【書籍化】最終兵器勇者~異世界で魔王を倒した後も大人しくしていたのに、いきなり処刑されそうになったので反逆します。国を捨ててスローライフの旅に出たのですが、なんか成り行きで新世界の魔王になりそうです~
●17 星を斬り、法則を変え、起死回生を狙う 7
●17 星を斬り、法則を変え、起死回生を狙う 7
「仕方ねぇな……ま、切っても切れない俺達の仲だ。これからも長い付き合いになるだろうからな、こんな時ぐらいは支え合うか」
セントミリドガルの戦技指南役を辞める際、退職金やら財宝やらをガッポリ
「すまない。恩に着る」
再び頭を下げるシュラト。
俺は笑って片手を振った。
「いいって。その代わり、もし俺が同じような状態になったときは、お前が俺を止めてくれよな。よろしく頼むぜ?」
半ばは冗談のつもりで言ったのだが、シュラトは真剣な表情のまま、
「わかった。任せてくれ。その時は何があろうと、俺が必ずアルサルを止めてみせる」
拳をグッと握り締めて、シュラトは誓いの言葉を口にする。
真紅の瞳には決意の輝き。混じり気の無い強い意思が、そこには籠められている。
もし本当に俺が〝傲慢〟か〝強欲〟に呑まれたら、今度はこちらがシュラトの剛拳でボコボコにされるのか――と具体的な想像が出来てしまった。
なるべく八悪の因子に呑まれるような事態にはならないよう
「さて、そろそろ戻ろうか、アルサル、シュラト。きっとイゾリテ君もガルウィン君も首を長くして待っているよ」
「ああ、そうだな」
転移魔術の気配を見せるエムリスに、俺は頷きを返した。
しかし。
「待ってくれ、アルサル、エムリス。ここは……このままでいいのか?」
シュラトが待ったをかけ、ぐるりと周囲の光景を見渡した。
かつては――というか、つい先刻まで栄華を誇っていたであろう魔界の『央都』は、完全に
壊滅した都市の中央で唯一、天に向かってそそり立つ魔王城だけが、今なお健在だ。
流石の強固さである。
さもありなん。あの城は〝魔王の生まれる場所〟。
いずれ新たな魔界の覇者が誕生する、特別な空間なのだ。
ある意味、魔王という存在の【本体】と言っても過言ではない。
もしあれを壊そうと思うのなら、この世界そのものを破壊するつもりでやらなければ、まず無理だろう。
魔王と言う存在は、それほどまでに世界の
そう、俺達が魔王を殺したと言っても、存在そのものまで消えたわけではない。
魔王もまた、俺達とは違った意味で不滅の存在なのだ。
故に――
「別に気にする必要ないだろ。魔族なら、この央都以外にもたくさんいるはずだからな。十年前にも似たような状態になったんだ。どうせまた十年ぐらいかけて元に戻すだろ」
俺はにべもなく切り捨てた。
魔王と魔族はある意味で一心同体の存在である。
魔王が不滅の存在である限り、魔族もまた絶滅などしない。
逆に言えば、魔王を本当の意味で殺そうと思えば、魔族を一人残らず根絶やしにする必要が――
「相変わらず冷たいねぇ、アルサルは。自分の役割以外には
俺の思考を遮断するようにエムリスが言うので、
「お、奇遇だな。俺もお前によくそういうこと思う時があるぞ」
すかさず嫌味で返しておく。すると、
「そうなのかい? ボク達、気が合うねぇ」
ニタァ、といかにもな作り笑いをしてきやがった
「そうだなぁ、嬉しいなぁ」
俺も口角を吊り上げて同意してやる。もちろん目は笑ってないし、口にしている言葉はまるごと嘘だ。
「……魔族は」
俺とエムリスが不毛な寸劇を演じていると、ぽつり、とシュラトが呟いた。
魔界の風に黄金の髪をなびかせ、静謐な真紅の瞳で廃墟の街を見つめる男は、
「魔族とは、一体何なのだろうな。
やたらと悲しげな口調で語り、語尾を浮かしたまま唇を閉じた。
シュラトの言わんとするところは、俺にも何となくだがわかる。
だがそれを言うなら、人界に生きる人間とて似たようなものだ。
あまつさえ、現在の人間と言ったら、もはや救いようもない状態だ。
せっかく俺達が魔王を倒して世界が平和になったというのに、十年も経てば当時のことなど忘れて、今では五大国が先頭を切って
まさに、喉元過ぎれば何とやらだ。
なんと愚かしい。
魔族や魔物に命を
流石の俺でも少しばかり、虚無感を覚えざるを得ない。
こんな世界の為に、俺達四人は命を懸けて――いや、【死を捨ててまで】頑張ったわけじゃないんだけどな。
はぁ、と思わず大きな溜息が出てしまった。
「――ま、絶滅させないだけ
「
妙なことを考えてしまった俺に、エムリスが混ぜっ返すような、それでいて皮肉を利かせたような言葉を突きつけた。
――神様?
