イヴ

 上限解放能力というものをなんとなく理解した私は、紅巴に少し伝えようと少し広い場所に呼び出した。あと、ついでに前世云々の揺さぶりをかけるという目的もある。


「乃愛、わかったって何?」


 紅巴は開口一番、そう尋ねて来た。滅茶苦茶適当な説明しかしていないから至極当然の反応。

 私はもったいぶるように、うーんという感じに間をおいて、「試した方がはやいですかね」と笑った。


「だからこんな場所に呼び出したの?」

「まあ、そうですね」過疎公園だし。


 私はその場で軽くジャンプ(一般人のハイジャンプ程度)をして、言った。


「能力というものは、案外アバウトなものなんですよ。真実を起こすもの、それが能力だと思います。ヒントを出していくので実戦形式でやってみてください」

「無茶な……まぁ、良いんだけどさ、乃愛が戦えるっていうイメージ無いんだけど」

「なら認識を改めないといけませんね」


 紅巴は私の言葉に苦笑して、緩い構えをした。


「そっちから来てください。そうですね、紅炎プロミネンスってプラズマガスだから、電気も出せると思いますよ」

「へぇ……良いね!」


 紅巴は後ろに跳びながら手を前に突き出し、雷を飛ばして来た。飲み込みが速すぎると思った。

 私は横に大きく避け、足が地面に触れると同時に彼女に向かって跳ぶ。彼女は私の目線を見ているのか顔を背けることなく、横に避けようとする。私は何もする気はないけれど。


「プラズマって、この世界で一番ありふれた物質の状態らしいですね」


 使いどころがあるのかよくわからない雑学を披露しつつ、私は


「……は?」

「なんかこういうこともできるんですよ、便利でしょう?」

「なるほど、なんでもありってことね」

「そういうことです。イヴ」

「え?」


 なんとなく、思い付きでそう呼んでみた。当たり前だけど、紅巴は滅茶苦茶困惑している。


「そう、【紅炎】のイヴという言葉に心当たりありません?【紅血姫】ノヴァも」


 これで私のようになってくれたら、前世という存在の考察を共有できるのだけど。そんなことを思いながら、私は翼の調子を確かめる。

 彼女はしばらく固まっていたけど、ラグが直ったように、質問には答えず模擬戦の続きを開始する。急かしても仕方ないので私はそれに付き合うべく、空中に羽ばたく。


「ん?」


 紅巴を見下ろすと、何か言うでもなくじっとこちらを見ていた。少し呆れたような眼で。頭やべぇやつとでも思われたかしらと心の中で苦笑して、急降下の体勢をとる。

 反射的にどのように対応するか。その時に無意識的にしたことが技のヒントになる、そんな気がする。何も出来なかったらそれまでだけど。


「さて、どうします?」


 私はそう呟いて頭を下げ、足を上にし、翼を動かす。なんちゃって魔力で体勢を制御し、高速機動を体現すべく身体の機能を強化していく。

 紅巴は相も変わらずこちらを眺めるのみ。何か勝算でもあるのか。特に対策という対策をしているようには見えないけれど。


 びしっという音と共に私の身体は猛スピードで動き、一度フェイントを挟んでから、上下逆さま状態で身体を捻る。翼で首を叩く、そんな動きだ。


「そう来ると思った」

「…………!」


 空気が紅く揺らいだ、気がした。

 私は魔力で無理やり身体を移動させて後退した。と同時に、紅巴の周りに炎と雷が走る。無様にも地面に寝っ転がって少し呆然とする。


 どうして読まれた?私はこれまで戦闘したことなんて一切ない。戦い方の癖なんて見抜けるどころか前例がない。紅血姫ノヴァという実在すら怪しい人物の動きのトレースなのだ。


「いつまで寝てるの?」


 彼女は身体を前に倒し、紅い炎のような姿の分身を形成し、三方向から駆けてくる。その姿に、私は左腕が鱗に覆われた少女の姿を幻視した。


 前に跳べ、直感がそう告げる。私は勢いよく起き上がり、翼の力と生成され続ける魔力モドキの力で一気に正面に突っ込んだ。


「流石吸血鬼の姫だ」


 紅巴がそう呟いた、気がした。


「あ……」


 集中が乱れた私は速さもあってバランスを崩してしまった。見事にすっころんだ私の身体を、紅巴が危ういながらも受け止めてくれる。


「動揺しすぎじゃない?らしくない」

「それは認めますけど……。で、心当たりはあったんですか?」


 いえ、あの動きを見るにあったんでしょうけど。まさかあんな適当に吐いた言葉がここまで引き出してくれるとは正直思わなかった。


「まあ、それが自分の前世、だとははっきりとは思えないけど。そんな記憶を思い出したからこそ、乃愛はそんな感じで唐突にやる気になったんだ。どういう理由でそうなったのかはわからないけど」

「そう、それですよ。私は一目で紅巴さんが紅炎のイヴだとわかりました。だから、何か意図があるんじゃないかなと思ったんですよ。わかるとは到底思えませんけど、面白そうじゃないですか」

「乃愛らしいというかノヴァらしいというか……」


 若干呆れた感じで言われたけど、何十年と生きていたら、そりゃあ目新しい面白いことを求めるというもの。前世分の精神年齢も少し反映されているのだろうか。ノヴァも少し子供っぽい部分はあったような気はするけど。


「まあ、やりたいことはできました。能力の試しもできましたし、紅巴さんにも記憶があることがわかりました。それに、能力についても掴んだようですしね」

「おかげさまで。発想次第で強くも弱くもなる。規模主義以前にランク付けすら難しいよ、きっと」

「そう。ま、前世は前世。どっちかと言えばこっち能力規模主義が気になるんですよねぇ。何を思ってこんな仕様にしてんだか……。強さランク認識としては大間違いですよわかりやすいけど」


 いやわかりやすいか?上限突破云々入れたらひどくわかりにくい。


「……ま、私はちょっとしたアドバンテージをもってやりたいことやるだけですね」

「はは、探求心があるのはいいこと」

「何様なんですかあなた」

「竜の姫様です」

「何言ってんすかあなた……」


 さて、次は何をしましょうか――

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能力規模主義の世界を身体強化系能力で戦い抜く~前世吸血鬼な私には最低ランクとか関係ないです~ 夜桜月乃 @tkn_yzkr

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