第8話:闇夜の暗殺者たち

初めてダンジョン2層に挑戦して失敗した翌日、ノドカとソフィアに経験を積ませるため、再びダンジョンに潜っていた。

午前中は実戦経験を兼ねたダンジョン潜り、午後からは武器に関するレクチャーや基礎体力を増やすための筋トレやランニングを家の周りで行う。

日が暮れたらランプの火を置いて夕食を食べ、そのままベッドで眠る。

俺はゴザを敷き、その上で布団1枚をかけて拠点の端で寝ている。その正反対側で、この拠点唯一のベッドにノドカとソフィアが2人並んで寝ていた。

最初ソフィアが

「後からやってきた私がベッドで寝て、カイル様がゴザで寝るのはいけません。私がゴザで寝るので、カイル様とノドカがベッドを使ってください」

と言っていたが、流石に女性と同じベッドで寝る勇気が俺にはないので、全力で断ってゴザで寝ている。

そして正反対側にベッドを配置した理由は2つある。

1つ目は、俺が近い場所で女性と一緒に寝ることに抵抗を覚えたからだ。

そして2つ目は……。

「ドスッ!」

俺のゴザに毒が塗られた短剣が突き刺さる。

こうやってやってくる暗殺者が、2人を巻き込まないようにするためだ!


