●4 黒竜退治と〝勇者〟のスタンス 1










 村の名前は『リデルシュバイク』というらしい。


 こんなへんぴな場所に隠れ住むようにしているので、まさかとは思っていたが――案の定、大昔に失脚した貴族か豪族の末裔が住んでいるのだそうだ。


 そう思えばリデルシュバイクなどという、山間の小さな村には似合わない物々しい名前にも得心とくしんがいく。


 村長のジョアン・リデルシュバイク氏と、ついでにデービス以外の冒険者に、俺は昨日発見した魔竜のうろこについて話した。


 くまか、あるいは同レベルの魔物の仕業と思っているかもしれないが、それは大きな間違いだ――と。


 鱗の大きさから察するに、かなりの大物。残っていた魔力の残滓から見ても、下手すれば貴族アリストクラットクラス以上のドラゴンである可能性が高い。


 どう考えても、そこらの冒険者五人の手に負える相手ではない。


 聞けばデービスらの冒険者としての等級は『黒鉄』だという。なんと下から数えて二番目だ。素人とは言わないまでも、まだまだ未熟者であるのは明白。相手のクラスがなんであれ、竜種なんかと相まみえたら、一瞬で食い散らかされてしまうのが目に見えている。


 ちなみに、冒険者の等級は以下のような序列になっているらしい。


 赤銅しゃくどう黒鉄くろがね白銀はくぎん黄金おうごん――それ以上は『宝石』という段位に上がり、紅玉や碧玉、蒼玉などの宝石にちなんだ『二つ名』が与えられるのだそうだ。


 例えば『紅玉ルビーの剣姫』や『虎目石タイガーズアイの拳王』などが有名どころらしい。


 さらに言えば、『宝石』ともなると世界各国にある冒険者組合の支部長を任ぜられることもあるそうで、無法者や無頼漢ぶらいかんとして名高い冒険者の中でも、かなりの出世なのだそうだ。


 ちなみに、既に俺の仲間に〝金剛の闘戦士〟がいるため、金剛石の宝石級冒険者はいないのだとか。ま、似たような異名をもらう奴も、あの怪力無双と比べられてはたまったものではあるまい。


 閑話休題。


 というわけで、残念ながら話の流れ上、ジョアン村長には娘さんの生存は絶望的であることを伝えざるを得なかった。


「……ええ、もう三日も戻ってきていないのです。覚悟はしておりました。山というのは、出掛けた者が丸一日以上戻ってこない場合、ほぼ間違いなく【そういうこと】になっているものですから……」


 沈痛な面持ちに悲壮な声で、しかし気丈にもそう言った。もちろん、俺達が目の前にいるが故の強がりだろう。きっと、後で一人になってから泣くに違いない。男とはそういうものだ。


「しかし、それだけの巨大な竜が、どうしてこんな人界の中まで……」


 ジョアン村長の疑問はもっともだ。セントミリドガルとアルファドラグーンの国境くにざかいにあるここに魔竜が来たということは、少なくともアルファドラグーンの上空を飛んできたことに他ならない。


 だが。


「黒竜だからでしょう。陽が落ちれば目立ちません。夜空を背景に飛翔すれば、人の目につかずここまで飛んでくることは可能だと思います」


 これが他の竜種であれば話は違ったのだろうが、黒竜の系統は元より隠密行動が得意なタイプだ。人目を避けて人界の奥深くまで侵入してきても不思議ではない。


 歴史を紐解けば、魔王が復活していた十年前は例外として、数多の魔物が人界のあちこちに現れた記録が残っている。ゴキブリとシロアリと魔物は、いつの間にかどこからか忍び寄ってくるものなのだ。


