高齢者無敵列伝

ガチ野菜/ニット

ソーセージマフィンゴリ押しジジイ・信照(のぶてる)

昭信:ジジイ。圧倒的な狂気を見せつけてください。細かいアドリブ等入れて臨場感を出すと楽しいと思います。性別変更不可。

店員:ツッコミ。不問なので一人称など自由に改変していただいて大丈夫です。




店員:合計920円になります!画面のご注文でお間違いなければ、お車次の窓口までお進みください!


店員N:昼時の某有名ファストフード店は、多忙を極めている。寂れた県道沿いにあるうちの店でも、このドライブスルーの手軽さからか、客足が途絶えることはない。ここでバイトを始めてもう1年半になるが、脳が反射でマニュアル対応を出す感覚に、ふと驚く瞬間がある。この日中の忙しさに僕は、労働の大変さと、確かなやりがいを感じていた。


店員:いらっしゃいませこんにちは!ご注文お決まりのものから伺います!


店員N:そう、あの怪物……ソーセージマフィンゴリ押しジジイ、信照(のぶてる)に出会うまでは───。


(車の窓を開ける)

信照:注文いいかな


店員N:声でかいな……。

店員:はい!お伺いします!


信照:あの、ソーセージマフィンってある?


店員:あ、申し訳ございません!ただいまのお時間はちょっと提供してなくて……。


信照:あ~そうか、ごめんね。えっと、じゃぁ~……。ソーセージマフィンで。


店員:……えっと、ごめんなさい、今の時間は提供してないんですよ。あの、朝の時間帯のメニューになってまして、10時半までの提供になってしまうんですよね。


信照:朝の?


店員:はい!当店は24時間営業なので、その場合はですね、朝の5時から10時半までの提供となっております!


信照:あ………………あ~~!!ごめんごめん、最初に説明してくれてたよね!!そっかそっか、そうだ、朝の10時半までしか提供してないんだった!!いや~ごめんね、忙しいのに!


店員:そうなんですよ~、申し訳ないです~!


信照:じゃあえっと、ソーセージマフィンで。


店員:え?


信照:コンビで。飲み物は、クー。クーで。


店員:え、え?


信照:ソーセージマフィンの、コンビの、ドリンクが、クー。


店員:えっと、お客様……


信照:あと、ハッシュドポテト。2つ。


店員:お、お客様!あの!


信照:ん?


店員:先ほどえっと、ご説明させて頂いたようにですね、マフィンはあの、10時半までの提供になっておりまして……!


信照:あ~うん、今12時だもんね。マフィンもそうだし、あとハッシュドポテトも朝のメニューだったっけ?


店員:そ、そうなんですよ!


信照:いやもう、材料とかね、色々もう入れ替えちゃってたりするのかな?ごめんね、困らせちゃって。大変でしょ、忙しいしさ。


店員:いえいえ、とんでもないです!それでその、ご注文は?


信照:ソーセージマフィンのコンビ。


店員:え……。


信照:クー。


店員:……。


信照:ハッシュドポテトも。あ、ごめん、クーポンあるわ。182番ね。


店員:……マジかよ……。


信照:クーは氷抜きで。……あっっ、そうかごめんごめん、朝のメニュー今注文できないんだったわ!いや~本当にさぁ何度も何度も、なんだろうな、認知にはちょいと早すぎるんじゃないかって言われるけれどね、もう自分が分からんよ全くもうねぇ!先日なんてもう、商品会計したのにさ、レジに置いて来ちゃってもう、バカヤロ!つって!信じらんないでしょ!金払ったっつーのにほんとにさ~もう、あっ、ごめんね、おじさんの独り言だから!忙しい中なのに本当にごめんね~うん~じゃ、アレかな、この中からメニュー選べばいいのかな!マフィンとかじゃなくてバーガーだよね!ん~何にしようかな~~!!てりやきとか美味しそうだし、チキンもあるのかぁ!!迷っちゃうなぁ~~!!あ、ソフトクリームなんてのもあるし!どうしようっかな~~えっとね、えっとじゃ、はい、ソーセージマフィンで。


店員:怖すぎるだろ!!!!!!!


店員N:やべぇ客に当たってしまった。何回も説明してるだろ。いや、どういう事? 何よりヤバいのは、この感じで腰が低いところなんだよな。こういうタイプのおじさん、腰低い方が怖いよ。マジで。


信照:コンビで。クー。


店員N:なにしろこの、クー、が怖い。何こいつ?マジでなんなんだ?


信照:店員さん?


店員N:だめだ……こういう時は、言葉を選びつつ、バシっと断らないと……。

店員:ですから、大変申し訳ないんですが、今のお時間はその、提供してないんですよ!


信照:ソーセージマフィンで。


店員:で、ですから……!


信照:なぁ。


店員:な、なんでしょうか!


