第3話
引きこもっていたのはどうやら確定のようだが、それには舞が関わっている?
舞が可愛すぎて家に引き篭もる選択をしてしまったのか?
だとしたら少し納得。
今の俺も同じ心境である。このまま、舞を抱きしめたまま一生を過ごせればどれだけ幸せなのだろうか……。
「舞は悪くないだろ? えーと……仕方ないんじゃないか?」
「……でも、あたしがあそこであいつらに絡まれなかったら……あいつらをどうにかできてたら、兄貴が引き篭もる必要もなかったし……」
あいつらに絡まれなかったら?
……舞が誰かに絡まれて、それが俺の引き篭もる原因になってしまった?
「でもまあ、舞は関係ないだろ?」
「あたしが塾なんか行ってなかったら、兄貴があんな不良たちに絡まれなくて済んだでしょ? 全部、あたしが悪いんだよ……っ!」
わーん! ともう一度泣き出してしまった舞を、俺は優しく受け止めた。
それから、泣いてしまっていた舞を宥めつつ、俺はそれとなーく、舞から情報を引き出した。
まとめると、俺が引きこもった理由は簡単だ。
1、舞が通っていた塾の帰り道、不良に絡まれる。
2、帰りが遅くなる日、俺は舞を迎えに行っていたのだが、そこで不良に絡まれている舞を助けに向かう。
3、ボコられる。
4、そこで色々と精神的苦痛を受け、俺引き篭もる。
らしい。
よく勇者補正のない体で舞を守ったな俺と思いつつも、色々女神に不満もある。
とにかく、そんなこんなで一年ほどがたち……舞の受験も無事終了。
今はちょうど春休みらしい。
「まあ、もう気にしてないから。泣くなって」
「……兄貴ぃ」
まだ舞はぐすぐすと泣いていた。
……ちなみに、舞がヤンキーみたいな見た目になっているのは、舐められないようにらしい。
いや、それはそれでそういう不良みたいなやつに絡まれるのでは? とは思ったが今のところは問題ないそうだ。
あと、舞も志望校にちゃんと合格しているらしい。今年から俺と同じ学校に通うことになっている。
ていうか。
おい! 女神!
俺がそんな程度のことで引き篭もるかボケがァ!
舞が悲しむようなことは絶対にしないってんだよ! ふざけんな! 俺の一年間をちゃんと管理しやがれ!
舞にヨシヨシしながら、内心ブチギレておいた。
あの女神のことだ。俺を引きこもりにしておくのが何か都合が良かったんだろう。
確かに、丸々一年引きこもっていたのなら、学校に籍を残していれば、留年にはなるが無事日本の生活に戻せるわけではあるので……まあ、悪くないのかも?
「あっ! そういえば、兄貴! 今日『リトル・ブレイブ・オンライン』の発売日だよ!」
「……『リトル・ブレイブ・オンライン』?」
「そうだよ! ほら、VRMMOの! 忘れちゃったの!?」
……あー、確か俺が異世界転移させられる前にそんな話があったかもしれない。
今となっては、リアルで異世界を体験してきたので、それほどVRMMOに興味はなかったのだが、
「あたし、配信でめっちゃやるって話してるからさ! お兄ちゃん一緒に買いに行こうよ!」
「よし行くぞ!」
配信かぁ。そういえば、舞は中学生のときから配信活動をしていたなぁ。
まだ困惑していることはあるけど、舞の頼みを断るわけにはいかない。
俺は笑顔の舞とともに家を出たのだが。
「おう……久しぶりじゃねぇか」
家を出てすぐ、俺たちの背後からそんな声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには明らかに不良っぽい見た目の男二名がいた。
誰だこいつら?
