【書籍化】最終兵器勇者~異世界で魔王を倒した後も大人しくしていたのに、いきなり処刑されそうになったので反逆します。国を捨ててスローライフの旅に出たのですが、なんか成り行きで新世界の魔王になりそうです~
●17 星を斬り、法則を変え、起死回生を狙う 1
●17 星を斬り、法則を変え、起死回生を狙う 1
破軍大公アルカイドは、自分がまだ生きていることに気付き、心の底から驚いた。
「……はっ!?」
どれほどの間、気を失っていたのだろうか。
覚醒した時、アルカイドの体は瓦礫の山の上に転がっていた。言うまでもなく全身が傷だらけで、激痛が神経を
「ぐっ……!」
しかし致命傷ではない。上級魔族に貴族、それも
次の瞬間には
見渡す限り、廃墟の群れ。
ほんの少し前まではここに存在していた、栄華の街――魔国『エイドヴェルサル』が央都『エイターン』の姿は、もうどこにもなかった。
東西南北どちらに視線を向けようとも、目に
何もかもが、終わっていた。
「――……」
この時、アルカイドの胸中に去来したのは、十年前と同じ思いだった。
十年前もそうだったのだ。
気が付いた時には全てが終わり、魔界は崩壊していた。
それどころか、魔族にとって神とも言える存在――魔王陛下までもが
その瞬間まで自分も含め、全ての魔族と魔物は魔王陛下の意思の下に統一され、
かの〝勇者〟を代表とした人間の英雄の手によって魔王陛下が討たれるその時まで、魔界そのものが魔王陛下と一つになっていたのだ。
しかし、
目が覚めたその時、最初に目にした光景こそが――今見ているものと酷似したものだったのだ。
破壊の光景。
憎き〝勇者〟達が残した傷跡。
もはや、疑いようもない。
先程の配下の報告は全て事実だった。
まだ人界に
せっかく
さらには魔物の再生産にも
その全てが、
あちらの方が何枚も
まさか軍勢ではなく、再び数人の少数精鋭でもって中枢への襲撃を仕掛けてくるとは。
電撃作戦、などという
光の速さと称しても過言ではない、これは不意打ちであった。
だが、しかし――
「――一体、何をしている……?」
空を見上げると、未だそこで戦っている人影が見える。
魔界の天空を飛び交う煌めきは、銀色、金色、そして青みがかった漆黒。
色合いからして〝銀穹の勇者〟、〝金剛の闘戦士〟、そして〝蒼闇の魔道士〟であることがわかる。
しかし、奴らが何をしているのかがさっぱりわからない。
だが、赤い空を背景に飛び交う三色の輝きを見つめる内、アルカイドは理解してしまう。
「……同士討ち、だと……!?」
気を失う前に聞いた、配下の報告が
『そ、それが――な、【仲間割れ】です! 〝勇者〟と〝魔道士〟および
最初に聞いた時は、どうせ何か見間違いや勘違いをしているのだろう、と思った。
何故なら、奴らがこの央都にわざわざやって来て仲間割れをする理由が、ない。
一体どこにあるというのだ、そんなもの。
仲間割れをするだけでなら
こんな所まで来て内輪で揉める理由など、少なくともアルカイドには思いつかない。
だというのに。
「……
こんな理不尽があってたまるものか。
お前達はこの国を攻めに来たのではないのか。
人界を代表して、侵略しに来たのではないのか。
そのために実質的な支配者である、我ら七剣大公の要塞を破壊したのではないのか。
それとも――それとも……
奴らには――まさか〝勇者〟達の
この破壊され尽くされた都市の惨状が目に入っていない、とでもいうのか。
ただ単に、仲間割れの舞台としてこの空を選んだだけで、それ以外には何の意味もなかったと。
この地上に住まう魔族には、一切の興味もないと。
「……そういうこと、なのか?」
半ば呆然と、アルカイドは呟いた。
その瞬間、金色の光が銀の輝きを地上に叩き落とした。
流星よろしく尾を引いて落下した銀の光は、魔王城の付近に
見ずとも
と、アルカイドがそこまで思考を巡らせた時、再び爆音が響く。地面から突き上がるような衝撃を添えて。
銀光の炸裂。
地面に叩き付けられた〝勇者〟が瓦礫を吹き飛ばし、再び空へと飛翔していく。
たったそれだけのことで、街の
頭上で再び銀と金の
その際に生じた衝撃波が天空を切り裂き、大地を
あまたの建造物が
央都が壊れていく。
上空で戦う奴らには、きっと足元の街を破壊しているという
当然だ。戦場で、流れ矢の行く末を気にする者などいない。目の前の敵に集中できない者から死んでいく。それが戦場なのだから。
それはもう、
体の大きすぎる象は、足元の
つまりはそれが〝勇者〟達と、ここにいるアルカイドとの間にある、差だった。
「……ふざ……けるな……」
我知らず、アルカイドの体が震える。まるで
拳を強く握り込み、奥歯を砕かんばかりに噛み締める。
「――ふざけるなぁッ!! なんだそれはッ!! なんなんだ!! なんだと言うのだッ!!」
激情が声となって迸った。
転瞬、アルカイドの全身から魔力が溢れ、青白い魔光となった。
魔界貴族、それも
無論のこと国を動かす
つまり、
「……許さん、絶対に許さん……許さんぞ〝勇者〟どもぉっ!!」
そんな男の頭の中には、もはや怒りしかなかった。
髪が逆立ち、血管が沸騰するほどの憤怒を抱えた男は、瓦礫の山の上で立ち上がる。その全身からは眩いほどの青白い魔光が放たれ、廃墟と化した街を
「――殺す! 殺してやる! この手でくびり殺してやるぞぉおおおおおおおおおおあああああああああッッッ!!!!」
絶叫したアルカイドの肉体に、突如として変化が起きた。
頭部から生えた角に、縦長の瞳孔を持つ瞳、そして肌に浮かぶ
大きく太く、ねじくれた一対の角。四つの眼窩に収まった八つの瞳。左半身に浮かぶ金属質の
だがそれは、あくまで平時の姿。上位魔族にして魔界貴族であるアルカイドには『第二の姿』がある。
喉から絶叫を
膨張する体躯。身につけていた衣服を引き千切りながら、ただでさえ二メルトル以上もある巨躯が、嘘のように膨れ上がっていく。
頭部から生えた
巨大化した肉体は、その皮膚が次々に硬質化し、変色。鎧のような装甲へと変わっていく。
目が増え、腕が生え、足が枝分かれをし――
最終的には十数メルトルもの巨体を持つ、
その姿は
もはや原形をまったくとどめていない、アルカイドの戦闘形態であった。
『――ガァアアアアアアアアアアアアアアアァァァッッ!!』
曲がりなりにも人間に近かった『ヒト族』としての姿を完全に捨て、魔物に近い容貌。もはやクモと同じ
それはもう『声』ではなく、『音』だ。
異様な雄叫びが破壊された街に響き渡る。
全身から青白い魔光を
背中にあたる部分の装甲が、バグンッ、と開いたかと思うと、そこから半透明な
殺意。
憎悪。
周囲の大気をビリビリと震わせるほどの激情を巨体から
標的は、赤い空を背景に同士討ちをしている〝勇者〟一行。
我が魔界最強の力をもって、奴らを
アルカイドは
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