第9話:強襲

俺たちがノースウッドの街に辿り着いたのは、空が白く霞み始める頃だった。

街の奥にある領主邸の外壁に取りつき、隠れながら入口を見る。

門番が1人のいるだけで俺たちを襲ってきた2人の暗殺者が、この領主邸の中にいるかどうかまでは分からない。

だが耳を澄ましてみると、こんな時間であるにもかかわらず家の中から話し声が聞こえるため、ほぼクロで確定だろう。

「よし、ノドカにソフィア、聞いてくれ」

後ろにいたノドカとソフィアに小さい声で話し掛ける。

森の中で事情を聴いたノドカは、やってやりますよ!と言っていたが、恐らくこれがどれだけ無謀で危険なことか分かっていないのだろう。

今なら危険なことから降りれるぞと言ったが、なぜか拗ねた顔でそっぽ向かれた。

話を戻して

「俺が先頭で全てを薙ぎ払う。お前たちは俺の斜め後ろを付いてきて、後ろと窓を警戒しろ。敵が来たら俺が対応する」

そう告げ、ソフィアとノドカに装備の最終確認をさせる。

問題ないという言葉を聞いた後、俺は形見の直剣を引き抜きながら門番に襲い掛かった。


その頃、領主邸の中。

「失敗しただとっ!?どういうことだ!!」

勢いよくテーブルを叩きつけて怒鳴り散らす領主の男。

領主の前には、カイルを襲った冒険者たちがいた。

茶色の髪と犬耳を持つ獣人族の女冒険者が、領主の男に反論する

「たしかに失敗したのはアタシらの責任だ。だけどな、あんなに強いなんて聞いてねぇーぞ!」

同調するように、隣に立っていた黒色の髪と猫耳を持つ獣人族の女冒険者が言葉を重ねる。

「ターゲットは盗賊の頭じゃない。明らかに高ランクの冒険者」

それを聞いた領主は、さらに怒って大声で喚きだす。

「それでも始末するのが、お前らの任務だろうが!!なにが、熟練冒険者タッグの【キャッグ】だ!金だけ掛かる役立たずではないか!!」

この2人は【キャッグ】という、それなりに知名度のある冒険者タッグである。

茶髪で犬耳の女冒険者が、カーラという名でジョブは拳闘士。種族は犬型の獣人族だ。

黒髪で猫耳の女冒険者が、ケイトという名でジョブはアサシン。種族は猫型の獣人族だ。

自分たちを役立たずと罵られて、イラつく2人。

そんな2人を無視して領主は言葉を続ける。

「もう1回暗殺に行ってこい!成功した以外の報告は受け取らんからな!!」

そう行って、カーラたちの返事も待たずに音を立てて退室していった。


領主が退室した後、カーラとケイトは相談を始める。

「ケイト、どうする?今から行っても成功率は低いと思うけど」

「ん。警戒されているから、暗殺はほぼ不可能。それに、カーラが肉弾戦で勝てないから、殺害自体も不可能」

「だよなぁ~。まさかアタシとお前の同時攻撃で勝てないとか、どんだけ強いんだよ」

カーラはそう言って頭の後ろで両手を組む。

「私も攻撃は全部避けられた」

ケイトは残念そうに口を覆い隠している黒い布に手を当てる。

「ん~。それでも行くしか……」

言い終わる前に、2人とも外が騒がしくなったことに気づく。

「アタシら、もしかしてけられてた?」

「それはない」

「ということは、元々目を付けられてことか。あんな冒険者に何してんだが」


その頃、扉を蹴破ってカイルたちは貴族邸の玄関にいた。

ソフィアから聞いた話だと、左通路の奥が面会室であり、その部屋の奥に領主の部屋があるだろうという。

確かに、1階に住むのは身分の高い者と決まっているから、その推察は正しいのだろう。

俺たちは行く手を阻む衛兵を、全て直剣の平地部分で気絶させながら進んでいく。

そのまま面会室の扉も蹴破るが、誰もいなさそうだ。

俺はそのまま部屋に入ろうとした瞬間、風を切り裂く音を立てながら、俺の頭があった場所に拳が飛んできた。

すぐに俺は、その拳を避けてから、攻撃者を蹴り飛ばして後ろに下がらせた。

「ノドカ、ソフィア。部屋の外で後ろから来る敵の警戒を頼む」

俺はそう言って、ゆっくりと部屋に入っていく。

そこには先ほど襲撃してきた2人の暗殺者がおり、どちらもフードを深く被っている。

「時間が無いんでな。すぐに終わらせてもらう」

恐らくアサシンが仕込んでいたであろう死角から飛んできた隠しナイフを、剣で暗殺者に弾き返して、避けたタイミングで突撃。

俺は横に剣を振る、つまり一文字切りいちもんじぎりで攻撃する。

予想通りアサシンは跳んで避け、拳闘士は屈んで避ける。

直剣からすぐに左手を離すと、その手で跳んでいるアサシンの足を掴む。

屈んだ反動をつけて俺の顎を狙いにきた拳闘士のアッパーをバックステップで避け、掴んでいたアサシンをぶつける。

そのまま近くに壁まで飛んで行った2人はすぐに態勢を立て直そうとしたが、そこを俺が剣で殴って気絶させた。

この時、彼女らのフードが脱げて獣耳があることに気づいた。彼女らは獣人族だったのか。

だが今の俺には関係ないことなので、部屋の外にいたノドカとソフィアを呼んで、屋敷の奥へと進んでいく。


領主の寝室らしき場所まで来たが、どこにも領主がいない。

留守だったのか、それとも逃亡されたのか。俺はどうすべきか次の行動を考えていると

「ふぉ~!!本物の水晶玉だ~!!こっちには自画像まで!!」

暇になったノドカが、目を輝かせながら部屋の中にあったものを触り始めた。

勝手に触るなと注意しようとした瞬間、ボタンのような音と共に、部屋の隅にあった本棚が動き出す。

「うわぁ~!!隠し扉だ~!!すっごーい!」

……見つけてもらった手前、文句が言えなくなってしまった俺は、ノドカにゲンコツを一発食らわせてから隠し通路の先へ進んでいくのだった。

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