●26 会議は踊る、されど 5
魔道士M『一応、聖力についても研究はしているからね。けれどボクが興味があるのは力だけさ。宗教の教義になんて興味はなくてね、残念ながらそのあたりは調べてないんだ。まぁ、大体の想像はつくけれど』
闘戦士S『宗教団体のやることはたいてい決まっている』
魔道士M『おや、シュラトにしてはなかなかに辛口だね。けれどまぁ、その通りさ。あの手の輩が言うことは決まり切っているからね。調べるまでもないのさ。実際、上層部の彼らがやっているのは醜い権力闘争なのだからね。語る価値もない』
勇者A『それで? そんなジジイ共の
魔道士M『決まっているじゃあないか。平和ボケした老人にはバケツで水をぶっかけてやるのさ。そうでもしないと目が覚めないだろうしね。いや、それにしても、バケツで水をぶっかけると尻に火が点く、か。これはまた妙な表現になってしまうものだね』
勇者A『かけてるのは水じゃなくて油なのかもな。って、それ全然具体的な話になってないだろ。【俺達はどうすればいい】?』
魔道士M『おっと、こいつは嬉しいね。我ながら
闘戦士S『俺達、仲間』
勇者A『どうせ最初から俺達を巻き込む気満々だっただろ、お前。そうでもなけりゃ、こうやって招集に応じるわけないしな。逆に、俺達の協力がいらない時は完全無視で好き勝手やってたに決まってる。お前のやりそうなことなんて俺もシュラトもわかってんだよ』
魔道士M『おかしいね。君達の中でボクのイメージはどうなっているんだい? 知っての通り、ボクは
闘戦士S『エムリス、具体的な話が聞きたい』
魔道士M『えっ、完全スルー?』
勇者A『与太話はどうでもいいってよ。ほれ、とっとと話せ、
魔道士M『
闘戦士S『魔王エムリスの討伐?』
魔道士M『はははは、面白い冗談だね、シュラト。……冗談だよね?』
勇者A『とりあえず、元勇者とその一行として魔王エムリスに対抗する振りをしつつ、魔王軍の矛先が自然とヴァナルライガーに向くようにして、密かに聖神教会の引き籠もり達をビビらせる手伝いをする――こんな感じか?』
魔道士M『流石だね、アルサル。そこまで理解してくれているのなら話は早い。わざわざ魔王を名乗った甲斐があるというものさ。付け加えて、魔界から流れ込んでくる魔力の危険性を世界中に喧伝して欲しいね。そうすれば世論の目が自然と聖神教会へと向かうだろう。いくら昼行灯な教皇や総大司教も動かざるを得ないはずさ。人々の信仰を集めてナンボの商売なのだからね』
勇者A『宗教団体をはっきりと商売と言い切るな。情緒もクソもないじゃねぇか』
魔道士M『そうでないのであれば、ボクも嬉しかったのだけどね。ともあれ、魔族と魔物の牙が喉元に触れるまで、教会の老害は絶対に動かないだろうからね。君達は抵抗しながら、防衛線の一部に穴を開けておくれ。ボク達はそこを通ってヴァナルライガーへ電撃的な侵攻を仕掛ける。結果として聖神教会が重い腰を上げて、魔力の中和に出たのなら目下の目論見は成功だ』
勇者A『あー……まぁ、セントミリドガルはしばらくゴタゴタしているだろうからな。穴なんていくらでも作れるかもだが……アルファドラグーンはどうするつもりだ? お前が世話になってた国だし、何よりアルファドラグーンは昔から魔物の脅威に晒されてきた国だ。抵抗は激しいと思うぞ』
魔道士M『ああ、そこは任せておくれよ。見ていたまえ、ボクこと魔王エムリスはこれからアルファドラグーンを犠牲一つなく落として見せよう。無論、交渉や策略なんて
勇者A『魔王なのか大魔道士なのか、どっちなんだよ……』
魔道士M『というわけで、そっち側――つまり人類側は君達に任せるよ。どうかうまい具合にボクの魔王軍を止めておくれ。そして、いい感じに一部を見逃してヴァナルライガーまで進攻させて、魔界からの魔力を中和させて欲しい。そう、一言で言えば――世界を救ってくれたまえよ』
闘戦士S『責任重大』
魔道士M『頑張ってくれたまえ。成功すれば魔王モドキは復活せず、たとえ人体には無害なレベルで中和されようとも人界全体で見れば大気の魔力濃度も多少は上がるはずで、ボクにとっても人類にとってもいいことづくめだ』
勇者A『おい、俺達にとってメリットが全然ないんだが。おい』