 なお、魔王が存在していた時期を例外とするのには理由があるのだが、それはまた別の機会に語ろう。


 ともあれ、村の近くにマーキングの鱗があったということは、いずれまた魔竜はここにやってきて、人間を捕食するはず。


 その時を狙って、俺が魔竜を討つ。


 それで村長の娘さんの仇討ちとなり、村周辺にも平和が訪れるであろう。遠くへ逃げていった野生動物も、竜の気配が綺麗に消えれば、いずれ戻ってくるはずだ。


「しかし、竜がいつここへやって来るのかわからないのでは……?」


「ああ、それなら心配ありません。策があります」


 ドラゴンの襲来が読めないことを不安がるジョアン村長に、俺は安心するよう余裕の笑みを見せた。


「策、ですか……?」


「ええ、任せてください。すぐに解決しますから」




 ■




 思えば、いきなり反逆だの処刑だのと言われたのは天啓てんけいだったのかもしれない。


 人界を旅して巡り、人々を助けよ――という。


 かつて、俺達四人が魔王討伐のために呼び出された時と同じく。


「……なんて、んなわけないよな」


 ふと脳裏をよぎった馬鹿な思いつきを、鼻で笑い飛ばす。


 しかし、あの国王と王子のトンチキ共があと三日早く俺を追い出していれば、ジョアン村長の娘さんは救えたかもしれない。


 詮無きことだが、そう思うと何ともやりきれない気分になってしまう。


「ま、後悔先に立たずってやつだ。むしろ、犠牲が最小限で済むことに感謝するべきだよな」


 意識して思考を切り替え、前向きにする。


 元とは言え俺は勇者だった男だ。魔王軍の脅威から人々を守護した人間だ。


 それがたった一人とはいえ、魔物に命を奪われたと聞いては、黙っているわけにはいかない。


 俺は敵に回った相手には容赦しないが、そうでない相手には、出来るだけ平穏に生きていて欲しいと願うタイプなのだ。


 故に。


「久々の魔物退治ってわけだ」


 俺は目の前に屹立する、壁のような漆黒の鱗に視線を突き刺した。


 今、この場には俺しかいない。


 ジョアン村長はもちろんのこと、冒険者五人組も置いてきた。


 俺がここに戻るために出立する直前、気絶していたデービスが目を覚まして一悶着があったのだが、それは割愛する。


 ま、簡単に言えば。


「テメ――あ、いや、おま――でもなくて、あ、あなた様が俺……じゃない、僕達の代わりに依頼を遂行していただける、って……マジですか……?」


「おうよ。つかお前らは足手まといだからついてくんなよ」


「いや、あの、そういうわけには……と、というか、あの……僕、さっきあなた様に『言葉遣いが悪い』ってシメられたじゃないですか?」


「ああ、お前が舐めた口利くからちょい強めにシメたな」


「その、単純な疑問なんですけど、僕達が敬語を使い始めたのに、どうしてあなたは僕達にぞんざいな口調で話しかけるのかな、と……なんというか、言っていることが矛盾しているような……」


「あ? 何言ってんだお前。もう【格付け】は済んだだろ」


「か、格付け?」


「負けた奴は勝った奴に文句を言えない。それが弱肉強食――お前ら冒険者の世界でも通じる理屈だろうが。お互い最初から敬語使って交流が続くんならともかく、一度は牙を剥いてケンカになったんだ。上下関係が生まれるのは当然だろ?」


「じょ、上下関係……」


「俺が上、お前らが下。さっきの一発でそう格付けされたんだ。よって、俺がお前らに敬語を使う必要はなくなった。逆にお前らは絶対に俺に敬語を使い続けるしかない。というか、お前が自分でチャンスを潰したんだろうが。こうやって格付けされるのが嫌なら、以降は無闇矢鱈むやみやたらとケンカを売るのはやめとくんだな」


