●3 宮廷聖術士と、辺境の村の災難 2








 朝には割と強い方だ。


 テントを透かす陽の光を浴びて、パッと目が覚める。


 芋虫のように起き上がると、昨夜のほろ酔い気分はもう綺麗さっぱり消えていた。アルコールの分解が早いのも〝勇者〟の肉体が故だろうか。


 寝袋を脱ぎ、テントを出て、朝の光に目を細める。


「――よっし、コーヒー飲んだら出発すっか」


 両手を上げて大きく伸びをすると、俺はまた火を起こしてコーヒーを淹れた。


 朝の澄んだ空気、明るい太陽の輝き、それらを全身で味わいながら飲む熱々のコーヒーの美味さたるや。


 うむ、今日こそ新たな人生の始まりである。


 そんな記念すべき朝に、こうして野外でコーヒーを美味しく飲むというのは、なかなかの好調なスタートなのではなかろうか。


 名残惜しくもコーヒーを飲み干すと、キャンプ用具の諸々をアイテムボックスに回収して片付ける。無論、焚き火の始末もしっかりと。ゴミは全部ちゃんと持ち帰る、それがキャンパーのマナー、否、鉄の掟だ。破った奴は万死に値する。死ぬがよい。


 閑話休題それはさておき


 野営セットを片付けた俺は早速、昨晩見かけた灯りのもとへと移動した。ついでに生体反応を探る理術も併用して、人里の位置を特定する。


 果たして、小さな集落があった。


 背の高い木々の森――その深い場所を切り開き、暮らしている人々がいたのだ。


 あちこちに木造のログハウスが点在していて、どうやら結構広い範囲を生活圏としているようだ。


 まだ朝が早いせいもあってか、誰も出歩いていない。俺は不躾かと思いつつも、足を踏み入れた。


 そのまま草の生えてない道を進んでいくと、中央広場らしき場所へと行き当たる。そこで、掲示板らしきものに張り紙をしている人物を発見した。


 敢えて足音を立てて近付いていくと、掲示板前の人物がこちらに振り返る。


「――おや? あなたは……」


 髪の白い老人だ。俺の顔を見て、不思議そうに首を傾げる。


 地味な服装に、穏やかそうな顔付き。こんな早朝から掲示板に張り紙をしているところを見ると、村長とかそういった地位の人物だろう。


 俺は足を止め、挨拶をした。


「おはようございます。私は旅の者です。失礼ながら誰もいらっしゃらなかったので、ここまでお邪魔させていただきました」


 こんな場所に隠れるように住んでいる人だ。まずは警戒されないよう、俺は礼儀正しい好青年として振る舞った。


「ああ、旅の方ですか。道理で見ない顔だと思っていたのですが……いや、よかった。私がボケたわけではなかったのですね」


 はははは、と老人は朗らかに笑う。こっちこそよかった、人当たりのよい人物で。昨日は嫌なことがあって神経がクサクサしていたので、この御仁ごじんの柔らかな物腰がとても心地よく感じられる。