魔道士M『そればっかりは仕方がないさ。世界は変わる――いいや、君達とボクとで変えてしまったんだ。魔王エイザソースを【殺す】ことによってね。結果として、この世界の根幹的なルールを捻じ曲げてしまった。不可逆の変化を起こしてしまった。だから、これはそのツケなんだ』
闘戦士S『後始末か』
魔道士M『そうさ、まさにその通りだよ、シュラト。これは後始末だ。魔王から世界を救った、そのアフターケア。そして、【世界を救ってしまった】ボク達に課せられたペナルティでもある』
勇者A『……ま、裏技使いまくりの反則チートで手にした勝利だったしな』
魔道士M『そういうことだね。仕方のない話さ。精々、四人で世界の後始末を頑張ろうじゃあないか』
姫巫女N『ほいほーい、おまたせさんどす。ここまでのログ、きっちり読ませていただきましたえ』
勇者A『おう、ニニーヴ。ちょうど話が一段落ついたところだよ。っていうか、ニニーヴって確か聖神教会の幹部だったよな? そっちから働きかけて教会に魔力の中和をさせるってルートはないのか?』
姫巫女N『どうやろねぇ? エムリスはんの言う通り、上のおじいちゃんらはお互いの
闘戦士S『意識改革が必要』
姫巫女N『せやね。やから、エムリスはんの予想通り、実際に危ないのが近くまで
魔道士M『やれやれ。他者の
勇者A『お、おう……』
魔道士M『笑顔で聞くけどその反応はどういう意味かなアルサル?』
勇者A『いや嘘つけ、絶対に笑顔なんて浮かべてないだろお前』
闘戦士S『ニニーヴ、参加が遅れたのは何故?』
姫巫女N『ややわぁ、シュラトはんのそういう空気を全然読めへんところ、昔と変わってなくて安心するわぁ。しかも、めっちゃストレートやし。相変わらずやねぇ』
魔道士M『ああ、そういえばボクも君に確認したいことがあったんだ。君の中にある〝憤怒〟や〝嫉妬〟の様子はどうだい? 何か変わったこと、困ったことはないかい?』
姫巫女N『エムリスはんも心配ありがとうなぁ。おかげさまでウチは元気いっぱいやで。どうにか〝憤怒〟はんも〝嫉妬〟はんも大人しゅうしとってくれてはるわ』
魔道士M『ふむ。なるほど。ということは、やはり仮説は正しいのかもしれないね。八悪の因子は孤独であればあるほど活性化する……ニニーヴは聖神教会という組織の中に身を置いているから孤独とは無縁だろうしね。君に宿った因子が暴走していないということは、つまりはそういうことなんだろう』
姫巫女N『そうなん? とゆうか、暴走? そない大変なことありますん?』
勇者A『ま、その話はまた今度な。それより、さっきもシュラトが聞いていたが、遅刻なんてニニーヴにしちゃ珍しいじゃねぇか。何かあったのか?』
姫巫女N『あー、せやったね。そうなんよ、ちょいと折り悪く別件が入っとってねぇ? やけど、おかげで面白い話が聞けたんよ。ちょうどよかったわ、アルサルはん、エムリスはん、シュラトはんに聞いてもらおう思ってたんよ』
魔道士M『おや? ニニーヴがそんな情報屋じみた物言いをするなんて珍しいね。どういった風の吹き回しだい?』
闘戦士S『参加が遅れたことに関連が?』
勇者A『あー……気のせいか? 何だか嫌な予感がするんだが……』
姫巫女N『大丈夫やでー、アルサルはん。ウチが持ってきたんは
勇者A『おいおい、期待と不安が同じ速度で膨れ上がっていくんだが?』
姫巫女N『あらあら。せやから大丈夫やて、アルサルはん。アンタはんは昔から心配性やねぇ。ちょっと歯ぁ食いしばったら耐えられるもんやから、安心してぇな』
勇者A『全然まったく安心できないんだけどな!? というか早くその面白い話とか悪いお知らせ言ってくれよ!』
姫巫女N『あーせやった、せやった。ほな、どっちから知りたい? 面白い話? それとも、悪い話?』
魔道士M『個人的には悪い話を先に聞きたいね。とても気になる』
闘戦士S『同感』
姫巫女N『ほな、悪いお話からいきまひょか。ちょいと驚きの事実やさかい、よう気張って聞いておくれやす』
魔道士M『ああ、問題ないよ』
姫巫女N『ちぃと唐突なんやけど……ウチら自身のことについてや。なんと……』
闘戦士S『なんと?』
姫巫女N『な、なんと……!』
勇者A『な、なんと……?』
姫巫女N『な、な、な、なんと……!』
魔道士M『
姫巫女N『はいな』
姫巫女N『ま、簡単に言うと、ウチら全員が〝コピー人間〟やった、ちゅう話ですわ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます