再現

 能力は解釈によって如何様にも変化する。


 その考察が正解だとして、通常では考えられないような使用方法で能力を扱うことで覚醒者と呼ばれる存在になることができるということは、柔軟な発想が必要となるわけだ。明確なラインが存在しないので判断が難しいのもあるだろうけど、これだけなら覚醒者のハードルはそこまで高くないように感じる。


 形質変化という能力。単純に見れば生物のもつ性質や特徴を変化させる能力という解釈になる。今の私に言わせれば幅が広くて面白いなというものだけど、私は中一だ。形質なんて習った覚えがないので上手く使えるわけがない。調べてもよくわからないという結果に陥るのが関の山だ。


 形質と言えば、遺伝形質という発想に至るのが普通だろう。遺伝形質と聞いてパッと思いつくのは、髪色だったり目の色だったり、そういう外見的な部分。もしくは利き手のようなもの。強さに直結はしないし、応用できても変装だろうか。


 形質と調べて出てくるものに、生理形質というものもある。簡単に言えば環境への適応や病気へのかかりにくさといった耐性に関することだが、まあこれも戦闘に直接関係するかと言えば否。応用するなら、冷気を操る能力だったり、環境変化系統に対して少し強気に出れるようになるとかだろうか。突っ込んでもなにもできないけれど。


 と、普通に「形質変化」という言葉をそのまま受け取るとこのくらいで終わってしまうだろうけど、今回は生物学的な形質の話ではなく能力の話。これだけが本質だということは流石にあり得ない。

 形質変化は遺伝子を操る力。そう考えることにする。


 分子形質というものがあるらしく、遺伝子の配置などに関係するもののようだ。正直科学的なことばかり考えていたら全く柔らかな発想と言えないので雑に考えていく。

 使えるかはさておき、自身の血液型を変更したり、遺伝子疾患を消したり。また、遺伝子型をいじって運動能力の底上げ、すなわち筋肉のタイプを切り替えることができると思う。あとは怪我をしにくくなったり。


「いや、これだけじゃないですね」


 自分が本当にそうだと信じていれば良い。なら、もっとアバウトな形質の定義でも問題ないはず。事実はどうあれ真実を具現化するのが能力だろう。


 身体の性質そのものを変えてしまえばできることが大幅に増えるのでは?


「私の解放能力のラインはきっとここ」


 ぼそぼそと呟きつつ、考えを巡らせる。


 戦闘において、これがあったら確実に役に立つという身体の機能はどのようなものだろうか?


 私はその答えをすでに持っている。


「日光に弱いという弱点さえなければ、前世の私吸血鬼はかなりハイスペックですね」


 高い再生能力、筋力、暗視、魔法、そして飛行能力。吸血鬼という種族は夜の民であるゆえの弱点が無ければどの要素もかなりの高水準に纏まっている。つまりそれを、その強い部分だけを再現出来れば良いのだ。


 本当に私の前世であるのか、そんな疑問はこの際どうでもいい。重要なのは、本物の吸血鬼の記憶を私は持っているということ。吸血鬼の姫の記憶、感覚が今の私に存在するということ。モデルがいるのだから、再現の難易度は下がる。


 具体的にどのように性質を付与していくかということだけど、「私はこんな性質を有した生物である」と、そういう真実を体に付け加えていくという感じで良いだろう。


「細胞分裂の速度が、傷ついた部分だけ異様に速くなる……どんなシステムでそれが行われるのかというのはあった方がいいんですかね」


 欠損部位の時間経過での回復だったり、筋肉の超回復よろしく、さらに強化したうえでの再生。恒常性を高めるという感じで能力を発動する。ブラッシュアップは後からやっても問題ないだろう。


「暗闇では光をさらに集めやすくなるような眼……」猫などの動物の眼のシステムとかを再現したらできるだろうか。謎パワーよりは納得できるから信じやすくなる。


 あとは、これができたら、出来ることが大幅に増える。


「体内で魔力を生成するという性質」


 指を広げ、紅いエネルギーを指先にちらつかせながら、呟く。


「これは研究のし甲斐があるというものですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る