信照:怖いか?


店員:……え?


信照:俺が、怖いか?


店員:え……。え?


信照:朝メニューはさ、機械の兼ね合いで昼には提供できないんだろ? 材料が残っているのならまだしも、この時間ならもう廃棄してるはずだ。知ってるんだ、俺。


店員:は、はい!おっしゃる通りです!!ですから──。


信照:ゆえに、ソーセージマフィンで。


店員:は?


信照:聞こえなかったかな?ソーセージマフィンだよ。コンビで。クー。


店員:……。


信照:ソーセージマフィンで。


店員:もうこいつなんなんだよ!!!!!!

店員N:い、意味が分からない……。嫌がらせがしたいのか?クレーマーとかでもないし、こいつ、一体何がしたいんだ?


信照:俺の事が、気になるだろ。


店員:え?


信照:なぁ、そうだろ。俺の意思が。知ってるか、人に歴史ありってやつだ。通り魔だって、放火魔だって、裏金作ってる汚職政治家だって、子供のころは皆、天使だ。お前が普段軽んじてるやつにも、皆一様に過去があるんだ。


店員:……。


信照:総理大臣にも、初恋はある。自衛隊の幕僚長にだって、”思い出の味”ってやつがきっとある。時間は平等に流れているし、人生は地続きだ。違法なドラッグを売りさばく若者が捕まったって、世間は「治安が悪い」の一言で一蹴するだけ。彼にもし、病弱な母がいたとしたら?その母に飯を食わせるため、親元からのノルマにおびえながら、それでもその仕事を続けていたとしたら?


店員:……。


信照:俺は、信照。東村山信照(ひがしむらやまのぶてる)だ。人生は長いようで、短い。貧困家庭に生まれ、今日ありつける飯の事だけを考えながら、寝る間も惜しんで働く18歳もいれば、裕福な家庭に生まれ、高級な料理を食べながら、親から買ってもらったドイツ車で私立の大学に通う18歳もいる。世の中はな、どうしようもなく平等だ。平等だからこそ、そうなっているんだ。


店員:……。


信照:そう、だから、故に───ソーセージマフィンで。


店員:いやマジで本当に怖すぎますって!!!!!!!!!なんなんですかあなたは!!!!!!


信照:いや、信照ですが。


店員:そういうことじゃねぇですって!なんですかさっきから!!!!なんか良く分からない事をベラベラベラベラと……!!!!!その感じ出したってソーセージマフィンは出せないですよ!!!!だってさっきあなたも言ってたでしょ、機械の兼ね合いがあるんだもん!!!!


信照:なるほど。


店員:ですから……。その、何度も言うようで恐縮なんですが、ソーセージマフィンを提供することはできません。設備上の理由で不可能なんです。ルールだからとか、例外を作れないからとか、そういう話ではなくて、商品の製造が今、設備的にできないんですよ。ご理解いただけるとありがたいのですが……。


信照:……フム、なるほどね。


店員:……。


信照:……。


店員:……。


信照:…………(無言でゆっくりと拍手を始める)


店員:え……え?


信照:合格だよ。


店員:え?


信照:このように、話の通じない迷惑な客が来ても、毅然と……かつ、相手を刺激しないように、しっかりと説明を続けることができる。バイトだからと、少し甘く見ていたが、そうか……。わが社にも君のような、優秀な若者が働いているんだね。


店員:え……?


信照:いやいや、突然すまない。紹介が遅れたね。改めて……私は、本社で上席執行役員をやっている、東村山信照だ。以前は法務部の本部長をやっていたんだが……私のキャリアは、まさにこの店舗のマネージャーからスタートしたんだ。懐かしくてこうして見に来てみれば、びっくりだよ。君のような優秀な若者がいるわけだからね。


店員:えっと、あの……。


信照:今は学業の傍ら、ここで仕事をしてくれているのかな。就活が始まったら大変だろうが……そうだ、私の名刺を渡しておくよ。それと、”あるもの”を渡したい。……次のプロジェクトのメンバーには是非、君のような優秀な若者が欲しいと思っていたんだ。まぁ、もし君がいいのなら、の話だが……。


店員:あ、え……。いえ、その、光栄です。


信照:そうか。とても嬉しいよ。じゃあ、次の窓口まで進めばいいのかな。


店員:あ、そうですね!もしえっと、ご注文等ありましたら伺いますが!


信照:はい、ソーセージマフィンで。


店員:……。


信照:コンビで。飲み物は、クー。


店員:…………ろよ……。


信照:ハッシュドポテト。クーポン、182番。


店員:いい加減にしろよおおおおおお!!!!!!!!!!なんなんだよさっきからよおおおおおおおおおおお!!!!


信照:!


