花ノ木笹葉は、動き出す。

「どうして……どうして、話してくれないんだ!!」


 ――そして話は冒頭に戻る。

 花ノ木笹葉は確かに、少し怒りを覚えつつあった。だが、それ以上に分からなかったのだ。困惑こそが彼を占めていた。だからこそ問い質さなければならないと思った。それが、誰も得しない、より深い地獄に落ちる事になるとしても。


「……」


 井苅言葉は話さない。

 相も変わらず、発言は一切の皆無であった。だが、彼が叫んだ事に対して、僅かにまなじりを動かしていた。それは、話しかける度に何度もあった事だった。

 故に、言葉は話を聞いてはいる。彼は、そう判断し、続ける。


「確かに僕は悪かった。それが本当に考えなしの、命に関わりかねない愚行だったというのも分かってる。罰を受けるのは当然だ。一生ずっと抱えるべき事で、それを忘れてはいけないのも分かってる。だけど、それを同じ高校に進学してまで持ち込もうというのは、一体全体どういう事なんだ!」


 なんだなんだとクラス中がざわめく。

 当然、クラスの中で彼らの関係を知らない者は少ない。とはいえ三年生になるまで同じクラスではなかった者もいたし、そもそもクラスで浮いてたり距離を置いてる者もいた。転校生だって居ない訳ではなかった。だが、それらは少数派だ。

 故に、また彼を責め立てんと、女子らが動こうとする。


「やめて」


 だが、井苅言葉は、それを制した。

 そして、彼に対して告げる。


「ちょっと来て」


 いつも通り、彼と似た仏頂面で。

 頷き、彼と彼女は、外に出向くのであった。



 ――場所を変え、人が居ない所にまで来た。

 そして彼は再び喋りだす。


「ここまで来たってことは、話してくれるつもりなんだろう?」


「……そうだね」


「どうして僕を追いかけようとするんだ」


「……自意識過剰じゃない?」


 辛辣な言葉だ。だが、それでも俯き続ける彼女に、聞かねばならなかった。


「いや、それはない。僕は前から自分の受ける高校は決めていた。口にはしなかったけど、それは前から決めていた事で、ずっとその為に二年生の時も頑張っていた。

 だけど三年生になって僕が開示した時、急に噂は広まった。言葉が僕と同じ高校を受けるんだって。成績も大きく違うのに。これで作為を感じない理由が分からない」


「……」


「教えてくれ、一体どうしてなんだ」


 そして再び黙る言葉。花ノ木笹葉も黙りこくる。

 そう、その真意を確かめず、詳らかにせずして逃げるのは、違うと思ったのだ。だから、そこに責める意思だろうと悪意だろうと作為があるなら、それはそれで受け止めるつもりであった。だがそれはともすれば、自分が納得するための自己満足。

 そう彼は自分で思っていたが、それでも聞き出さずにはいられなかったのだ。それで互いが苦しむのだとしても、せめて自分で選択したいと思ったのであった。これで教えてもらえないのであれば、それはそれで仕方ないとも思った。言えないなら、言えないで良いと言って、そしてまた地獄の日々に戻るつもりだった。

 そして沈黙が続く。彼にとっては無限にも思える、だけどきっと数分にも満たない、そんな時間が続いて……漸く、彼女は話す。話し出す。



 その内容は、彼の想像だにしない言葉であった。

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