鬼彰 勁亮2話 鎖が繋ぐ戦いの終焉

「……」


店の外では依然として破壊音や悲鳴、獣のような雄叫びが鳴り響いていた。しかし、その音は勁亮にはもはや届かなかった。

目の前に横たわるのは、ついさっきまで冗談を交わしながら笑いあっていた「オヤジ」――店主として慕っていた人物が、無機質な物体となって横たわっている。

勁亮は目を見開き、信じられない現実に直面していた。何もできなかったわけではない。店の外の異変に気づき、違和感を抱いていた。だが、まさかこのようなことが起きるとは思わなかった。その「まさか」という気持ちが勁亮の判断を遅らせてしまった。


「……俺のせいだ……分かってたのに……」


勁亮は拳を強く握りしめ、歯を食いしばった。その時、ズシンズシンという地響きが近づいてくるのに気づいた。店の外では、さらに恐ろしい何かが近づいてきている。


「オヤジ……すぐ戻るんでちょっと待っててください」


勁亮は静かに立ち上がり、店主の身体を見つめた後、決意を固めた顔で扉を開けた。外に出ると、目の前には3メートルはゆうに超える巨大な怪物が二体、暴れていた。


「オーガロードにオーガキングか……」


巨大な怪物たちは、異世界ムアルヘオラで戦ったことがあるオーガたちだ。しかし、なぜここにいるのか、なぜこんなことが起きているのか、次々と疑問が頭をよぎる。しかし今は、目の前の敵に集中するしかない。


「ふぅ……」


勁亮は息を整え、戦闘態勢に入った。その瞬間、オーガロードが勁亮に気づき、巨体を揺らしながら襲いかかってきた。


「本物の鬼の怖さを教えてやる……」


勁亮の瞳に決意の光が宿る。彼は一歩前へ踏み出し、鋭い声で叫んだ。


「レゼク!オーガ!!」


勁亮の体が青白く発光し、赤いイナズマがバチバチと周囲に走る。瞬時に、オーガロードの巨大な拳が勁亮に向かって飛んできたが、勁亮はその拳の動きを見切り、すでにオーガロードの腹に移動していた。


「おせぇよ」


勁亮の拳がオーガロードの腹に突き刺さり、数百キログラムはあろう巨体が勢いよく吹き飛ばされ、後ろにいたオーガキングを巻き込みながら建物に衝突した。


「まだ寝るには早えーだろ」


土煙と瓦礫の中から二体の巨躯が姿を現す。たったの一撃で、オーガロードは痛みに呻き、オーガキングはその一撃の余波に驚愕していた。二体の怪物は、勁亮が自分たちを遥かに超える力を持つ存在だと気づき、恐怖の色を浮かべているようだった。

今度は二体が同時に勁亮に襲いかかる――瞬時に、勁亮はオーガキングを蹴り飛ばし、オーガロードと対峙した。


「まずはテメーだ、お前らが仕掛けたケンカなんだ、後悔すんなよ!!!」


オーガロードは堪らず、口から炎を噴き出した。だが、勁亮はその炎の中を突き進み、口内から貫く一撃を放つ。オーガロードの後頭部には大きな穴が空き、巨体が地面に崩れ落ちた。


「フン……あの世でオヤジに詫び入れろ」


オーガキングはその様子を見て、完全に心が折れたのか、尻尾を巻いて逃げ出した。


「情けねぇ、それでも最上位種かよ」


勁亮は逃げ出すオーガキングを見逃さず、瞬時に追いつき、再び追撃を与える。オーガキングはその衝撃で地面に叩きつけられ、もはや立ち上がる力も残されていなかった。


「悪いことしたんだ、ちゃんと皆に謝れよ」

「許してもらえるか知らねーけど」


勁亮はトドメを刺そうと拳を振り上げたその刹那、体に異変を感じた。


「な!?これは……力が抜けてく……!!」

「魔力切れか……!?」


彼にしか使えない身体強化魔法「レゼクオーガ」は、特に魔力消費が激しい魔法であったが、異世界ムアルヘオラでは大気中の豊富な魔素のおかげで、ほとんど気にする必要がなかった。そのため、異常な魔力消費の激しさに気づいていなかった。


「(ぐっっやばい!)」


勁亮の動きが鈍くなり、オーガキングはその異変に気づいて、再び反撃に転じた。勁亮は避けようとしたが、すでに魔力が尽きかけており、動きが間に合わない。


「(ダメだ!避けきれねぇ!!)」


諦めかけたその時、オーガキングの動きが突如止まった。


「魔封鎖縛陣!!(まふうさばくじん)」


勁亮の目の前には、無数の魔力による鎖がオーガキングを縛りつけ、完全に動けなくしていた。


「な……これは……」


何度も目にしたその魔法。それはあまりにも馴染み深いものだった。誰がこれを使ったのか――心の中で即座に答えが浮かぶ。驚きと共に、彼は反射的に後ろを振り返った。


「あっぶなー!ギリギリ!!」


その瞬間、聞き馴れた声が耳に飛び込んできた。勁亮の視線の先には、微笑みながら駆け寄ってくるその姿があった。彼の胸に安堵感と共に、戦友との再会に対する喜びが広がっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る