「ウ、ウィッス……」


 みたいなやりとりをした結果、強権的に冒険者五人の同行を禁止した。


 今回の件は奴らにとっていい勉強になっただろう。まぁ、たまさかケンカを売った相手が俺だったというのは、なかなかに不運なことだとは思うが。


 さて。


「ほっ、と」


 俺は無造作に、黒竜の鱗にヤクザキックをぶち込んだ。


 轟音を響かせ、巨大な鱗が砕け散る。


 ドラゴンの鱗は、体から離れても魔力のパスによって本体と繋がっている。それが故のマーキングだ。逆に言えば、鱗に異変があれば本体にもそれが伝わる。


 つまり、こうして鱗をぶち壊せば、本体のドラゴンが何事かと戻ってくるのだ。


「さて、なるべく近くに潜んでりゃいいんだが」


 俺は周囲を走査スキャンする理術を発動させ、常在させた。こうすることで全方位にセンサーを張り巡らせ、魔竜の接近を即座に感知することが可能となる。


 幸いなことに、数分と経たず反応があった。


 東。アルファドラグーン方面から巨大な質量が飛翔してくる。かなりの速度だ。こんな辺境で自分の鱗を破壊されたものだから、焦っているのかもしれない。


 果たして、頭上から大きな影が差した。巨大な竜影が、ただでさえ薄暗い森の中をさらに暗くする。


 視線を上空へ向けると、そこには闇を凝縮したような塊が浮いていた。あれが黒竜だろう。


 落ちてくる。


 バキバキと木の枝を折りながら、漆黒の巨影きょえいが轟音と共に俺の前へと降り立った。


『ググゥゥゥルルルルルルルルルァ……!』


 体を丸めて森の中へと降下してきた竜は、四本の足を地に着けると、いきおいよく全身を伸ばした。


『ガァァアアアアアアアアアアアアアアァァッッ!!』


 咆哮を上げながら暗黒の翼を広げ、体中から黒いもやのようなものを噴出する。ドラゴンの体から放たれた波動が凄まじい衝撃と化し、周囲にあった木々を根こそぎ吹き飛ばした。


 一瞬だ。


 俺一人を残して、周辺が一気いっき更地さらちと化してしまった。


「おー、デカいデカい」


 俺の貴族アリストクラットクラス以上という見立ては間違っていなかった。全長は二十メルトル以上あるだろうか。空飛ぶシロナガスクジラという感じだ。まぁ、この世界にシロナガスクジラに類する生物がいるかは知らんが。


「――黒瘴竜ミアズマガルムか」


 鱗だけでは種別まで見分けられなかったが、こうして全容がはっきりすれば簡単にわかる。


 ミアズマガルム――〝黒瘴竜〟と呼ばれるように、全身からドス黒い瘴気しょうきを放つブラックドラゴンの一種だ。


 ガルムと名にあるように、巨大な犬に一対の翼をつけたような姿をしている。犬とは言っても、貧相な野良犬などではなく、全身の筋肉がはち切れんほどに膨張した、凶悪な体格だ。あの足の一振りだけで、デービスが十人ぐらいは殺せるだろう。


 全身が黒いためよく観察しないとわからないが、ひたいの部分に黒曜石のような美しい結晶が、第三の目のごとく嵌まっている。力持つ竜だけにあらわれるという『竜玉りゅうぎょく』だ。


