●26 会議は踊る、されど 4
魔道士M『君達……どれだけボクのことを信じていないんだい――と言いたいところだけれど、八悪の因子のこともあるし、まぁ仕方ないか。それにちゃんと〝言い訳〟だと表現した辺りに気遣いがあると見て、目をつむろうじゃあないか。結構かなり心外ではあったし、こんなボクでも多少は傷ついたのだけどね。傷ついたのだけど、ね?』
勇者A『いや繰り返すな。大事なことだから二回言いました的な空気を出すな。全然目がつむれてねぇぞ。ウィンク下手くそか』
闘戦士S『エムリス、魔王モドキの復活を阻止するための具体的な方法が聞きたい』
魔道士M『完全スルーありがとうシュラト。君もまったく相変わらずだ。しかし魔王モドキの【復活】とは、また言い得て妙だね。確かに魔王モドキは魔王と同一ではないかもしれないけれど、しかし状況的には〝復活〟と言っても過言じゃあない。魔王が存在した時と同等か、あるいはそれ以上の被害が生じるだろうからね』
勇者A『千年に一度の〝天災〟がたった十年で再発するとか、悪夢だろ……』
魔道士M『まったくだね。さて、シュラトが言うように具体的な説明が必要かな。まず、ボクが敢えて魔王を名乗った件について話そうか。先に言っておくけれど、別にノリで言ったわけじゃあないよ。わかってるとは思うけれど』
勇者A『あー大丈夫、大丈夫。わかってるって。いやマジで』
闘戦士S『わかっていた。問題ない』
魔道士M『――本当かなぁ!? 君達、本当にそう思ってたのかな!? はっきり言うけれども、ものすごく信憑性がないのだけどね!? さっきの今なのだし!?』
勇者A『まぁまぁ、落ち着けって。いや、正直言えば微妙なところだったんだけどな。でも昔のお前を思えば、理由もなしにこんなふざけたことはやらないはずだろ? とはいえ、この前の『果ての山脈』での前科もあったしな。魔族相手に変な
魔道士M『あれは魔族が相手だったからだよ。いくら何でも人間相手にあのノリで行ったりなんてするものか。魔族の精神性を考えれば、最初にガツンと行くのは正攻法なんだ。それは君達も知っているだろう?』
勇者A『まぁな。あいつら
魔道士M『ボクは基本、必要のないことはしないさ。知っての通りボクの中には〝怠惰〟がいるのだからね。余計なことはしたくないんだよ。そして、そんなボクが魔王を名乗ったのにも無論のこと理由はある。それは――』
闘戦士S『それは?』
魔道士M『――西の大国ヴァナルライガー、を本拠地とする【聖神教会】に動いてもらうためさ。……ん?』
姫巫女N が参加しました。
魔道士M『おやおや、噂をすればなんとやら。ちょうどよく聖神教会の幹部様のお目見えだ』
姫巫女N『おばんどすー。お久しぶりやねぇ、ほんま』
勇者A『おう、久しぶりだな、ニニーヴ』
闘戦士S『久しぶりだ』
魔道士M『やぁ、元気そうで何よりだよニニーヴ。ちょうど君の話をしようと思っていたところなんだけれど……何のことかわからないだろうから、君はまずログを読んでくれるかい?』
姫巫女N『へぇ、ウチの話やったん? ほなら、ちょいお待ちになってなー。ここまでの記録を読んできますよってに』
勇者A『……相変わらずのゆるさというか、不思議なノリだな、ニニーヴ。正直すげぇ懐かしいぜ……』
闘戦士S『同感』
魔道士M『さて、ニニーヴがログを読んでいる間にも説明できることは説明しておこうか。あと、ニニーヴにはどうして参加が遅れたのかについて聞けるよう、ここにメモしておこう。ニニーヴ、これを読んだら教えてくれたまえよ』
勇者A『よく考えたらエムリス、お前がえらいこと仕出かしたからこんな緊急会議を開いてるっていうのに、なんでお前が普通に仕切ってるんだよ……』
魔道士M『細かいことを気にしてはいけないよ、アルサル。あと、ボクは何も仕出かしてなんていない。今回のはいわば緊急避難だよ。それを説明しよう』
闘戦士S『ヴァナルライガーと聖神教会、どうして必要なのか?』
魔道士M『簡単な話さ、シュラト。〝龍脈結界〟に穴を開け、魔界の魔力を人界に流出させることによって濃度を薄め、魔王モドキの復活を阻止する――そう、魔王モドキを復活させないためには、これは絶対に必要な
