第4話
久しぶりに舞とともに、遊びに行った。
一緒に食事を食べ、ちょっとウィンドウショッピングをして、ゲームを購入して帰宅だ。
我が家にはVRマシンが二台あるらしく、問題ないそうだ。
家に着いたところで、舞はパシャっとゲームのパッケージを写してからスマホを弄っていた。
「へへ、兄貴と一緒にゲーム買いにいったよ、と!」
「何してるんだ?」
「あっ、あたし今VTuberで活動してるでしょ? そっちのアカウントに投稿してるんだ。うちの事務所、このゲームの宣伝担当だしね」
……あれ? VTuber?
その存在は知っていたが、俺が知っている舞は普通の配信者だったような気がするが……。
まあ、なんでもいいか。
舞は天才でキュートだからな。笑顔を浮かべている彼女に、納得していると俺は少しがっかりしてしまう。
「ってことは、明日は配信するから一緒にはできないのか……」
できれば、一緒にやりたかった。
そして、舞のためにアイテムを貢ぎ、喜ぶ姿が見たかった……。
「いやでも兄貴もそのうち一緒にやればいいんだよ! あたしのリスナーたち兄貴のこと知ってるし!」
「え? マジで?」
「うん! あっ、でも……明日は事務所の子と一緒にやるから、それ終わってからとかになるから……あぁ、兄貴とやりたいけどやれる時間が……」
「いや、無理するなって。そっちを大事にしろって。俺とはいつでもできるだろ?」
残念だけど、舞には舞のコミュニティがあるんだ……。
そりゃあ、俺のナンバーワンは舞だけど、舞のナンバーワンがたくさんあることも理解している。
それを押し除けるほど、お兄ちゃんも野暮ではない。
舞も残念そうだけど、それから笑顔を浮かべる。
「と、とりあえずしばらくは配信スケジュールがキツキツだけど、落ち着いたら一緒にやろうね兄貴!」
「ああ、楽しみにしてる」
『リトル・ブレイブ・オンライン』のサービス開始は明日からだ。
舞はめちゃくちゃ楽しみにしているようなので、俺としても楽しみだ。
舞はあんまりゲームが得意じゃなくて、昔から俺がサポートしてあげていたものだ。
今回も同じようにサポートしてあげるつもりなのだが、その前に、舞のVTuberとやらについて調べてみるか。
……色々と調べたところ、舞は有名なVTuber事務所『ディメンション』に所属している登録者数20万人ほどの人気ライバーであることが分かった。
キリキリマイ、という名前で活動している子で皆からはマイ、と呼ばれているらしい。
舞の見た目に似た雰囲気のモデルの子で、俺は急いでその過去配信を確認していく。
パソコンを使い、倍速以上で複数の配信を同時に聞いていく。
このくらいは、異世界転移してから身につけた技術だ。聖徳太子もびっくりなくらいに聞き分ける能力がある。
……活動開始したのは俺が引きこもった直後くらいだ。
活動を開始した理由は、引きこもりの兄貴を養うため……とのことらしい。
「将来、もしも兄貴がずっと引きこもっても、あたしが養う!」と宣言していたらしい。
それだけ聞くと、お兄ちゃんが凄いクズみたいに聞こえるし、実際リスナーたちもそうおもっていたらしい。
最初のうちは、「引きこもりの兄貴クソw」みたいな感じだったらしいが、その引きこもった原因について舞が話したところ、今ではリスナー全員が俺と舞を応援してくれているらしい。
……なるほどな。俺が舞のリスナーに知られている理由はこれか。
ここ一年分ほどの配信すべてを確認しながら、俺は影魔法で影を操り部屋の掃除も完璧に終えた。
すべて確認したところで、よくみるとちょうど舞が明日に向けての配信を行っていた。
試しに覗いてみると、視聴者が一万人ほどいて……かなり人気なんだろうことが分かった。
『それで、兄貴が部屋から出てきてくれたんだ!』
嬉しそうに舞は語っていて、コメント欄も大盛り上がりだ。
〈兄貴……引きこもり改善したのか……!〉
〈良かったなぁ……マイちゃん。ずっと心配してたもんな〉
〈……ゲームきっかけでもなんでもいい。好きなことから始めて元気になってくれたらいいな〉
〈兄貴! 俺たちも味方だからな!〉
そんな温かいコメントが送られていて、舞は涙ぐみながら頷いている。
……おい、女神! おまえのせいで俺を心配している奴らがめちゃくちゃいるじゃねぇかよ!
舞にはもちろん、舞のリスナーたちも騙しているような気がしてとても申し訳がない。
……とはいえ、さすがに異世界転移していましたー、なんて言うことはしたくないしな。
能力はあるので信じてもらえるかもしれないが、ヤベェやつとして一生注目されるだろう……。
とりあえず、舞のチャンネルは登録し、高評価を押しながら、その配信を楽しんだ。
やることいっぱいだぞ……。舞のグッズを揃えないと……でも、金を稼ぐ手段もないぞ……。
異世界ならドラゴンでも狩ればよかったのだが、この世界にドラゴンはいないもんな。
指名手配されてる奴らでも片っ端から見つけ出して警察に突き出すとか?
それはそれで稼げるかもしれないが、ちょっと面倒だな。
他に何か稼ぐ手段があればいいのだが……。
『ディメンション』の公式サイトにいけば、シチュエーションボイスとかなんかこう色々と欲しいものがたくさんあるし……どうすればいいんだ。
……次の日。
昨日の夜は、大変だった。
父と義母が仕事から帰ってきたので、俺が「よっ」と出迎えると二人に泣きながら抱きつかれてしまった。
心配されて、色々と照れ臭かったものだ。
とりあえず、いつものように女神には愚痴をぶつけておいた。
まったく。あいつのせいでどれだけの人が俺の心配をしているんだか……。
ため息を吐きながらも、俺は今日サービス開始の『リトル・ブレイブ・オンライン』を始めるためVRカプセルに入った。
……このVRマシンが発売されたのは、俺が異世界転移をするちょっと前だ。
当時は感動したものだが、長らく操作していなかったので細かいことは忘れてしまった。
説明書が脇に置かれていて、俺はさっと目を通してすべて理解する。
異世界行ってからスペックあがったからな。
「VRMMOか」
昔はそれはもう期待していた。
ただ、異世界に転移してからは……それほどの憧れはないんだよな。
でも、舞が「あとで一緒にやろうね、兄貴!」とハイテンションだったのでそれはもう全力で楽しむつもりだ。
一年間、会えなかったのだからこれからはそれはもう舞を甘やかすつもりだ。
さて、そろそろか。
本物の異世界を経験した俺が、仮想現実を評価してやるとしようか。
俺はヘッドギアを装備して、目を閉じた。
―――――――――――
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