●26 会議は踊る、されど 1
えらいことになった。
まさかの事態である。
意味がわからん。
何がどうしてこうなったのか、まったく理解が
信じて送り出した魔道士が、魔王になって帰ってきた。
こうして言葉にしてみると余計に理解しがたい。
リンゴが空に落ちていこうが、猫がワンと鳴こうが、これほど
一体エムリスに何があったというのか。
――というわけで早速、通信理術で問い合わせてみた。
もちろんシュラトと、久しぶりのニニーヴも含めてグループチャット形式で。
勇者A がフィールドを作成しました。
魔道士M が強制招待されました。
闘戦士S が招待されました。
姫巫女N は招待中です。
勇者A『エムリスてめぇ!
魔道士M『おやおや、ものすごい
闘戦士S『説明、必要、
魔道士M『シュラトは相変わらず、こういった通信の使い方が下手だね。まぁ、簡潔でわかりやすくていいのだけど』
闘戦士S『無駄口、不要』
勇者A『ほれ見ろ、シュラトだって怒ってるだろうが。とっとと説明しろよエムリス。お前、なに世界中に向けて宣戦布告とかやってんだよ。なんだ魔王エムリスって。正気か?』
魔道士M『何をやっているのかと言われてもね、聞いての通りさ。ボクは新たな〝魔王〟となった。そして、〝魔王〟のすべきことなんて決まっているだろう? ふふん』
勇者A『決まってるわけがあるか! 自信満々で勝ち誇ったように笑うなっつーの! というかだ、そもそも〝魔王〟になったってぇのはどういう意味だ!? アレそんな簡単に継承したりできるようなモンじゃねぇだろ!』
闘戦士S『同感。エムリス、暴走疑惑』
魔道士M『おやおや、シュラトの言葉は短く
勇者A『いやいや……いやいやいやいやいやいやいやいや! だったら尚のこと意味不明だろうが! お前それ
魔道士M『だから落ち着きたまえよ、アルサル。君はあれだね。普段はそこそこフラットなのに、感情の波が一定の
勇者A『……………………よし、落ち着いたぞ。耳をかっぽじって聞いてやるから、ちゃんと話せよ』
魔道士M『やぁ、こいつはすごい。冷静に自分の非を認めて、深呼吸して自制をかけたね。そういった切り替えの速さは君の美点だと思うよ、アルサル』
闘戦士S『エムリス、話を』
魔道士M『ああ、わかっているとも。そう
闘戦士S『ニニーヴ、遅い。そのせいか?』
魔道士M『言われてみればそうだね? んー……アルサルからの招待状は届いているはずだし、通常なら自動反応でリンクしそうなものだけれど……ああ、でも、もしかしたら【他の通信】に参加しているのかな? その場合だったら、思考を分割でもしない限りこっちには来られないかもしれないね。思考分割、ボクはよくするけれど――君達はあまりしなさそうだし、ニニーヴもきっとそうなんじゃないかな?』
勇者A『来ないもんはしょうがねぇだろ。とりあえずニニーヴのことは置いといて、とにかくお前の話だ』
魔道士M『仕方ないね、では本題に入るとしようか。さて……聞きたいのは、ボクがどうして〝魔王〟になったのか? でよかったかな?』
勇者A『ああ。つうかお前、『果ての山脈』付近に集まった魔族をどうにかするためにそっちへ行ったはずだろ。魔王軍がアルファドラグーンに攻め入るのを止めに行った奴が、なんで〝魔王〟を自称して人界を滅ぼそうとしてやがんだよ。ミイラ取りがミイラになるってレベルじゃねぇぞ』
闘戦士S『八悪の
魔道士M『もちろんその通りさ、シュラト。まったく……君達ときたら本当に決めつけが好きだね。ボクが事情を説明する前からゴチャゴチャと決めてかかってさ。もう少し他人を信用してみたらどうなんだい?』
勇者A『やかましい。そう思うなら少しは信用されるような行動をとってみろってんだ。いくらなんでも突然あれだけのことやられたら、百年の信用だって吹っ飛ぶわ、常識的に考えて』
魔道士M『はいはい。ではボクが事を起こした理由だけれど……そうだね、わかりやすいよう時系列に沿って話そうか』
勇者A『おう』
魔道士M『あれはそう、百万年前のこと――』
勇者A『おいこら。早速ふざけるんじゃねぇ』
魔道士M『ふふふ、ちょっとしたジョークだよ。悪いね、今度こそちゃんと話すよ。まぁ、ボクが忙しいアルサルの代わりに、魔族の
闘戦士S『すまない。
魔道士M『ああ、そうだね。否定はしないよ。でも魔界を戦場に選んだのはアルサルだし、転移させたのはボクだ。それも魔界の中心部である央都にね。だから、シュラトだけの責任とは言えないよ。まぁ発端は、君の中の因子の暴走ではあったけれども』