「よう、そこまでの大きさなら、喋る知能ぐらいあるだろ。グルグル唸ってないで、なんか話してみたらどうだ?」


 登場しただけで森の一角を更地にした怪物に、俺はそう話しかけた。


 竜は魔物の中でも知能が高い種族だ。魔王軍の上層にも『八大竜公』という奴らがいて、見た目はともかく、中身だけなら魔人と遜色ない知性を有していた。


 だが、俺の声が聞こえているのかいないのか。


『ガルルルルァアアアアアアアアアアァァァッッ!!』


 ミアズマガルムはゾロリと牙の生え揃った大口を開き、威嚇のつもりか、腹の底どころか地を揺らす重低音をがなり立てる。


 ああ、そうか。俺をただの人間だと思って舐めてるんだな。よし。


 俺は抑え込んでいた『力』を解放し、ミアズマガルムを〝威圧〟する。


 ぐわ、と放射状に俺の『力』が周囲に広がり、大気をビリビリと揺らした。


『――っ!? なんだ、貴様は……!?』


 さっきまでの猛獣じみた雄叫びはどこへやら。急にミアズマガルムが人語と思しき不思議な響きを、その大口の奥から漏らした。


 いくら竜種が人語を解するとはいえ、体の構造つくりからして人間とは違う。いくら何でも竜の声帯で、ちゃんとした人間の言葉を話すのは難しい。


 よって、竜に限らず言葉を喋る魔物は『魔力』で声を出す。そのため、人間のそれとはちょっと違う、不思議なイントネーションを帯びるのだ。


「今更この名前で名乗るのもおこがましいが……アルサル。勇者アルサルだ」


『勇者、アルサル――だと……!?』


 ミアズマガルムの赤黒い目が大きく見開かれる。やはり見た目に依らず、相当な知性の持ち主らしい。しかも、俺の名前に聞き覚えがあるときた。


 多分、かつての八大竜公に近い地位の奴だろう。


『貴様が魔王様を……!』


「俺一人だけじゃないけどな」


 怒りや憎悪というよりは、戦慄の割合が多めの呻きを漏らしたミアズマガルムに、俺はしょうもない補足を付け加えた。


 実際、俺一人だけじゃ魔王に近付くことすら出来なかっただろうからな。仲間達がいなければ、今頃はこの世に存在していなかったはずだ。


『な、何故、貴様のような――いや、失礼した……勇者アルサル殿。どうして貴殿が、このような場所に……?』


 黒瘴竜の驕り高ぶった口調が突然、慇懃なものへと変化した。


 おお、デービスとかいうお馬鹿さんとは違って、随分と利口なドラゴンではないか。礼儀を弁えている。


 それにしてもお互いの立場を認識して、ちゃんと態度を改めるとは。賢いというか、現金というか、掌返しが早いというか。


 とはいえ、だ。


「それはこっちのセリフだぜ。ここは人界だ。そっちこそ、どうしてこんな所にいる? 特にお前のような貴族は東の奥地にいるはずだ。場違いなのは俺じゃなくて、お前だぜ」


 俺は口調を改めたりなどせず、質問に質問を返した。


『…………』


 ミアズマガルムは威嚇のために広げていた翼を縮め、臨戦態勢を解いた。突っ張っていた四肢もたわめ、身を伏せる。いわゆる香箱座りというやつだろうか。頭の位置が下がったので、こっちも首が疲れないで済む。


 落ち着いた体勢になったミアズマガルムは、今なおその全身から黒い瘴気を立ち昇らせながら、仄かに赤黒く発光する瞳を俺に向けた。


『まずは名乗りもせず失礼しました。私はすすの竜公に――』


「あー、いい、いらん。名前なんて聞きたくない。興味がない」


 俺は礼儀正しく自己紹介した竜を、敢えて遮った。


 というか、そこまで聞ければ十分だ。


 読み通り、八大竜公に連なる貴族アリストクラットクラス。


 八大竜公は竜種の大貴族だ。それぞれ、ほむらながれいさおつちあめすすはがねよるという門閥もんばつがあったと記憶している。それぞれが、火、水、風、土、光、闇、石、心の属性を司っており、人間と同じような階級社会を形成していたはずだ。


 目の前の黒瘴竜は見た目通り、すすの竜公の門閥に属する貴族竜だったのだろう。あいつらは大体、体の色合いでどこ所属かわかるからな、判別しやすい。たまに例外もいるが。


「俺が聞きたいのは、どうしてお前がここにいるのか、だ。質問に答えろ」


 我ながら居丈高な態度だなと思わんでもないが、竜の貴族相手にはこれが正解なのだ。こいつら、相手の態度を見て対応を変えるところがあるからな。こっちはお前より上だぞ、と常にマウントを取っておかないと、すぐ舐めた態度を取りやがる。そのあたりはあのデービスとかと一緒だ。


 思い出すに、当時の八大竜公も腹立つ奴ばっかだったな……まぁ、全部俺と仲間でぶっ殺してやったけど。今では代替わりして、新しい貴族竜がまたそれぞれの竜公を名乗ってるのだろうか。