「しかし、よくここがわかりましたね? この村はへんぴな場所にあるので、旅人さんが通りがかることはまずないのですが……」


「実は昨晩、あの辺りで野営をしていたのですが、夜になるとこちらの方に灯りが見えましたので」


 テントを設営した方角を指差し、この村を発見した理由を素直に告げると、老人はうんうんと頷いた。


「おお、なるほど。そういうことでしたか」


 が、しかし。納得したかのように見えた老人は、しばし俺の顔を意味ありげに見つめだした。


「……あの、失礼ですが、本当に旅の方で……?」


 急にこちらを疑うような言葉を発されたので、俺は軽く驚く。


「え? それはどういう意味でしょう?」


 聞き返すと、老人はどうにも気まずそうに視線を泳がせ、


「ええ、その……冒険者組合の増援の方、だったりは……?」


「冒険者組合?」


 何ともタイムリーな名称が出てきて意外に思ったが、しかしすぐに気付く。


 そうか、もう既に【被害】が出てしまっていたか――と。


「いえ、私は冒険者組合とは無関係ですが……何かあったのですか?」


 正直に否定してから、それとなく事情を尋ねる。大体の察しはついているが、これもコミュニケーションの一環だ。


「そうでしたか……申し訳ありません。よしないことを申しました。あなたのような方が冒険者さんだったら、と思いまして……」


 老人は謝罪してから、先程まで触っていた掲示板へと視線を向けた。俺もつられて見ると、そこには真新しい張り紙が二枚。


「……行方不明、ですか?」


 まず右側、大きめの紙に小さな写真が一枚、糊で貼り付けられていた。その周囲には数行の文章が書かれている。


 写真の主は若い女性。三日前に家を出てから帰ってきていないこと、そのことから村周辺に危険な野獣ないし魔獣がいるかもしれないこと、そのため冒険者組合に依頼を出していること、近く冒険者が村に来るので相応の対処をして欲しいこと――等々が記されていた。


「ええ、私の娘です。先日、山菜を採りに出たっきり戻ってこないのです……」


 老人は沈痛な顔で頷いた。


 しかし、三日前か。あのうろこに残っていた気配の残滓ざんしからすると、ほぼ計算が合ってしまう。おそらく魔竜はその娘さんを捕食し、さらには近くにあったこの村を認知した。だから鱗を一枚置いていったのだ。


 つまり、残念ながらこの老人の娘さんは帰らぬ人となっている――と断言はできないが、その可能性は非常に高い。


 とはいえ、それを口に出すわけにもいかず、俺は別の言葉を返した。


「なるほど、それで冒険者組合に依頼を出されたのですね。先程、増援と仰いましたが……もう冒険者の方々はこちらに来ているのですか?」


 質問しつつも、既に答えはわかっている。左側の張り紙――今さっき貼ったものだろう――に『冒険者組合から派遣された冒険者が到着したので、見知らぬ人間が村の中を歩いていても気にしないで欲しい』との注意書きがあるのだ。


 老人は首肯した。


「ええ、昨日さくじつこちらに到着されました。もう日が暮れようとしている時間だったので、空き家の一つに泊まっていただいております」


 冒険者について詳しくないので基準はわからないが、なかなか手早い対応だ。


 しかし、冒険者がアルファドラグーン側から来たのならいいが、セントミリドガル側からだとしたら少々まずいかもしれない。いや、まずいというか、ちょっと面倒なことになりそうな気がするだけだが。


 俺が国外追放されたことは、既に国中に広まっていることだろう。何だったら首に賞金が懸けられているかもしれない。その場合、冒険者が金目当てに俺を狙う可能性は充分にある。冒険者の『冒険』には賞金稼ぎ(バウンティハンター)も含まれるのだ。


 とはいえ、だ。


「そうですか、それは安心ですね」


 そう俺は言ったが、これは社交辞令だ。相手が普通の野獣や魔獣なら言葉そのままの意味になるが、これが魔竜、それもあのサイズのものとなると話が変わってくる。


 昨日まで俺が戦技指南役として教育していた兵士達であっても、百人単位で戦わなければ返り討ちにあう可能性が高い。それほどの相手だ。


 老人は、冒険者達には空き家に泊まってもらった、と言った。つまり、空き家一つに収まる程度の人数しか来ていないということだ。


 正直、よほどの実力者でもない限り荷が重いと言わざるを得ない。相応に強い冒険者が派遣されて来ているといいのだが――と、自分のことを他所に、俺は村の行く末を心配してしまう。


