●26 会議は踊る、されど 2
魔道士M『落ち着きたまえよ、アルサル。十年前にもよくやっていたことじゃあないか。まぁ、あの時はボク達はまだ幼くて弱かったから、下位の魔族ぐらいとしか交渉できなかったのだけれど。おかげで大した情報は得られなかったし……今思えば、あの状況で【魔王の正体】に到達できるだけの情報を得られたのは、ほぼ奇跡だったと言っていいね。とても運がよかった』
闘戦士S『運命だったのかもしれない』
魔道士M『へぇ、そいつは素敵な考え方だね、シュラト。ボクも是非ともそう思いたいものだ。ボク達は魔王を殺す運命に選ばれし四人だった――とね』
勇者A『偶然でも奇跡でも運命でもどうでもいい。つーか、起こったことに後から理由付けして何か意味あるか? それより、そのなんちゃら大公からは、何かおもしろいことでも聞けたってのかよ』
魔道士M『ああ、これはもったいぶっても意味はないからあっさり言うけれど――【魔王が近々復活するかもしれない】』
闘戦士S『!?』
勇者A『は? 何言ってんだお前?』
魔道士M『ほらね、予想通りの反応だ。まったくもって面白くない。まだシュラトの方がマシなリアクションしてくれているじゃあないか。つまらない男だよ、アルサルは』
勇者A『……いやいや、そうは言ってもお前な? ちょっと考えてもみろ。リンゴが空に落ちていくか? 猫がワンと鳴くか?
魔道士M『うん、残念だけどね、アルサル。悲しいことにこれは冗談じゃあないんだよ。本気も本気、洒落抜きの真実だ』
勇者A『……あり得ないだろ。十年前、俺達は魔王を〝封印〟するんじゃなく、〝殺した〟んだぞ。もちろん、それだけで二度と復活しないなんて断言はできねぇが……〝封印〟だけでも千年はもつんだ。なのに、歴史上初めてぶっ殺してやったっていうのに、百年もしないうちに復活するだと? 明らかに計算がおかしいだろうが。一万年ぐらい死んでてもいいはずだぞ』
魔道士M『気持ちはわかるよ、アルサル。というか、心情的にはボクも同感さ。あってはならない理不尽だと思う。だけど、現実を無視するわけにもいかない。そうだろう?』
闘戦士S『エムリス、説明を』
魔道士M『ああ、わかっているとも。まずは原因について。ボクが六剣――ではなく五剣大公から聞いた話によると、結局のところ魔王復活の原因はボク達、ということになる』
勇者A『はぁ!? なんでだ!?』
魔道士M『大体の察しはつくだろう? 先日の戦いさ。魔界の
闘戦士S『確かに、央都は
魔道士M『ああそうさ。さらにはっきり言うと、生存者……生き残った魔族は大公らだけだったそうだよ。あちらから見れば大虐殺だね。それはもう、復讐のため総力を挙げて人界へ攻め込む気にもなるってものさ』
勇者A『……ま、確かにな。それ自体を
闘戦士S『アルサル、微妙』
勇者A『うるせぇ、変な言い方するなよ。沈痛な面持ちだとか、他にも言いようあるだろうが』
魔道士M『さて、本題だ。生き残った上級魔族は、当然ながら復讐の炎を胸に抱いて人界を攻撃しようと考えていたわけだけれど。しかしそれだけじゃあない。彼らはね、【逃げる必要があった】のさ。生まれ育った故郷、魔界から。少しでも遠くへ』
勇者A『――魔王が復活するから、か?』
魔道士M『その通り。いつだったか、君には少し前にも語ったことがあったね、アルサル。封印された魔王が復活する、そのメカニズムを』
勇者A『ああ、アルファドラグーンで再会した時か? お前が、俺の土産で持ってきた竜玉で無茶やった時の話だろ』
魔道士M『挑戦的な実験と言ってくれたまえ。時代を
勇者A『物は言いようだな』
魔道士M『というわけで繰り返しになるけれども、魔王復活の鍵は〝魔力〟だ。通常、魔界に充満している魔力は自然に発生したものじゃあない。あの領域に棲まう魔族や魔物から生まれたもので、実は魔界特有のものではないんだ。魔界に魔族や魔物がいるのではなく、魔族や魔物のいる場所こそが魔界となる。わかるかな?』
闘戦士S『わかる』
魔道士M『素晴らしいね、素直な返事だ。ではさらにいこう。魔王が復活するために必要なのは、大量かつ濃密な魔力――というより、膨大な魔力が寄り集まり、凝縮することによって魔王は【発生する】。だから例え封印したとしても、いずれ魔王は新たに【発生】し、さらにその力でもって封印を破って【復活】する。これが大体、千年周期で起こっていたことだと、ボクは分析している。まだ仮説ではあるけれど、そう大して間違ってないんじゃないかと確信しているよ、個人的にね』
勇者A『要は魔王が発生&復活するには、気の遠くなるような時間をかけて膨大な魔力が溜まらないといけない――ってことだろ?』
魔道士M『そう、その通りだよアルサル君。察しがいいね。つまりはそういうことで、魔王は魔力がある場所に誕生する。極論、どこでもいいんだ。膨大にして濃厚な魔力さえあれば、そこに自然と発生する――それが魔王という〝現象〟なんだよ』
