【書籍化】最終兵器勇者~異世界で魔王を倒した後も大人しくしていたのに、いきなり処刑されそうになったので反逆します。国を捨ててスローライフの旅に出たのですが、なんか成り行きで新世界の魔王になりそうです~
●17 星を斬り、法則を変え、起死回生を狙う 6
●17 星を斬り、法則を変え、起死回生を狙う 6
結論から言おう。
シュラトは正気に戻っていた。
「すまなかった」
瓦礫の上に
声のトーンがとても低い。ムスペラルバードでの再会した時の踊るような
既に姿形も、筋肉ダルマから普通の成人男性のそれへと変わっている。優男に少し筋肉をつけたような、ちょうどガルウィンにも似た体格である。おそらく、これが本来のシュラトの姿なのだろう。
未だエムリスの
ちなみに、俺もシュラトも身につけている衣服には
「やあ、シュラト。【久しぶりだね】。元気そうで何よりだ」
「その様子だともう〝色欲〟の影響はない感じかな? アスモデウスの人格は引っ込んだという認識でOK?」
やや
「ああ」
言葉少なにシュラトは肯定した。
うむ、これぞ俺の知るシュラトだ。基本は無口で、口を開いても必要最低限のことしか言わない。まさに〝金剛の闘戦士〟という名にふさわしい人格である。
「よう、シュラト。これは
エムリスに
昔の仲間が元に戻ったのは喜ばしいことだが、ここに至るまでの手間が半端なかった。なにせ十年ぶりに〝星剣レイディアント・シルバー〟を抜いたり、エムリスだって禁呪を解放したのだ。
規模で言えば、魔王との戦いと同レベル。
つまり世界の行方を左右するような状況だったのだ。
これまでの苦労を思えば、皮肉や嫌味の一つぐらい言いたくもなる。
「ない」
やはりシュラトの答えは簡潔だった。真紅の瞳を赤い空に向けたまま、ぽつりと否定する。
まぁ、当然と言えば当然だ。俺と全力でぶつかり合って、あれだけボコボコにされたのだ。いくら〝色欲〟のアスモデウスが外部世界の悪魔とはいえ、エネルギーの大半を使い果たしたことだろう。主導権が本来の肉体の持ち主であるシュラトに戻ってこなければ、こっちが困る。
「じゃあ、もう一つ確認だ。これまでのアホな行動は全部アスモデウスの
「…………」
俺の問いに、シュラトは空を見つめたまま無言。
どうやら返事はイエスではないらしい。
「――お前の意思もあった、ってことか?」
まさか、と思いつつも問いを重ねる。
すると、これにもシュラトはしばしの沈黙を返し、やがて――
「……わからない。だが、火のない所に煙は立たない。火元は間違いなく
淡々とした口調で、シュラトは告げた。
その無感情っぷりは、どこかイゾリテを彷彿させる。
そういえば、シュラトとイゾリテの二人は少し似ているところがある。俺が幼い頃のイゾリテを気にかけて理術を教えるなどしたのは、そういった理由があったからかもしれない。
「まぁ、確かに。ゼロには何を掛けてもゼロだけれども、少しでもあれば増幅は可能だ。〝色欲〟はシュラトの中にあった些細な欲望を大幅に増加させて、その勢いで肉体を乗っ取ろうとしたんだろうね」
俺達に八悪の因子を埋め込んだ張本人であるエムリスが、うんうん、と頷きながら分析する。
「そういう事態を考慮して、それぞれの因子から一番遠い奴を選んで宿らせたんじゃなかったのか?」
俺が糾弾するような言い方をしてしまったからか、エムリスが、むっ、と眉根を寄せた。
「それだけ八悪の因子の影響は強烈だった、ということさ。というかシュラトだからこそ、この程度で済んだとは思わないのかい? もしシュラトじゃなくてアルサルに〝色欲〟が埋め込まれていたら、今頃は世界中の女という女を
プンスカと怒った口調かつ、やたら早口で言われたので、俺は思わず圧力に押され、
「お、おう……」
と返事してから、とんでもない誹謗中傷を受けたことに気が付いた。
「――っておいコラ、今何つった? 勢いに任せてめちゃくちゃ失礼なこと言わなかったか?」
「いやぁそれにしても驚くべきはシュラトの理性だね! ほとんど〝色欲〟のアスモデウスに乗っ取られながらも、
こいつ、適当に煙に巻いて誤魔化すつもりだな。
しかし、いかにもな口調でシュラトを褒めそやしていたかと思えば、一転して声を低め、
「――そう、だから気にする必要なんてないんだ。今回の件は君のせいじゃあないんだよ、シュラト。君ほどの人格者でも、因子が暴走すればこんな事態を引き起こす……つまりはそれほどのものだったということさ、ボクがこの世界に呼び込んだ八悪の力というものは。だからこそ、あの規格外の魔王を倒すことが叶ったとも言えるのだけれどね」
それは、正気に戻ったシュラトの『すまなかった』という謝罪に対する返答だったのだろう。
言外に、全ての責任はボクにこそある、と言っているかのように俺には聞こえた。
「
エムリスが囁くように告げると、シュラトにかかっていた封印が
精悍な男が上体を起こし、俺達を見る。
ちょっと前まで自分のことを『オレっち』、俺のことを『アルサル氏』なんておかしな呼び方をしていたシュラトは、もうどこにもいない。
人が変わったように――いや実際に中身が変わっているのだろうが――物憂げな表情を浮かべたシュラトは、瓦礫の上で立ち上がり、
「いや、因子につけ込まれたのは己の責任だ。信頼されて託されたというのに、期待を裏切ってしまった。本当にすまない」
改めて、俺とエムリスに頭を下げた。
「……ムスペラルバードの人々にも悪いことをした。戻って謝罪しなければ」
面を上げたシュラトは、押し殺した声で言う。
この言葉をもって、俺は心の底から確信した。
こいつは正真正銘、俺達の仲間のシュラトだ――と。
戦闘前の
これぞ〝金剛の闘戦士〟シュラトだ。
「特に、レムリアとフェオドーラには悪いことをしてしまった。一般人を己の眷属にしてしまうなど……戻ったらすぐに取り消さなければ」
挙がった二つの名前は、おそらくは玉座の傍に
「ま、やっちまったもんは仕方ないだろ。素直に謝って、王位を返上して、後は賠償金やら何やら払えば許してくれるさ、多分。幸いなことに誰も死んでねぇし、何も壊れてない……あ、いや、宮殿のど真ん中がぶっ飛んじまってたな、そういえば」
シュラトを慰めようとして、俺は戦闘開始直後のことを思い出した。
よりにもよって玉座のある謁見の間が粉微塵になってしまっていた。俺とシュラトが激突した衝撃によって。
くすっ、とエムリスが笑う気配。
「なら、賠償金の半分はアルサルが支払わなければいけないんじゃあないのかな?」
「ぐっ……」
嫌なことを言いやがる。
確かに一理ある。
一理あるが、しかし――
「――待て、それを言うならお前にも責任があるんじゃないのか? シュラトの暴走は八悪の因子を移植した自分の責任だとか何とか、言っていただろうが」
俺が言い返すと、ふふん、とエムリスは余裕の態度で肩をすくめて見せた。
「そうだね、その通りだ。そして、ボクたち三人はかつて一緒に戦った――そう、死線を共にした仲間だ。だからここは仲良く、責任を三等分しようじゃないか。ああ、美しい友情とはまさにこのことだね! てへぺろ」
いけしゃあしゃあと抜かしやがる。ムスペラルバードに
はぁ、と軽く溜息を吐く。
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