれば仕事してくれるのかもしれないが、もしもある程度訓練する必要があるとかだったら面倒だぞ。
誰にするか……。
もういっそのこと、こちらから聞いてみるのも良いかもしれないな。
「よし。おまえらの中で俺についてきてお店の店員をやりたい奴はいるか? 早いもんがちだぞ!」
たまに戦闘についてきてもらうことはあるが、あくまでサポートキャラっぽいので、そもそもそれほどの戦力はないだろう。
だからまあ、店番をしっかりやってくれればそれでいい。
「はいはーい! あたしやりたいでーす!」
「ウチもー!」
……返事をしてきたのはなんかみんなあまり集中力のない子たちだ。
手を挙げつつも、近くを蝶が飛んでいくとそっちに向かっていってしまった。
俺としては真面目に店番してくれる子がいいのだが、どうだろうか。
そう思っていると、モジモジと後ろの方にいたフェアリーの子が小さく手を上げていることに気づいた。
フェアリーの中だと、珍しい内気タイプのようだ。
この子はひとめみて、びびっと来た。俺の勇者としての勘が告げている。
この子は相性がいいかも。
でも、あそこまでだと店番を任せていいのかと不安もある。
「そこの子、名前はなんていうんだ?」
「うえ!? ……えーっと、ルルラ、っていいます」
俺はルルラと名乗ったフェアリーをじっとみる。
前髪が長く、目元が隠れたその子はもじもじとした様子でこちらを見てきている。
正直、接客業を任せるにはあまり向いてなさそうな雰囲気だが……俺の考えている店は、別にキャッチのようなことをお願いするわけじゃない。
『リトル・ブレイブ・オンライン』は日々、たくさんのプレイヤーが増えている。
店売りの武器が微妙で、まだ鍛冶師が出てきていない今のタイミングであれば、武器を売ってくれる店というだけで客はいくらでも集まる。
俺が掲示板で宣伝すれば、今なら即売り切れになるくらいにはなるだろう。
だからまあ、最低限接客できればそれでいい。ルルラは他のフェアリーと比較して、最初から敬語を使えている部分もプラスだ。
「俺はしばらくの間、武器屋の管理をしたいと思っているんだが、できそうか?」
「……は、はい。やって、みたいです……っ」
「かなり内気っぽく見えるけど、大丈夫か?」
「……そ、それを、克服、したいんです……っ」
「……なるほどな。うちの店をその練習台に選ぶとはいい度胸だな」
「ひっ!? す、すみません……っ!」
「その意気やよし!」
「ひっ!?」
「客の相手は異邦人になる。丁寧にやってれば、大きな問題はないだろうから頑張ってくれ」
「じゃ、じゃあ……契約してくれるんですか!?」
ぱっと目を輝かせる。
どうやら、ルルラの契約条件はもう満たしているようだ。
「ああ、よろしく頼む」
俺がそういうと、ルルラは笑顔とともにこくりと頷いた。
この笑顔があれば、問題ないだろう。
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