『――簡潔に言えば、恥ずかしながら失脚いたしました……』


 口で言わずとも俺の態度から手短に話す必要があると判断したのだろう。ミアズマガルムは本当にわかりやすい説明をしてくれた。


 失脚――つまり、貴族の地位を失い領地から追い出された、ということだ。


 なるほど、実に納得のいく話だ。そういうことであれば『魔の領域』――こちらが人界なので、それに合わせて『魔界』と呼ぶこともある――を離れ、こんなところで餌場にマーキングなんてしているのも理解できる。


 当たり前だが、竜の世界にも政治やら相続やらの紛争がある。なにせ貴族がいて、平民のいる階級社会だ。どんな生物であれ、権力のピラミッドからは逃げられない。実際、俺だって世界を救った英雄だってのに、国王の下で戦技指南役なんて地位についていたわけだしな。


 そういう意味では、こいつと俺は似たもの同士かもしれない。


「それで、放逐ほうちくされた挙げ句にこっちの世界に迷い込んだってか?」


『ええ、ご存じないと思いますが、我々の世界は〝はぐれもの〟には厳しく……』


 巨大で精悍な犬の顔が、切なそうに眉を八の字に下げる。それもそのはず、こいつは権力闘争に負けたのだ。勝った方は後顧こうこうれいを断つため、こいつを殺そうとするだろう。


 生き残るため、ミアズマガルムは人界に逃げ込むしかなかった。


「事情はわかった。お前も大変だったんだな」


『いえ、これも我が身の不足がゆえのこと……いてはならぬ場所にいることは重々承知しております。すぐにでも離れさせていただきましょう。アルサル殿には余計な心労をおかけしたこと、大変申し訳なく』


 言うまでもないが、魔王が倒れた現在、人間と魔族は冷戦状態にある。表立って事を起こすことはないが、相互の不可侵が暗黙のルールだ。いくら事情があるとは言え、ドラゴン、しかも貴族アリストクラットクラスがこっちのエリアに来るなど、重大な逸脱いつだつ行為こういでしかない。


「いや、待て。その前に確認だ」


『何か?』


 謝罪し、身を起こして飛び立とうとしたミアズマガルムを制止する。


「最近、この辺りで人を喰ったな?」


 虚偽は許さない、と強い視線を黒瘴竜に射込みながら、俺は問うた。ジョアン村長の娘さんを食べたのはお前だな、と半ば決めつける形で。


 マーキングの鱗を発見した時点で、既に状況証拠としては充分だ。だが、まだ確定したわけではない。念のため、確認だけはしておかねばならなかった。


 ミアズマガルムは目を伏せた。長い睫毛まつげがいかにも貴族らしく見える。


『……大変申し訳ありません。仰る通り、空腹に耐えかね……あなたの同族に手をかけました……』


 心の底から申し訳なさそうに、竜は頭を垂れた。額の竜玉がキラリときらめく。


 貴族竜であるこいつが頭を下げることには、とても大きな意味がある。失脚したとは言え、矜持というものはそう簡単には捨てられない。高貴な身分であったこいつが謝罪する行為には、それこそ金に換えられないほどの価値があるのだ。


 まぁあくまで、【あっちの領域】での話、だが。


『知らなかったとはいえ、勇者アルサル殿のお膝元で失礼を致しました。以後は控えさせていただきます。どうかお許しを』


 誠心誠意、ミアズマガルムは謝り、これからの捕食は控えると誓う。他でもない貴族の誓いだ。嘘ではないだろうし、これが破られることもないだろう。


 だが。


「ダメだ」


 俺は、許さなかった。


『……?』


 俺が何を言っているのか、心底わからないといった風にミアズマガルムは小首を傾げる。


 俺が謝意を拒絶するとは、夢にも思わなかったのだろう。


 しかし構うことなく、俺はさらにこう告げた。


「お前はここで死ね」


 決然とドラゴンを見据えたまま。




「俺が殺す」









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