俺はすぐにゴザに刺さった短剣を引き抜き、そのまま突き刺してきた暗殺者に投げ返す。

暗殺者はそれを避けた後

「失敗」

そう告げて、床に煙幕玉を投げつけた。

「くそ!」

視界が真っ白に染まって、あまり何も見えない。

目を凝らすしかないと思っていた矢先に

「おらぁっ!!」

顔面に拳が飛んできた。

背中を反ってその拳を避けるが、すぐに追撃の拳が飛んでくる。

俺はゴザの横に置いていた父の形見の剣を取り、その拳を弾いていく。

時折、鋭い拳と入れ替わるようにナイフが飛んでくるが、それも全て剣で弾いたり避けていく。


煙幕の音と剣と拳がぶつかり合う音で目覚めたソフィアが

「こ、これは一体!?」

と困惑した声を上げる。

それを暗殺者は見逃さず、拳を向けてくる暗殺者は俺を、短剣使いの暗殺者がソフィアに向かうのが白い煙の中で見えた。

今のソフィアとノドカでは、絶対にこの冒険者には敵わない。そう考えた俺は、鋭く突き出された拳を片手でつかみ取り、窓からその暗殺者を放り出す。

それを見て驚いた短剣使いの暗殺者がナイフを投げてきた。俺が避けると、その隙を付いて短剣使いの暗殺者も拠点の外へと脱出した。

部屋に暗殺者の気配がないことを確認した俺は

「ノドカ、ソフィア、装備を付けて拠点で待機。俺は暗殺者を始末してくる」

そう言って、ソフィアの返事を聞く前に拠点の外に出た。


どうやら暗殺者は2人しかいないらしく、2人ともフードを深く被っており顔が見えない。

月光で照らされた2人の暗殺者は、先ほど鋭い拳を繰り出してきた拳闘士と短剣とナイフを使うアサシンなのだろう。

「マズイ。想像以上に強い」

「アタシが肉弾戦で負けるのは、ちょっと想定外かも」

俺に向かい合ったまま意見を言い合いアサシンと拳闘士。

「お前ら、CかB級の冒険者だな」

俺はこの短い戦闘で集めた情報で、そう推察する。

純粋な戦闘力と冷静な戦闘運びは手練れの証拠であるため、冒険者ランクは最上位のSランクから2、3段落ちるCかBランク。

そして冒険者だと推察したのは、拳闘士とアサシンの2人の洗練されたコンビネーション攻撃からであり、これは長年一緒に活動した冒険者にしかできない芸当だからだ。

俺の推測は当たっていたらしく、2人の暗殺者は沈黙する。

「ここでの沈黙は肯定を意味する。そんなヘマをするということは、ベテランではなく昇級したての冒険者だな」

俺の推測を肯定するかのように、拳闘士が動揺して少しだけ揺れ動く。

……ここまで分かりやすく動揺するとは、暗殺任務は初めてだな。

「おい、ここからどうする?」

「……撤退」

拳闘士とアサシンの2人がそう言い合った後、すぐに別々の方向で走り去っていった。

森の中に単身で追撃するのは危険だし、2人以外の暗殺者がいた場合のことを考え、俺は追いかけない。

そのまま拠点の前で、入るぞと叫んだ後に扉を開けて中に入った。


奥のベッド近くには武装したソフィアと、まだ着替えているノドカがいる。

「ノドカ。素早く着替えられるようにしておけ。命に関わる」

「ふぁい!」

……こいつ、まだ寝ぼけているな?

ノドカは後で説教するとして、今日からどうするか決めなければいけない。

拠点にまで暗殺者が来たのだ。今日は防げたが、ノドカとソフィアのことを考えると、これ以上の襲撃は避けなければいけない。

「ソフィア、これはあの領主の差し金だと思うか?」

俺は木箱に座りながら、ほとんど確信していることを聞く。

このタイミングで暗殺者を仕向けてくるのは、ノースウッドの領主以外いないだろう。

他にもいるかもしれないが、高ランクの冒険者を雇って森の奥に住む変人を暗殺するほど金を持て余している人は少ないだろう。

「カイル様しか狙っていなかったですし、タイミングとしてもあの領主でお間違いないかと」

ソフィアの答えに、俺はやはりかと呟き考え始める。

「カイル様。残念ですが、この拠点を放棄して逃げるのが1番だと思います」

ソフィアの言うことは一般論として尤もだ。

だが、これからずっと逃げ続けるつもりか?今の俺は、俺の命に加えてノドカとソフィアの命もかかっている。

少し俯き考えたまま返事をしない俺を心配して、ソフィアが俺の顔を覗き込んでくる。

こんなに俺のことを心配してくれている娘に対して、俺は守りきれないから逃げましょうと情けなく言うのか?

というより、俺はクソッタレな貴族に拠点を追い出されることになるのだが、それでいいのか?

否、俺は反対に命を狙ってくる不届きものを狩り、この拠点は安全だと言うべきだろう。

これからの行動を決めた俺は、木箱を立ち上がり

「よし、今からノースウッド領主の館へ向かう」

「っ!?」

意味が分からないという顔をしたソフィアが、おかしくなったのかと俺を問い詰めてくる。

「ど、どうしてですか!?相手は貴族で、しかも私たちを暗殺しようとしている相手ですよ!?」

俺は淡々と、今からノースウッド領主の館へ向かう理由を話す。

まず1つ目に、これ以上、暗殺者を嗾けてくる大元を排除しないと、この問題は解決しないということ。

2つ目に、恐らく暗殺者は任務失敗の報告に向かうだろう。その場を抑えて決定的な証拠とするのが1番だということ。

最後の3つ目に、俺はとあるクエストで貴族に恨まれているから、今さら領主に恨まれた程度で何の問題もないことを言った。

それに、もしノースウッド領主が犯人でなかったら、そのまま拠点に帰ればいい。

これで俺たちが更に恨まれて暮らせなくなるというなら、国を出ていくという方法もある。

俺の言葉を聞いて、ソフィアは少し悩んだ後

「分かりました。私はカイル様に付いていきましょう。そうと決まれば、一刻も早く拠点を発ちましょう」

そう言って外出用の袋に最低限の荷物をまとめていく。

俺も武器の確認をして、出る準備を……。

「ノドカ、準備できましたぁ!それでですねぇ……何するんですか?」

可愛く頭を傾けながら、そう聞いてくるノドカ。

……。

コイツを守り切れるかどうか不安だな……。


それから数分後、俺たちは素早く拠点を出て、ノースウッドの街へ向かった。

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