第2話:ノースウッドの街
深い森の奥にある拠点から最寄りの街、ノースウッドにやってきた俺とノドカ。
丘の上から街を一望した時は興奮していたマドカだったが、街に近づくにつれて失望の表情がにじみ出ている。
「これがノースウッドの街だ。俺も数回程度しか来たことがないから、詳しい話はギルドの受付に聞いてくれ」
「……。大きな城壁とか馬車が交差する道とかって、ここには無いんですか?」
「それらしきものが見当たらないから無いんだろうな」
「えぇ~……。やっとそういうの自由に見られると思ったのに~」
「本格的な買い物なら王都に行くから、そういうのが見られるぞ」
「……王都ってあの?」
そういえばノドカが奴隷商に捕まっていたのが、王都だったと思い出す。
「そうだ」
俺は素っ気なく答え、微妙にしてしまった雰囲気をかき消すように街の中へ入っていった。
この街にどんな店があるのか知っている範疇で教えながらギルドの扉をくぐり、魔物素材を買い取る専用の窓口に向かう。
そして窓口に置いてある木のトレーに、持ってきた魔物素材を置いて換金を頼むと、窓口にいた受付が質問してきた。
「この街のギルドをご利用するのは初めてですか?」
「あぁそうだ」
「それならあちらの初級カウンターで、この街で活動するための認証を受けてからまたお越しください」
「認証とは?」
「冒険者カードの確認もしくは作成後、活動リストに載せるだけのことです。このリストは街で活動する冒険者を把握するために使用されます」
今の俺が冒険者カードを確認されるのは、大変まずい。
なぜなら、ノドカと出会う直前に王都のクエストを放棄したペナルティで、冒険者カードを初期化されたからだ。
この冒険者カードの初期化は、今までの実績や冒険ランクが消されるだけでなく、問題を起こした前歴を示す呪いでもある。
そんな冒険者カードをこれから何度も来るであろう冒険者ギルドで提示するのは、避けたいことだった。
「分かった。案内ありがとう」
受付にお礼を言いながら、俺はどうしようか悩んでいると
「冒険者カード!?」
と目を輝かせがら俺を見てくるノドカが視界に入った。
そこで俺は妙案を思いつく。
「……作ってみるか?」
「いいんですか!?」
「いいぞ。代わりに素材の売却はお前の冒険者カードを使うぞ」
「分かりました!」
そう、俺の冒険者カードではなく、ノドカの冒険者カードを使うことにした。
初級カウンターに向かうと、今までノドカが冒険者カードを作ったことがないか確認された後、すぐに発行された。
そしてそのまま換金用カウンターに行き、持ってきた素材を売ってもらった。
「私の討伐数になっちゃいましたが、よかったんですか?」
ギルドの建物を出てから、ノドカが不安そうに聞いてくる。
「俺の冒険者カードは出せないから問題ない。なぜ出せないかは言えない」
納得いかないような顔をしつつ分かりましたと言うノドカと一緒に、今度は武器屋にやってきた。
またもやノドカは目を輝かせながら武器を眺めている。
「ノドカはどんな武器を使いたいんだ?」
「私はそうですねぇ~。カイルさんは何を使っているんですか?」
「大剣だ」
「大剣ですかぁ。私は筋肉が無いから無理ですねぇ」
そんなことを言いながら、ノドカは色んな武器を見てまわる。
「お兄さんは武器を見繕わないのかい?」
店員から俺の武器も勧められたが全て断った。
今の俺は父の形見である直剣を佩き、ダンジョンで見つけたミスリルの大剣を担いでいる。
直剣の方が得意ではあるが、破壊力や範囲攻撃を考えて大剣を使っている。
他の武器種も使ってみたことはあるが、俺にはしっくりこなかった。
そんなことを考えていると、ノドカは嬉しそうに1本の不思議な剣を持ってきた。
ノドカの持ってきた剣は直剣に酷似しているが、直剣とは違って刃の部分が外側に沿っている。
そして何より刃が片方しかついていなかった。
「これはなんて剣なんだ?」
「それは太刀っていうモノ好きが使う剣だね」
ノドカより先に店員が答える。
「この太刀でいいのか?」
「はい!やはりこれがしっくりきますので!」
武器を使ったことがないと言ってたやつが何を言っているんだと呆れつつも、本人が気に入っているならとその太刀を購入した。
モノ好きが使うだけあって買い手はほとんどいなかったようで、破格の値段で買えた。
防具については特に拘りがないようだったので、女性冒険者の初心者セットをそのまま購入。
これで俺たちの装備は、このようになった。
カイル
武器:ミスリルの大剣
父の形見の直剣
装備:アイアンヘルム
チェインメイル
アイアンガントレット
アイアンレギンス
装飾:母の形身のペンダント
ノドカ
武器:太刀
装備:レザーヘルメット
レザーメイル
レザーガントレット
レザーレギンス
装備に加えて1週間分の食料と持ち運ぶためのリアカーを購入したら、ギルドで換金してもらった金はすっかり無くなっていた。
さらには時間的な問題も生まれ始めた。
軽い荷物だけで片道5時間ほどかかる道を、今後はリアカーを引きながら帰らなければいけない。
今は昼過ぎであり、荷物を持っていることを考えると帰りの道中で日が沈むのは確実だ。
俺の荷物には野営ができるように、火起こしセットやテントが入っているが、2人分はない。
金に余裕があれば街の宿屋を借りようとしたが、今は金もない。
どうしようか悩んだ末、相談しようと買ったばかりの食料を昼食代わりに食っているノドカに聞く。
「ノドカ、帰りの話なのだが……」
「あっホントだ!すぐに帰らないとマズイですね!」
そう言って昼食を無理やり口に押し込むと、リアカーを引いて走っていった。
「あ、ちょっと待て!」
「早く早く~!」
はぁ~。
今日、俺たちは野営することが決定したようだ。
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