第10話:不正領主
隠し通路を進んでいくと、地下倉庫に到着した。ここは秘密の地下倉庫なのだろう。
そこら中に宝石やアクセサリー、豪華な装飾が付いた剣などが無造作に置かれてある。
ノドカはすごいと感動しながらも、量に圧倒されたのか触りに行かない。
「分かってますよーだっ!」
一応触らないように注意すると、ゲンコツ対策なのか手で頭をガードしながら舌を出してきた。
ノドカを無視して地下倉庫を調べようとするが、秘密の地下倉庫なだけあって全く明かりが無い。
地下倉庫へ来る前に壁から取っておいた松明を唯一の光源としながら、用心深く地下倉庫の中に領主がいないか確認していく。
すると地下倉庫の隅に、人間1人が通れるほどの大きさをした穴を発見する。
足元を照らしてみると、つい先ほど踏まれたかのような足跡があったので、恐らく領主はここを通って逃げたのだろう。
そう感じた俺はノドカとソフィアに集合させ、その穴の先へ進んでいく。
細長い土の道を数十分歩いた。
恐らく街の半分くらいの距離は歩いただろう。
いつ終点が見えるのか不安になり始めるときに梯子があったので、俺が先頭で登り上が安全かどうか確認する。
梯子を素早く登り切った後、俺は周囲を確認する。登った先は小さな部屋で、特に何もない。
下にいるノドカたちに手振りで安全だということを伝えた後、俺は部屋に1つしかない扉を調べ始めた。
鍵がかかっているが、十分に蹴破れそうな強度である。
だが、それより問題なのは扉の隙間から漏れ出ている声だ。
その声から察するに、これを女性たちに見せるのはかなり忍ばれる。
だが、後ろから敵がこないとも言えないので付いてきてもらう他にない。
登ってきたノドカとソフィアに、そのことを注意しながら俺は扉を蹴破った。
そこは俺の想像した通り肉の宴だった。
所々に絨毯が敷かれ、奥には牢屋が見える。
至る所で人間が蠢き、腐ったチーズのような匂いが充満している。
これを見たノドカとソフィアは、あまりの惨状に絶句する。
俺たちは心を殺し、男たちを気絶させながら領主を探していく。
最初の数人は俺たちに気づく間もなく気絶させられたが、途中からは気づいた男たちが剣を持って抵抗してきた。
だが男たちはノドカより遥かに弱い。
近くに脱ぎ捨てた私兵らしき防具が見えたから、恐らく領主お抱えの私兵なのだろう。
そう思いながら部屋を進んでいくと、奥に領主らしき醜い脂肪の塊が見えた。
だがここから1人たりとも逃がさないため、領主をどんどん隅に追いやっていきながら男を気絶させていく。
全員で30人ほどいた男を気絶させた俺は、領主の元へ向かった。
「わ、私にこんなことをして、タダで済むと思っているのか!?」
そう叫び醜く抵抗する領主。
そんな領主の前には、見苦しい姿をしているが剣だけは豪華絢爛な男がいた。
俺は呆れて声も出せない。なぜここまで情けなく醜い奴が貴族なのだろうか。
「へ、兵士長!アイツを殺せ!」
おいおい、その見苦しい奴が兵士長だったのかよ。
しかも、その兵士長はお腹の肉に邪魔されてマトモに剣も振れない。
大方、仕事を全て部下にやらせて、自分は享楽三昧だったのだろう。
剣を振り斬る前に出ている腹を蹴り飛ばしたら、兵士長は壁にぶつかり動かなくなった。
それでも抵抗を続ける領主だったが、俺は無視して縛り上げた。
あまりにも叫んで騒がしかったから、1発殴ったら静かになったから問題ない。
全ての男を捕縛した俺たちは、まだ静けさを取り戻した大きな室内にいた。
ノドカとソフィアには、保護した女性たちに食料と服を配ってもらっている。
その間に俺は領主をどうするか考える。
通常であれば衛兵に領主を突き出せば、衛兵の方で調査をして王都の方に連絡するだろう。
だが、この街ではその衛兵が領主に抱きこまれていない証拠がない。
最悪の場合、衛兵に突き出した領主は無罪放免になるだけだろう。
だが、それ以上にできることはない。
俺はノドカとソフィアを集め、次にどうするか言おうとしたが
「私に考えがあります!」
ソフィアから提案があった。
早朝、いつものようにポツリポツリと道行く人々が増えだす長閑な時間。
だが今日は、いつもと違った。
入口付近にある大きな建物が謎の轟音を立て、その長閑な時間は終わりを告げた。
大きな建物の入り口には人が入られないよう、木で大きな扉が作られていた。
だがその大きなが扉の一部が、突然バッサリと内側から斬られ、轟音を立てて崩れ落ちるのだ。
建物の前にいた衛兵は驚いて、その崩れ落ちた部分を確認しようとすると……。
中から大量の女性たちが飛び出してきた。
女性の数はあまりにも多く、1人しかいない衛兵は自分だけでは対処ができないと察して、すぐに他の衛兵に助けを求めるために去る。
その間に、もう一か所が大きな扉の一部が同じように内側から斬られ、轟音を立てて崩れ落ちた。
何事かと思った民衆が、大きな建物の周りに集まり始める。
その民衆が見た者は、簡素な布を被った女性たちだった。
多くの民衆にとってなぜ女性たちがいるのか分からなかったが、とある男性が慌てて飛び出してこう言った。
「あ、あ、あれは!?やっぱりそうだ!俺の娘だ!!」
そして突然、建物の前で父親と娘が感動の再会を果たす。
それを皮切りに、今まで行方不明だった娘がい見つかるかもしれないという噂が街中を駆け巡り、救援の衛兵が来た頃には対処できない規模になっていた。
俺たちはすぐに女たちと共に大きな建物から脱出しており、今頃になって衛兵が建物の中に入っていく様子を見ている。
中に入った衛兵は、すぐに気絶した領主を保護して出てきた。
衛兵として貴族を保護するというのは、立派な仕事の1つだから問題はない。
だが、タイミングが究極的に悪かった。
なぜなら行方不明の娘たちが捕まっていたであろう場所から、領主が出てきたからだ。
「どうして行方不明だった娘と、あなたが一緒にいたんだ!」
「そういえば俺の嫁は行方不明になる前、領主からお誘いがあったって……」
「領主様!あなたが連れ去っていたんですか!?」
当然のごとく、民衆は怒って領主に問い詰めていく。
気絶している領主の代わりに衛兵が民衆を止めているので、まだ大事にはなっていない。
だが、そこに捕まっていた女性たちの証言が加わっていけば?
その結果は火を見るより明らかだろう。
俺たちは目的を達成したと判断し、そのまま拠点へと帰っていった。
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