疑問に感じていると、手を握っていた舞から震えが伝わる。
舞を震源地とした地震でなければ、彼女が恐怖によって震えているわけで……誰の舞を怯えさせてやがんだって話だ。
「あ、兄貴……こ、こいつら……兄貴をボコボコにした……」
「俺が引きこもった原因の奴らか?」
「う、うん……少年院に入ったとかって聞いてたけど……」
舞がガタガタと震えながらそう言った。
不良たちはニヤリと笑みを浮かべ、拳を鳴らす。
「ああ。てめぇのせいで、しばらく自由がなくってよぉ」
「ちょっと、鬱憤ばらしに付き合ってくれよ」
……なるほどね。
こいつらが原因で舞は今も、怯えているんだよな。
俺は小さく息を吐いてから、不良たちを見る。
隙だらけすぎるな。
こいつらが原因で俺が一年間も引きこもっていたとか聞いたらムカついてきてしまった。
異世界で一番弱いというゴブリンのほうが、まだこいつらよりも強いだろうな。
さて、ちょうどいい。
この体を試してみるとするか。
女神からは「元の体には戻せません、ごめんなさい」と言われていたからな。
「こっちも、舞をここまで悲しませるクソ野郎に用事があってな。ほら来いよ馬鹿ども。叩き潰してやるよ」
「……ああ!?」
「今度はぶっ殺してやるよ!!」
叫んで突っ込んできた男たちだが、あまりにも遅すぎる。
まずは舞を後ろに下げるため、俺が一歩前に出る。
長身の男が拳を振り抜いてくる。
……遅い。
拳をかわしながら、俺は彼の目に両指をぶつける。
軽めの目潰し。だが、効果抜群。
「ぐわ!?」
悲鳴をあげてその場で倒れた男は無視しして、俺はもう一人の拳を片手で掴んだ。
そして、握力で握りつぶす。
「があああ!? は、離せ!」
……こちとら、異世界で鍛えた補正があるんでな。
骨が折れない程度に加減してやったが、痛みで男は動けないようだ。
隙だらけのその体を蹴り飛ばす。
転がった男たちがよろよろと立ち上がるが、俺は笑顔とともに近づいていく。
「あ、兄貴……?」
舞が驚いたようにこちらを見てくる。
……まあ、舞からしたら俺はただ一年間引きこもっていただけだからな。
驚いた舞の顔はとても可愛いのだが、やりすぎて怯えられたらお兄ちゃん泣いちゃう。
「て、てめぇ……!」
「……舐めんじゃねぇぞ!」
長身の男が、隠していたナイフを取り出す。
そんなもんまで持ってんのかよ。やべぇなこいつら。
男は武器を持ったからか、その顔には勝ちを確信した笑みが浮かべられている。
武器一つでそんな変わるものかってんだ。なんなら、こっちもインベントリから短剣とりだしてやろうか? あ?
銃刀法違反でしょっぴかれたくはないので、行動には移さないが。
「死ねや!」
思い切り踏み込んでくるが、あまりにも軌道が予測しやすかった。
別にこの程度のナイフ、回避する必要もないのだが……ここには舞がいるからな。
ショッキングな光景は見せたくない。
男の手首を掴みながら、俺はそいつの顔面に膝を叩き込んだ。
「ぶべ!?」
よろめいてから倒れた男はナイフを手からこぼした。
俺が倒れた男に近づくと、男たちは完全に力の差を理解したようで、怯えた様子で叫んだ。
「オレたちのバックには、あの『死鷹』がついてんだぞ!」
「『しだか?』」
「あ、ああ! そうだぞ! この辺をまとめてる、半グレのチームだよ! おまえ、オレたちに手なんか出してみろ! 殺されるぞ!」
自分の力ではどうにもならないと分かったからか、今度は別のものに頼るのか。
情けねぇな。
「へぇ、じゃあ全員連れてこいよ。全員叩き潰してやるけど?」
「……へ?」
「ほら、スマホ使っていいぞ? さっさと連絡して仲間を呼べよ。いい経験値稼ぎになるからな」
おっと、こいつらはモンスターじゃないか。
異世界では、仲間を呼ぶ魔物をいたぶってひたすら鍛えていた日もあったので、悪いクセが出てしまった。
呼び出すように言ったのだが、男はガタガタと震えたままだ。スマホを取り出す様子はない。
俺は小さく息を吐いてから、彼に問いかける。
「おまえ、下っ端も下っ端だろ?」
「……え?」
俺の言葉に、彼は顔をひくつかせた。
「さっきの叫んだ時の表情からなんとなく分かったんだよ。おまえ、別にその半グレたちを呼べるほどの信頼とかないんだろ?」
こちとら、色々な人間と関わってきたからな。表情の機微はすぐに理解できる。
顔を青ざめた男たちの目の前でしゃがんだ俺は、男が持っていたナイフを手にとってから、笑顔を向ける。
「おまえら……俺の大事なモンに手を出すっていうのなら、これ以上は加減できないけど、どうする?」
そう言いながら、俺はナイフを片手で握り潰した。
一切出血などはしない。この程度のナイフなら、握り潰せるくらい俺は異世界で鍛えさせられたからな。マジ死ね女神。
俺の威嚇を見て、男たちは完全に怯えたようでその場で漏らしていた。
「す、すみません……! も、もう何もしないので命だけは!」
「おう。それなら見逃してやる。次はないけどな?」
「……は、はい……! すみませんでした!」
「おう。これからは真っ当に生きろよ?」
俺は怯えた様子で逃げていく男たちを、笑顔で見送った。
一応、魔法で彼らにマーキングはしておいた。いつでも潰せるようにな。
まあ、何もしないなら本当にこれ以上干渉するつもりはない。
俺が振り返ると、舞が驚いたように目を見開いていた。
……怯えさせてしまっただろうか?
「えーと、舞……」
「あ、兄貴……かっけぇ!」
舞に声をかけると、舞は目を輝かせながら俺の方にやってきた。
どうやら、大丈夫そうだ。
―――――――――――
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆やフォローをしていただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます