●26 会議は踊る、されど 3
勇者A『それで、魔族達が魔界から逃げ出さないといけないってのは、どういうことだ?』
魔道士M『わからないかい? 魔王が復活すると、魔族や魔物はどうなるかは君も知っているはずだろう?』
勇者A『……魔王に精神を支配されて、自我を失う。自分では動くことができない魔王の手足となって、人間を襲い出す――なるほど、そういうことか』
魔道士M『その通り。意識を失って自由が奪われるだなんて、実質死んでいるようなものさ。その
闘戦士S『昔、
魔道士M『彼らの話を信じるのなら、どうもそうらしい。といっても、ボク達は実際に彼らと会話をし、よく罵倒やら嫌味を聞かされたものだけれどね。まぁ、そのあたりはクオリアの問題だろう』
勇者A『クオリア……ってなんだ?』
魔道士M『わかりやすく言えば〝主観的意識〟というやつさ。魔王の支配下にあるときの魔族にはそれがない。だけど、いちいち手取り足取り操らないと動かない人形でも困る。なら、既に肉体に刻まれている記憶をもとに自律的に行動する方が魔王だって助かる。よって、魔族や魔物はクオリアを失いながらも、それでも記憶にある通り〝自分らしい行動〟をシミュレートして動いたり喋ったり、何なら食事や
勇者A『便利というか、生き物として
魔道士M『それだけ魔王という存在が
闘戦士S『――天敵。
勇者A『あー……言いたいことはわかるけどな? でも、そんなこといちいち考えてたら戦えなくなっちまうだろうが。同情は禁物だ。俺達はどこまでいっても人間側の存在なんだ。しかもあいつらの性質上、どうあっても共存はできないんだしな。戦って殺す、それしかないんだ。割り切るしかねぇだろ』
魔道士M『……本当にアルサルはアルサルだねぇ。割り切りが良すぎるのも困りものだ。やっぱり、君に正義だの道徳だの優しさだのについてゴチャゴチャ言われるのは心外だな。君ほどの
勇者A『いや俺こそお前に冷血漢とか言われたくないんだが? さっき一発でなんたら大公の一匹をぶっ殺してやったって誇ってたのはどこのどいつだ?』
闘戦士S『正直、二人とも似たようなもの同志だと思う』
魔道士M『……第三者から客観的に言われると衝撃的だね……魔道士は智を追求するものだけど、こればかりは知りたくなかったかな……』
勇者A『失礼千万すぎるだろお前……ってか話が盛大に
魔道士M『そう単純明快な話ではないさ。先程も言ったように、ボク達への復讐も目的に含まれていただろうしね。あと、おそらくだけれど――』
闘戦士S『まだ理由があるのか』
魔道士M『――大公らの話を聞くと、彼らは『果ての山脈』の
勇者A『……とか言ってる当のお前が、その〝龍脈結界〟をぶっ壊してくれやがったわけだが?』
魔道士M『まぁまぁ話は最後まで聞きたまえよ。彼ら魔族は、どうして〝龍脈結界〟を破壊しようとしていたと思う?』
闘戦士S『〝龍脈結界〟は魔力をせき止める防壁』
魔道士M『そう、逆に言えばそれだけの結界だ。人界に乗り込むだけなら別に破壊する必要なんてないそれを、魔族はあえて破壊しようとした……つまり?』
勇者A『面倒くせぇからさっさと答えを言えよ。まぁ、大体わかるけどな』
魔道士M『短気だねぇ。ま、いいか。シュラトの言う通り〝龍脈結界〟は魔界に充満する魔力を人界側へ流れこまないようにしている、いわばその為【だけ】に存在する結界にして防壁だ。魔力以外のものは簡単に素通りできるけれど、そのかわり魔力だけは何があっても絶対に通しはしない――そういったピーキーな設計だね。対象を
勇者A『おかげで結界があるにもかかわらず、魔族も魔物もその気になればこっち側に入り放題だったわけだよな。まぁ、魔力が薄いこっちじゃ長時間の活動は難しかったようだが』