闘戦士S『まるで台風のようだ』
魔道士M『ああ、いいこと言うね、シュラト。まったくその通りだよ。魔王とは自然現象と言っても過言じゃあない。エネルギーが集まり、形をなし、やがてエネルギーを使い果たして消滅してく……まさに台風そのものだ。ただ問題は、そのエネルギー量が台風とは比較にならないほど膨大なことなんだけれど』
勇者A『なぁ、話が見えないんだが……まず、魔王が復活するってことはわかる。ついでに自然現象みたいなものだってこともわかった。だがな――俺達はそんな魔王を【概念ごと殺した】はずだろ? 再現可能な〝封印〟じゃなく、きちんと〝抹殺〟したはずだ。この世界の
魔道士M『おっと、勘違いしないでおくれ、アルサル。ボクは魔王が復活するだなんて【断言】はしていないよ。ボクはこう言ったんだ、【魔王が近々復活するかもしれない】――とね』
闘戦士S『まだ可能性の話なのか?』
魔道士M『正直、微妙なところではあるのだけれどね。まだ確信に至るだけの材料が手元にない、というだけの話で。けれどボクの信条としては、確実ではないことを断定するのは避けたいのさ。だから、かもしれない、とボクは言う』
勇者A『まどろっこしいやつだな……』
魔道士M『アルサルにだけは言われたくないよ。いつもいつもまどろっこしいことを言って、肝心な行動にはなかなか出ないくせに……君だってムスペラルバードの国王になっていながら、未だに世界統一も出来ていないじゃあないか』
勇者A『はぁ? いやいや、そういう話はしてないぞ? なんでそうなるんだよ?』
魔道士M『はいはい、そういうことにしておこうか。話を戻そう。アルサルが疑問に思う通り、確かにボク達は魔王を殺した。本来、歴代の勇者一行がやってきたように封印することしか出来なかった魔王を、その存在の根底から否定したんだ。外部世界の力、八悪の因子を
勇者A『――? じゃあ、なんで魔王が復活するかもしれない、なんて話になるんだよ?』
魔道士M『そうだね、簡単に言うなら――台風は死んだけれど、竜巻はまだ生きている……という感じかな? この意味、わかるかい?』
勇者A『……………………なんか、ちょっと嫌な予感がしてきたぞ』
魔道士M『いいね、嫌な予感がするということはボクのたとえ話が理解できているということだ。つまり、ボクが言いたいことをより詳細に言うならば、こうなる。――近く魔王【みたいな】存在が生まれる可能性が高い……とね。非常に残念なことながら』
闘戦士S『なんてことだ』
勇者A『いやあっさりしてんなシュラトお前。まぁ、お前らしくていいと思うが……しかし、魔王みたいな、か……あー……………………マジかー……』
魔道士M『おやおや、テンションが地の底まで下がっているね、アルサル。むしろ君なら闘志が燃え上がるものかと思っていたのだけど』
勇者A『アホか。盛り上がるわけないだろ。あんだけ頑張って魔王を殺したってのに、それがほとんど
魔道士M『おや、そうかい、じゃあ君の気分が下がっている間に重要なことを言っておこうか。今回、その〝魔王みたいな〟のが発生する理由は二つ。まず一つが、君とシュラト、そしてボクが繰り広げた戦いによって犠牲になった魔族と魔物の命。彼らが死ぬことに大気に解放された魔力がかなりの量となるようだ。魔界の中心だけあって、上級魔族も大勢いただろうしね。実に自然な流れだよ』
闘戦士S『もう一つは?』
魔道士M『うん、ボクの魔力だ。正直、大変申し訳ないと思っている』
勇者A『……………………は?』
魔道士M『いやぁ、とっても言いにくいことなのだけどね。ボクの魔力は強くなりすぎてしまったようなんだ。魔道士としては誇らしいことなのだけどね。けれど、この世界においては過ぎた力だったらしい。
勇者A『……おい、ちょっと待て。まさか――』
魔道士M『ああ、そのまさかさ。シュラトを止めるために思いっきり魔力を使ったからね。それが魔界において何百年もかけて生まれる魔力量に匹敵したらしい』
勇者A『ちょ、おま、』
魔道士M『しかしまぁ、起こってしまったことは仕方がない。そこをとやかく言うのはやめようじゃあないか、アルサル。変な風に話が転がると、またぞろシュラトが責任を感じて暗くなってしまうよ?』
闘戦士S『もう感じている』
魔道士M『ほらね? 繰り返すけれど、さっきも言ったようにこれはボク達全員の責任だよ、シュラト。一人で抱え込むのはなしだ。なにより八悪の因子への影響もあるしね。問題はみんなで共有しあって、協力して解決にあたるべきだよ。二度と同じような間違いを犯さないためにもね』
闘戦士S『……わかった』
勇者A『……………………とりあえず細かいことは抜きにして、つまりはそういう理由で魔王が復活するってわけだな。まずは理解した』
魔道士M『いいね、君は
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