はっ、冗談じゃない。
そいつは俺達の運命を決めたクソ野郎じゃないか。
お近づきになんてなりたくないね。絶対に。
「……アルサル、エムリス」
やがて、囁くような小さな声でシュラトが俺達の名を呼び、こんな問いを放った。
「……己達はこれから先、あと何回、世界を救えばいいのだろうか?」
その難解にも程がある問いに、俺もエムリスも返す言葉を持たなかった。
これから先のことなど、あまり考えたくはない。
特に俺達のような『終着点を失った者』にとっては、ある意味で地獄に落ちる以上の苦行なのだ。
目先のことはともかく、遠い未来については心底、
シュラトの問いは、きっと俺もエムリスも、心のどこかで抱き続けているものだった。
だからこそ、答えはない。あれから十年経ったというのに、
「――何回でも救えばいいのさ。そのためにボク達は【こうなった】……そうだろう? ねぇ、アルサル」
どこか自分に言い聞かせるような口調で、エムリスが呟いた。
そういえば、そうだった――と気付かされ、俺は小さく頷く。
「……そうだな。その通りだ。回数とか理由とか、そんなもんはもうどうでもいい。【俺達は世界を救う】。【救い続ける】。ただそれだけだ」
心を固め、強く断言する。
思えば、幼い少年だった頃にも似たような覚悟を決めたはずだった。
なのに、いつの間にか心が緩み、その信念を見失っていた気がする。
人類を守る、人界を護る――そんな
いくら肉体が永遠になろうとも、精神はそうもいかない。
そんな当たり前のことを、改めて痛感させられた。
またも溜息を吐きそうになって、すんでの所で止める。
「――小難しいことを考えるのはやめようぜ。それよりも
「……ああ、そうだったな」
薄く微笑を浮かべて言うと、シュラトはやはり気難しい顔で、しかし首肯した。
「じゃ、転移するよ。まぁボクは〝怠惰〟だから、この後のことは君達二人に全部お任せするのだけどね?」
さらりと聞き捨てならない台詞を吐きながら、エムリスが指を鳴らした。
おいちょっと待てこの野郎――と文句をつける
いつものように目の前が暗転した。
すぐにまた、この央都へ戻ってくることになろうとは
■
破壊の限りを尽くした〝勇者〟、〝魔道士〟、〝闘戦士〟が立ち去った魔国『エイドヴェルサル』の央都『エイターン』――
中心部にそそり立つ魔王城だけを残し、廃墟の街と化したそこは、しばし静寂に支配されていた。
赤い空のもと、ただ冷たい風だけが吹き流れていく。
しかし、やがて――
複数の場所で、ほぼ同時に爆発が起こった。
瓦礫の群れが噴き上がり、雨粒のごとく宙を舞う。
次いで、天を衝くほどに
赤、白、黄――とそれぞれ色の違う
いまや七剣大公から【六】剣大公へと数を減じてしまった、魔界の実質的支配者の放つ輝きであった。
先刻の〝勇者〟と〝闘戦士〟、および〝魔道士〟の激突によって生じた強大に過ぎる衝撃波は、地上にあった
これにより央都に在住していた魔族、上級魔族のほとんどが死滅した。
しかし、大公の地位にある彼らは死を
今の今まで、〝勇者〟達の気配が消えるまで、息を殺して瓦礫の下に潜伏していたのだ。
彼ら六名の魔界大公は、見る影もなく荒廃し果てた都市の光景に何を思うのか。
濃厚な赤の広がる空の下、いくつもの
怒りと悲しみ。
そして、憎しみの叫び。
連なる切なき
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