第11話:荒れるノースウッドの街

領主の館を襲撃した翌日。

俺たちは再びノースウッドの街に来ていた。食料補給と換金、そして情報収集のためである。

本当は襲撃した日に来る予定だったが、1日でノースウッドの街を2往復するほどの時間に余裕がないため、本日になった。

俺たちの顔が割れている可能性を考え、今日は全員フードを被って街に入っている。

だが、そのノースウッドの街は俺たちの予想と反して、普段と変わらない日常が続いていた。

しかし街行く人々が、心なしか少ない気もする。

俺たちは全員でギルドに向かい、魔物素材を換金した後は別行動にした。

ノドカとソフィアは買い出しへ、俺は情報収集のため酒場へ向かった。


街の入口付近にある冒険者向けの酒場で、俺は年配のマスターから知っている情報を聞いた。

元々ノースウッドの街は林業が盛んな街で、周囲の森を伐採し販売することで発展してきたらしい。

俺たちが森から出てきた時に通る街を一望できる丘も、元々は森だったそうだ。

そして伐採した木材を保管するために、入口付近に大きな木材倉庫が建てられていた。

つまり領主を追い詰めた場所は、木材倉庫だったわけだ。

だが近年、街周辺の木材は伐採され尽くし、ちょっと遠くまで行かないといけない。

それに加えて、伐採に行った者が何人も姿を消す事件が発生していたため、森に強力な魔物がいると思われた。

これにより、伐採を行うには護衛を雇う必要が、結果として伐採にかかる費用が急増。

それが販売価格に転嫁された結果、木材が全く売れなくなってしまったようだ。

しかも、ノースウッドの街は辺境の位置にあるので、どこかへ行く途中で寄るということもない。

結果としてノースウッドの街では、かなり衰退してしまったようだ。

商売ができないから商人が減り、物が無くなって人が減り、人が減ったら依頼が無くなって冒険者が減る。

冒険者が減ったら商売人も近寄らなくなってくるという、負のスパイラル状態になっていたのが、今のノースウッドの街だったのだ。

考えても見れば、俺が拠点にしている場所や近くのダンジョンも、普通に冒険者が居ればとっくの昔に見つかっているはずだ。

それにも関わらず見つからなったのは、ただ探索する冒険者が少なかったからに他ならない。

「感謝する。マスター」

これ以上の情報を得られそうにないため、俺は1杯の酒を頼んで2杯分のお金を置いて店を出た。


ノドカたちと合流するため大通りを歩いていると、向かいからこの国では珍しい4つの獣耳がやってきた。

その耳の持ち主は領主の館で俺たちが撃退した2人の冒険者で、街の外へ向かって歩いているところだった。

俺はその2人の前に立ち呼び止める。

黒髪の獣人は、最初から俺がいることに気づいていたようで冷静な目をしながら聞いてくる。

「何か用?」

茶髪の獣人も少し動揺しながら強気なことを言っている。

「ここではやり合いたかねぇーぞ」

「やり合うつもりはない。ただお前らからも情報が欲しいだけだ」

そう言うと黒髪の獣人を手を差し出してきた。

「情報料」

かなり図太い性格をしている思いつつも、しょうがないと思いつつ念のために持っていた1,000Gの半分をその手の上に置く。

茶髪の獣人は金額に満足したようで、付いてこいと目くばせをして路地裏に向かった。

「んで?アタシらに何を聞きたいんだ?」

「まず名前と所属を聞こうか」

俺は路地裏で2人の身元を聞いた。

「アタシはカーラ。んでコイツはケイト。所属は無いからフリーの冒険者だ」

俺の推測通り、2人は冒険者だった。

「あの後、領主はどうなった?」

それを聞いたカーラが、周囲を見渡して人がいないことを確認してから小声で話し出す。

「領主の話題は、今は厳禁でな。喋ったやつは捕まって、そのまま消えるのさ」

「まだ領主の権力が残っているのか?」

「もちろん。かなり削れたみたいだけどね」

そこから、カーラとケイトが知っている情報を全て教えてもらった。