魔道士M『そう。ここまで説明すればもう大体はわかるね? 魔族は【人界に魔力を持ち込みたかった】のさ。〝龍脈結界〟を破壊し、魔界に満ちた魔力ごと人界へ乗り込む――これが成功して初めて、魔族は人界を支配することが可能となる。いやぁ、そう思えば〝龍脈結界〟とはよく考えられたものだね。魔族や魔物そのものではなく、【補給線を断つ】ことによって侵略を防止するなんて。上手いやり方を思いついたものだよ』
闘戦士S『
魔道士M『その通り。〝龍脈結界〟がある限り、散発的な攻撃は容易でも本格的な侵略は困難を極める。実際、十年前の魔王軍もアルファドラグーンの国土を三分の一ほど手中に収めたけれど、結局は中央の王都は落とせず、また支配権を手にした北部と南部を伝って二ルヴァンアイゼンとムスペラルバードを攻撃したけれど、
勇者A『で、そこから先の展開になる前に、俺達が魔王を倒したってわけだよな』
魔道士M『
闘戦士S『また別の意味とは?』
魔道士M『濃密な魔力が凝り固まることによって魔王は発生する。つまり――逆に言えば、魔力が分散してしまうと魔王は誕生できない。〝龍脈結界〟に穴を開け、魔界に充満する魔力を人界へ垂れ流し、濃度を薄める。そうすれば新たな魔王だか魔王モドキの発生を遅延、あるいは阻止することができる。彼ら魔族はそう考えたのさ』
勇者A『要するに、結界に穴を開けて魔王モドキの発生を阻止しながら、逃げ出すついでに人界を侵略して、さらには俺達が殺した
魔道士M『欲張ったというより、人界侵略という一つの行動にいくつもの利点があっただけ、と見た方が正確だと思うのだけどね。とはいえ、魔族の思考は人間のそれよりもなお利己的かつ自己中心的だ。君の感想を否定するつもりはないよ、アルサル』
勇者A『へーへー、ご高説どうも。なんにせよ短絡的な話じゃねぇか。……で?』
魔道士M『で? というと?』
勇者A『まだ肝心なことを聞いてないぞ。その人間よりも利己的かつ自己中心的な魔族に、【どうしてお前が味方してるんだよ】?』
闘戦士S『味方しているというより、主導している』
勇者A『おう、そうだった。よりにもよって〝魔王エムリス〟だぁ?
魔道士M『やれやれ、困ったことだね。ここまで君達の理解力が低いとは。少し買いかぶり過ぎていたかな? かつての仲間達が
勇者A『おいおいすごいなお前。なんでそんな上から目線なんだ? 普通はそっちからちゃんと説明するのが筋だっていうのに、いつの間にかクイズ形式になっているとか。マジ引くわ……本当そういうとこな、〝残虐〟の因子に引っ張られてるのかどうかは知らんが』
闘戦士S『落ち着けアルサル。エムリスは昔からこういうところがあった。因子のせいではない』
魔道士M『シュラト、それフォローになっていない気がするのはボクだけかな? かな?』
勇者A『割と素でディスるところあるよな、シュラト……』
闘戦士S『そうか?』
魔道士M『ああ、うん。この話を続けるとボクにとって不愉快な方向に話が転がりそうだからやめておこうか。さて、それじゃあ説明するけれども。いくら君達でも多少の予想は出来ているだろう? ボクが魔族と手を組んだのは――もちろん、魔王もしくは魔王モドキの発生を未然に防ぐためだよ』
勇者A『……あー、まぁ、うん。やっぱりか。一応もしかしたらそうかもなーとは思っていたんだが……そう推察した上でお前のやり方が滅茶苦茶すぎて、本人の口から聞かないとまったく信用ができなかった、とは言い訳しておくぞ?』
闘戦士S『右に同じだ』
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