店員:おい!!!聞こえるかクソボケが!!!お前よ、実際に役員が来たとしてよ、こんな忙しい時間帯にわざわざキモいテストするなんて、普通に頭おかしいだろうが!!!!!くせぇドラマとかくせぇドキュメンタリーに影響受けてるバカだとしか思わねぇよ!!!!実際に役員だったとしてもキモいのに!!!!!てかお前何でそこまでソーセージマフィンが食いたいんだよ!!!!


信照:……。


店員:はぁ……はぁ……げほっ、おい!!!!しかも”あるもの”ってなんだよ!!!用意してんのかよ!!!!名刺も!!!!マジでどうするつもりだったんだよ!!!!どういうプランで行くはずだったんだ!!!!


信照:え、えっと、それは。


店員:名刺はあんのか!!?


信照:あ、ある。


店員:パチこいてんじゃねーだろうな!?嘘だったら殺すからなマジで!!!じゃあその”あるもの”ってなんだよ!!そもそも用意してたのか!!??おい、答えろ!!!


信照:よ、用意はしてた。


店員:何用意してたんだよ!!??言ってみろよ!!


信照:……ダマン。


店員:あ!?


信照:ビ、ビーダマン……。


店員:……は?


信照:あの、ビ、ビーダマン、用意してた…。


店員:ビ、ビーダマン?


信照:う、うん


店員:ビーダマンて、あのビーダマン?


信照:そ、そう……。コ、コンバットフェニックス……。


店員:いらねーーーー!!!懐かしい上にいらねーーーー!!!!マジでどういうことだよ!!!なんでビーダマンなんだよ、おかしいだろ!!!!


信照:いや、えっとその、今、お金持ってなくて、今、俺が持ってるもの、この店のクーポンと、ビーダマンだけで……。


店員:は……?


信照:ほら、大昔ってこう、物々交換が主流だったじゃない。だからその、ワンチャン、ビーダマンでハンバーガー食えるかなっていう、そういうねらいがあって……。


店員:間違いなくこの国史上過去一番狭すぎるワンチャンだろ!!!!なんだお前!!!ソーセージマフィンをゴリ押してなかったとしてもキモいの凄すぎるからな!!!!なんだお前、マジで、なんだお前!!!!


信照:じゃあどうやったらこの時間にソーセージマフィンが食えるんだよおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!


店員:逆ギレ!!!???


信照:金ねぇんだよ!!!信じられないかもしれないけどな、家にビーダマンと食塩しかなかったんだよ!!!!


店員:しょ、食塩


信照:でもどうしても!!!!どうしてもソーセージマフィンが食いたくて!!!!1ビーダマン握りしめて来たんだよおおおお!!!!


店員:通貨の単位みたいに言うなよ!!!!そもそも飲食店に来ようとするんじゃねえよ!!!!金ねえんだったら!!!!


信照:あーーーそうですか、はい、はいもう、はい、分かりました、分かりましたよ、はい、今12時半でしょ、5時まであと、16時間半か、16時間半待つわ、朝のやつ始まるまでずっとな、ここでずっと待っててやる、おい始まるぞ、始まっちまうぞマジで、俺という本物のキチガイによる、”祭り”がよ、うお~~、マジでやべ~~!!

(運転席のリクライニングを全部倒してリラックスし始める)


店員:なんなんだよお前……!!!!!!!一億歩、いや、一兆歩譲ってそれやるとしても、お前金ないんだから朝になっても買えないだろ!!!!どうするつもりなんだよ!!!


信照:いや、やっぱさ、人情だから、世の中……(小さめの声で)


店員:は??なんだって、声が遠いぞ!!


信照:いや!!!やっぱさ!!!人情だから!!!世の中!!!


店員:何が!!!!!????


信照:俺はな、本気だからな!!!!!最悪買えなかったとしても、絶対にあと16時間半ここで待機しててやる!!!!俺はガチだ!!!!!ガチで生きてるんだ!!!!舐めんじゃねぇ!!!!!!


店員:……もう普通に警察案件だ……。ちょっと判断遅かったわ、警察呼ぼ……。


信照:何すっかなぁ、とりあえずインターステラー5回見るか。何度見ても素晴らしいからな~。


店員:全部の行動が、インターステラーを面白いと思う感性と、相反しすぎてるだろ……。


信照:あ~、もう既におもしれ~、再生してねぇけど、すでにめちゃくちゃ面白れ~~


店員:……あ、客の車溜まりすぎてヤバいことになってる……。


店員N:その後、信照は警察に連れていかれた。俺は、キッチンから店内まで響き渡る大声を出していたため、普通にクビになった。後から聞いた話だが、信照はマジでこの会社の上席執行役員だった。激務によって精神が壊れ、ギャンブル依存症になってしまっていたらしい。

思い返すと、信照の車からは、インターステラーのサントラが流れていたような気がする。もうあんな怪物とは出会いませんようにと、俺は心の中で祈った。

















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