●10 地獄の戦場 9
空の
「――!? っ!? !?」
上空からその様子を見ていたイゾリテは、途端に
まるで嘘のような光景だったのだ。
突如として出現した流星が、地上のアルサルに直撃するのをこの目で見た。エムリスによる〝眷属化〟は、イゾリテにそれだけの視力を与えてくれていた。
ただ、流星の輝きを
それだけで、地上に展開していた数十万もの魔物の大半が
因果の繋がりがまったく理解できなかった。時間の一部が吹き飛び、自分の感知し得ない何かが省略されたのか? と錯覚するほどだった。
「ふぅん、相変わらずの切れ味だね。アルサルにしては大人しいやり方だけれど……ああ、そうか。大人になったからだね。だから『大人しい』ということか」
イゾリテのすぐ近くに浮遊しているエムリスが、どこか懐かしげに、しかし退屈そうに呟く。
「まぁでも、期待していた役割はちゃんと果たしてくれたようだ。ほら、イゾリテ君、今度は君の出番だよ?」
「――承知しております」
エムリスが
アルサルが銀剣を振るう直前、地上にいた飛行型の魔物がこぞって飛び上がっていた。おそらく恐怖によってであろう。イゾリテでさえ、アルサルが流星を吸収した際には体の奥底から
「ドラゴンはボクが相手をするからね。君はそれ以外の魔物を頼むよ」
「かしこまりました」
繰り返しになるが、エムリスによる〝眷属化〟によってイゾリテの心身はまるで別物と化した。故に、もとより有していた五感以外に新たな感覚が芽生え、それによって世界を再認識している。
――感じる。空に上がってくる無数の気配……これは魔力の
さながら全身の毛穴が開き、体全体を使って魔力を呼吸しているような感覚。
別次元にまで拡張した超感覚に、それと対応した意識領域。
目や耳、肌感覚が世界の隅々にまで広がったのかと錯覚するほどの万能感。
何万とある気配の中で、とりわけ大きく、強く、硬いもの――これがきっと、エムリスの言っているドラゴンだろう。
体内で魔力を生み出す
イゾリテは
すぅ、と息を吸い、
「 天に漂う
イゾリテは〝眷属化〟に際し、エムリスからいくつもの魔術を伝授されていた。
初歩の〈
「 魔の力によりて 目を覚ませ 」
数万もの飛行型の魔物がいるが、今のイゾリテが一度に照準できるのは多くて三千といったところ。
意識を集中――ではなく【分散】させ、こちらへ近づいてくる魔物を中心に魔術の対象とする。
「
両手を大きく上げ、魔力を圧縮する。
瞬間、天に
魔術発動。
「 〈
刹那、イゾリテの全身から魔力の
炸裂するは幾千の稲妻。
爆音が
次の瞬間、天空から雷閃の雨が降り注いだ。
『UUUUUUURRRRRRRRRYYYYYYYYY――!?』『BBBBBBRRRRRRRRRROOOOOOOOOWWWWWWWw――!?』『SSSSSSSHHHHHHHAAAAAAA――!?』『VVVVVVVVRRRRRRRRRAAAAAAAAAA――!?』『GGGGGGGOOOOOOOOOAAAAAAAAAAWWWWWW――!?』『ZZZZZZZZZGGGGGGGGGGYYYYYYYYY――!?』
天から地へと落ちる稲妻の豪雨。
矢よりも銃弾よりも速く
光の槍が飛行型の魔物を次々に串刺しにし、焼き焦がす。
まさに電光石火。
雷鳴が無数に重なり、逆説的に世界から音を消す。
イゾリテの雷撃は空飛ぶ魔物の群れを
「――くっ……!」
千を超える雷閃はしかし、その全てが
今のはエムリス直伝の〈
だが流石に範囲が広く、数が多すぎた。今のイゾリテが有する魔力量の三分の一が、ほんの数瞬で持って行かれてしまった。
しかも。
「……うん、いい
エムリスが淡々と状況を確認する。ひとまず褒めてくれてはいるが、全弾命中かつ撃墜率十割とはいかなかった。それがイゾリテには悔しい。
「お目汚し申し訳ありません、
「いやいや、何を言っているんだい。初めての発動にしては上々の結果じゃあないか。磨きはこれからかければいいのさ。大丈夫、同じ年頃のボクよりは上手くやれているよ、君は」
宙に浮きながらも背筋を伸ばし、頭を下げると、エムリスは軽く笑って手を振った。
「じゃあ、今度もお手本を見せようか。君が敢えて残してくれたドラゴンと、その他も狙いに入れて――」
そのまま
「 天に漂う
この場に
イゾリテどころか、辺り一帯の空間そのものがエムリスの魔力に【呑まれる】。
だというのに、信じられないほどの速さと精密さで魔力を制御し、術式を組み立て、エムリスは魔術を発動させた。
「 〈
先程イゾリテが放ったのと全く同じ魔術。
しかし、やはり別物――否、別次元のものへと
イゾリテの〈
ならば雷光も一条だけか? と問われれば、違う。
強化されたイゾリテの視力でもまったく数えられなかったが、おそらくは数万もの稲妻が、一斉に空間を
イゾリテの感覚では、目の前が
何故なら――全ての稲妻が全く同時に生まれ、全く同時に落ち、全く同時に炸裂したからだ。
おそらく雷閃の生まれる位置と、飛翔するドラゴンらの現在の高度を計算し、全てのタイミングを調整したのだ。
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