勇者A『……おい、そういうことは思っても口にするなよ。性格悪いぞお前』
魔道士M『いやいや、別段シュラトを責めるつもりはないさ。先程も心配してくれた通り、因子の暴走についてはボクもアルサルも、そしてニニーヴにだって可能性のあることだからね。お互い、いつ当事者になるかわからないんだ。これは注意喚起も含めた
闘戦士S『わかっている。だが、エムリス、自虐はよくない』
魔道士M『ああ、ボクのメンタルを気にかけてくれているのかい? ありがとう、シュラトは優しいね。ご忠告通り、あまりしないよう気を付けるとしよう』
勇者A『理解のある仲間でよかったな……ったく、で? ウジャウジャいた魔族や魔物はどうしたんだ?』
魔道士M『ああ、接触をはかったら、六体ほどの上級魔族が出てきてね。彼らは自らを〝
勇者A『七剣大公? 聞いたことがあるような、ないような……?』
魔道士M『それはそうさ。彼らは十年前にも央都にいた。しかも都市全体を守護する極大結界を張り巡らせていたんだ。けれど、ボク達が魔王城に殴り込むときは色々とめちゃくちゃで、相手の名前とか地位とか確認している余裕なんてなかったからね』
闘戦士S『名前、知らないまま倒した相手か?』
魔道士M『おそらくね。彼らもまた魔王の影響下で意識も記憶もはっきりしていなかったから、推察でしかないのだけど。多分、ボク達は彼ら七剣大公と戦い、勝利している。よく覚えてないだけでね』
勇者A『……俺も思い出せないな。だが、生きていたってことはよほどの乱戦だったようだな。
魔道士M『そうだね。あの時はボク達自身ですら、お互いの位置を把握するのがやっとの状況だったから、無理もないさ。それが魔界の中心、全ての元凶たる魔王がいる場所に乗り込むということ――いやぁ、今思い出しても
闘戦士S『エムリス、楽しそうだ』
魔道士M『そうかな? ああ、でもそうかもしれない。あの時ほど精神が
勇者A『そいつは同感だ。あんな戦い、二度とごめんだ。思い出すだけで吐き気がするぜ』
魔道士M『やっぱりアルサルはそう思うだろう? きっとそうだろうと思ったんだ。だから、これからのボクの話を聞けば、きっと納得してくれるはずさ』
勇者A『――? なんだ、どういう意味だ?』
魔道士M『ボクの前に出てきた七剣大公は、けれど六体しかいなかった。そう、話を聞くに先日のボク達の戦いで一体が死んでしまったらしい。ほら、あのとき途中で乱入してきた【羽虫】がいただろう? 覚えているかい?』
勇者A『羽虫? ……ああ、あのいいところで下から突っ込んできた〝
魔道士M『そう、その羽虫のことだよ。というわけで
勇者A『あー……まぁ、それぐらいの実力はあっただろうな。一瞬でも俺が邪魔だと思っちまったぐらいだからな』
魔道士M『けれども、魔王と比べれば羽虫も
闘戦士S『敵討ち、当然の発想。わかる』
魔道士M『さて、そんな彼らの前に現れたのが、
勇者A『もういいよ本音だだ漏れだからいいからさっさと話を続けろよ!』
魔道士M『……やれやれだね』
勇者A『こっちのセリフだわ!』
魔道士M『ともあれ、交渉は決裂した』
闘戦士S『残念だが当然』
魔道士M『仕方ないので、ボクは
勇者A『雑に展開が早いな……』
魔道士M『ボクはアルサルと違ってアレコレ悩んだりしない
勇者A『お前、どの口でさっき〝平和を愛する正義の魔道士〟とか抜かしやがった』
魔道士M『そんなわけでボクは一発いいのをくれてやってね。
勇者A『俺のツッコミを完全スルーした挙句、やってることが非道過ぎる』
魔道士M『心外だね、アルサルにだけは非道だなんて言われたくないものだよ。君、自分が人間以外に対してどれだけ冷血か自覚していないのかい?』
勇者A『それこそ心外な言葉だな。この平和を愛する正義の勇者に向かって』
闘戦士S『魔族の大公を一体倒した。それから?』
魔道士M『うん、ありがとうシュラト。アルサルの妄言は無視するに限るね。さて、一発でお仲間がやられてしまった大公諸君は、どうも怖気づいたようでね。互いに
勇者A『……嫌な予感がするな……』
魔道士M『せっかくの機会だから君達や魔界について色々と教えておくれ、そうすれば命だけは助けてあげるよ――とね』
勇者A『言動が完全に悪役じゃねぇか! 正義の魔道士はどこいった!?』
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