勇者A『魔力は原則、人間にとって〝毒〟だって言いたいんだろ?』
魔道士M『その通りだよ、アルサル。原則――あくまでも原則だけれど、魔力は人類の肉体に適合しないエネルギーだ。もちろん例外はあるのだけど。そして、猛毒というほどではないが、だからといって無視できるほど影響が軽微なものでもない。何とも微妙な
勇者A『ファンタジー的な存在の魔力が、まるで産業廃棄物みたいだな……』
魔道士M『夢がないことを言わないで欲しいね、アルサル。けれど、ああ、確かにそうかもしれないね。今回ばかりはその例えが的確かもしれない。魔界に溢れる魔力はどうしようもなく
闘戦士S『毒を中和?』
魔道士M『そうさ。一番いいのは、魔界すべての魔力を魔族や魔物ごと別次元へと捨てることだけれど、それは流石に不可能に近いからね。魔界の魔力を薄めるためには、やはり人界へ破棄して濃度を低めるしかない。だが流出した毒――魔力は適切に処理すれば、その毒性を消すことが可能だ。どうすればいいかは、君達も知っているだろう?』
勇者A『……そこで聖神教会の名前が出てきたってことは、まさか聖力で打ち消すってことか?』
魔道士M『逆に聞くけれど、他に方法はあるかい? 魔力と勢力は相反するもの。魔力を無害化するには、聖力をぶつけて中和するか、あるいは――』
闘戦士S『あるいは? 他にも方法があるのか』
姫巫女N『そらまぁ……【人間が魔力に耐えられるよう進化する】――ぐらいしかおまへんねぇ?』
勇者A『うおっ? びっくりした……』
魔道士M『ニニーヴ……ログを読んでいるはずの君がボクの台詞を取らないでくれるかな? 相も変わらず抜け目のないことで、それはそれで
姫巫女N『あらあら、すんまへんねぇ、つい。ほな、追いつくまで黙ってるさかい、続けたってくださいな』
魔道士M『言われずともさ。ごゆっくり。さて、続きだけれど――とはいえ、だ。
勇者A『エムリス、お前ニニーヴがログ読みに行っているからって、思いっきり言いたい放題だな……』
魔道士M『いや、別に嫌味でも当てつけでも皮肉でもないさ。単なる事実だよ。
闘戦士S『エムリス、
魔道士M『あんな連中を動かそうというのだからね、辛辣にもなるさ。さぁ、そんな自分のことしか考えない老害を動かすためにはどうすればいいと思う? はっきりと自分で言ってしまうけれど、ボクが魔王を名乗って人界に攻め込んだところで、一切の動揺も見せないだろうね。それは十年前の魔王エイザソースの時代に立証済みだ。彼ら、聖神教会は動かない。それこそ、ヴァナルライガーに魔の手が
勇者A『あー……今のでわかった。つまり、お前が魔王エムリスを名乗ったのは、西で引き籠もっている聖神教会を威嚇するための
魔道士M『ああ、理解が早くて助かるよ、アルサル。その通りさ。ボクが魔王を名乗ったのも、人界へ逃げるように侵攻する魔族軍に
闘戦士S『ようやく繋がった』
勇者A『要するに……魔王モドキの復活を阻止するために〝龍脈結界〟に穴を開けて、人界に魔力を垂れ流した。だが魔力は人間にとって毒だから、それを中和するためには聖力を扱う聖神教会に動いてもらわないといけない。そのため、敢えて魔王を名乗って人界を侵略する振りをする――ってことでいいんだな、エムリス?』
魔道士M『ああ、細かい部分を除いて端的に言えば、そうだね。と言っても、現段階でもまだ聖神教会は動かないだろうから、更なる一手が必要になってくるとは思うのだけど』
闘戦士S『聖神教会、どうして動かない?』
魔道士M『決まっているじゃあないか。【何とかなると思っているからさ】。自分達が動かなくともね。実際、歴史が証明している。世界のバランスを
勇者A『しかも、俺達の代にいたっては【抹殺】までしたしな』
魔道士M『そのことを彼らは知らないだろうけどね。魔界と
勇者A『教義のことはよく知らないと言いつつ、めちゃくちゃ調べてるなお前……』
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