ゲーム神

@tsutanai_kouta

第1話

僕の古くからの友人に子供のまま大きくなったような男がいる。仮に”ジャイアン”と呼ぶこととするが、その仮名にふさわしく昔からガキ大将の暴君として君臨していた。そして僕ことノビタ(仮名)は子分みたいなポジションだった。大人になった今でもこの力関係は変わっていない。

彼は予告なしに僕の部屋を襲来し、こちらの都合お構いなしに酒宴、宿泊を強制する。逆に「俺様の部屋に遊び来い!ボエーッ」という電話で呼びつけられることもある。そうして大抵は酒を飲みながら、つまんない自慢話を聞かされたり、記憶に残らない雑談に終始することになるのだ。


今夜、僕はまたもやジャイアンに自室に呼びつけられた。何時も通り、中身のない雑談と缶ビールで時間を浪費する。

この日の自慢話は一昔前のアクションゲームの腕前についてだった。それはトレジャーハンターを操作し、遺跡やジャングルを舞台に財宝を見つけるゲームで映画化されたこともある人気シリーズだった。


ジャイアン曰く「このゲームで俺の右に出る者はイナイ」とのこと。そろそろ話のネタも尽きていた感があったので、僕は「少しゲームやってみせてよ」と水を向けた。どうせジャイアンの言う事は”フカシ”半分なんだ。彼がむきになってプレイする間に、僕は横になって寝てしまおうと考えたのだ・・・が、ジャイアンがゲームをプレイし始めて約30分、僕は阿呆のように口をポカンと開けてゲーム画面に見入っていた。酒に酔い、覚束おぼつかない指先でプレイしているに関わらず、ジャイアンは一度もリプレイすることなくミッションをクリアし続けている。だが、問題は「そんな事」ではない。彼が操作するトレジャーハンターはHPがとっくにゼロになっているにも関わらず、遺跡を暴れまわっているのだ。

なんだコレは?何かの裏技?いやいや、そんな生易しいもんじゃナイ、と思う。はっきりいって彼のゲームの腕は人並みだ。画面の中のトレジャーハンターは崖からのジャンプに失敗して首を折り、落とし穴に落ちて槍で串刺しになり、炎に巻かれて全身真っ黒焦げになった。どれも一発でゲームオーバーになるケースである。にも拘わらずトレジャーハンターは立ち上がりミッションに挑み続けた。


その後もジャイアンは各ステージでトラップ無視、攻略法無用でトレジャーハンターを突っ込ませた。登れない筈の崖をよじ登り、数多のトラップに滅茶苦茶にされながらも踏破し、巨大恐竜を素手で(!)引き裂いた。システムもルールも無視して。

ふざけた話だがコレは現実だ。なんたる事だ、ジャイアンはゲーム機が作り出した虚構空間では、どんな無理でも通す、云わば”電脳空間限定神”と言えるのではないか!?


僕がジャイアンの横で、興奮とクエスチョンマークの渦に巻かれながら奇妙な汗を噴き出してると、ジャイアンは妙に低い声でボソボソと言った。

 

「ノビタぁ、あのよう、俺、この間、PCとベッド買い換えたじゃん?それでさぁ、今月マジでピンチなんだよネ。少しでいいから金貸してくんねェかな・・・」

 

その言葉を聞き、僕の脳内の”テンションゲージ”はみるみる下がっていった。

既に察して貰えてると思うが、彼に貸して無事返却された代物など無いのだ。

僕はジャイアンに聞こえないよう口の中で「ゲームノ神サマモ現実デハ無力ダネ」

と呟きながら、彼のプライドを傷つけずに断る方法を猛烈な勢いで考え始めた。


 

 

  -Fin-

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