まずこのノースウッドの街を治めているのは、エロミロ男爵。

名前の通り下衆な男だったが、この男自体は問題ない。だがこの男の属する派閥が厄介だった。

俺たちが住んでいる国の名前は、トリア王国。

この国は建国時に活躍した3つの貴族が中心となって運営されている。

政治を司っている、オクタビアス家。

財政を司っている、アウルム家。

軍事を司っている、バルカ家。

これら3つの家が派閥の長となっており、絶妙なバランスで国が維持されている。

今回問題を起こしたエロミロ男爵は、オクタビアス家の派閥、つまり政治派閥に属している。

エロミロ男爵は、すぐに政治派閥に泣きついた。自領に貴族を狙う不届きものがいるという嘘を添えて。

政治的に自由にできる派閥だからこそ、すぐに貴族を狙う不届きものを討伐するよう、エロミロ男爵は王からの勅命を受けた。

この時、不届きものという言葉の解釈が、エロミロ男爵の一言で決まる。

つまり今回の問題を口外する者を全て不届きものとし、口封じできるのだ。

だから、街の中で今回の問題を口にできるものは居らず、話題にすることすらしない。

俺が酒場のマスターから、領主の話を聞けなかったのもこれが原因だろう。

そしてもう1つ気になったことを聞く。

「それだと君たちは……」

「そう。アタシたちは当日には不届きもの認定されてるよ。というか、あの事件に関わった者全員が口封じのため、不届きもの認定されてる」

驚愕の話を聞いた。

同時に、俺たちの問題に彼女たちを巻き込んだ気がしてならない。

それを察したのか

「あぁ別にアンタらを恨んじゃいないさ。アタシらが自分で選んだ依頼だったからね」

そうあっけらんと答えるカーラに、俺は気になったことを聞いた。

「これからどうする気だ?」

少し悩むカーラより先に、ケイトが答えた。

「逃亡」

「この街から?」

「違う。国から」

これがエロミロ男爵家だけの話だったら領地外に逃げらたら問題解決になるが、王による勅命だからそういう訳にはいかない。

エロミロ男爵が正式に不届きものとして認定したら、国中で追われる身になるからだ。

「逃亡先のアテはあるのか?」

「ん~?アタシらはこの国生まれじゃなくて、西にあるセリッツ帝国生まれだから問題ないよ」

「追手は?」

その言葉を聞いて、2人は黙ってしまった。

国の追手ならどこに居ても来る可能性があり、家族を巻き込まないためにも故郷にも帰れない。

いつ終わるか分からない追手に、2人は対処し続けるしかないことを分かっているからこそ、何も話せない。

そんな彼女たちに

「俺たちのところに来るか?」

そう誘ってみた。

「何が目的?」

「そうだよ!自分を暗殺しようとした人間を、よく誘えるね!?」

冷静に問いただすケイトと慌てるカーラが答える。

俺は正直に、今考えていることを話した。

俺たちは確実に、その不届きものに認定されているだろう。

そう考えたら追手に対処するためにも、ノドカとソフィア以外に戦える人がいて欲しいのだ。

それに、俺が起こした問題で2人の人生を狂わせたのだから、責任の一端は俺にある。その責任を果たす償いでもある。

なにより、こうして何回か関わってしまった彼女たちが亡くなるのは忍びない。

それを聞いたカーラとケイトは少し黙った後、2人で相談し始めた。

「ケイト、裏はありそうか?」

「多分無い。あっても私たちにはどうしようもない」

「……どうする?」

「逃亡生活を考えたら、こっちの方が得」

言い合うこと数分後。

「もう一度聞くが、何が目的なんだ?」

「もう一度説明がいるか?」

「……」

2人は見合った後、決心したようだ。

「それじゃあこれからよろしく頼むよ!オッサン!」

「……よろしく」

そう言って俺に手を伸ばす2人がいた。


「感謝する」

俺はそう言って彼女たちの伸ばした手を掴んだ。

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