 案の定、


「ええ、そうなんですが……」


 やはり老人の歯切れが悪い。頼みの冒険者が来たというのに、表情が曇っている。これは悪い予感が当たりそうだ。


 そも、俺を見てすぐに『冒険者組合の増援』なんて言葉が出てきたあたり、何となく察するところはあったのだが。


「何か問題でも……?」


 そう問い掛けた時だ。俺から見て左手の方角から、複数の人の気配が近付いてきた。


 ガシャガシャと鳴るのは、身につけた鎧の部品が擦れ合う音か。足音も重く、結構な重量を身につけているのがわかる。だが響きは粗野そのもの。歩くリズムが無法者のそれだ。


 先に俺が、続いて老人が左方向に視線を向けると、やはり木々の間を抜けて五人の冒険者がこの広場に向かって歩いてきていた。


 目につくのは、どいつもこいつもケバケバしい髪の色。蛍光ピンクだの蛍光グリーンだの、絶対に生まれつきでないだろう色の髪をド派手にセットしている。あれは冒険者の間で流行っている髪染めだろうか。


「…………」


 あー、うん。見ただけでわかる。あいつらザコだ。それもかなりの。少なくとも、俺が鍛えてた奴らよりは弱い。それだけは確実だ。


「ふぁ……ぁ……ん? おー、オッス村長さぁん! お早いねぇ!」


 各人の目鼻立ちがわかるほど近付いてきた頃、集団の先頭であくびをしながら歩いていた男が、片手を上げてぞんざいな挨拶をした。やはり、この老人は村長だったらしい。我ながらいい勘をしているな、俺。


「これはこれは、デービスさん。おはようございます。皆さんも。昨晩はよくお休みになられましたか?」


 ラフというか礼儀のなってない蛍光ピンク頭の冒険者――デービスとやらに対しても、村長は丁重な挨拶を返した。


「おーおー、柔らかいベッドでなかなかいい感じだったぜ! あーでも、もーちょい部屋が広かったらよかったかなー?」


「それは申し訳ありません、非常事態だったので、あそこしかご用意できず……」


 村長が頭を下げると、デービスは適当に掌を振った。


「あー、いいっていいって、別にこんな田舎に豪勢な宿とか期待してなかったし。さくっと依頼をこなしたらすぐ帰っからさ!」


 このデービスとやらは、見た感じ二十歳前後か。後ろにくっついている連中も似たような年頃に見える。位置関係的に、どうやらこのデービスとやらがリーダーのようだが……


「そんで朝飯なんだけど……ん? そっちは?」


 デービスが俺の存在に気付いた。胡乱な目をこっちに向けてくる。


「ああ、こちらは――」


 と村長が紹介してくれるところをさえぎって、俺は自ら名乗った。


「どうも、偶然通りがかった旅の者です。この村の者ではありませんよ」


「ぁあ? 旅人ぉ?」


 おっと? なんだその口の利き方は? 初対面だろ俺達? 村長とは昨日のうちに仲良くなったのかもしれないと思い、舐めた口利いてるのをスルーしてやったが――それを俺にまで向けてくるとなると話は別だぞ?


 というか、俺はちゃんと敬語で話したよな? 敵同士ってわけでもないのに、敬語に対してタメ口返すのはちょっとどうかと思うんだけどなぁ、俺は。


「んー……そんな軽装で旅人だぁ? それってよぉ、ちょっと……いや、かなりあやしいんじゃねぇの?」


 おいおいなんだなんだ、変な目を向けるなよ。荷物はアイテムボックスに入れてるから手ぶらなんだよ――などと説明したところで、理解してくれそうにもなさそうだな。


「一体何者だ、てめぇ?」


 デービスはズカズカと俺に接近し、ジロジロと不躾な視線を投げかけてくる。うん、これは純度百パーセントの喧嘩腰だな。


 よし。


「口の利き方には気をつけろよ?」


「ぉがっ!?」


 俺は無造作に、片手でデービスの下顎を掴んだ。頬の中央を左右から指で挟むようにして、ぐっと力を込める。


「が……ぁ……ぁ……!?」


 デービスが口まわりに発生する激痛に目を白黒させた。わりと力を込めているからか、顎骨がメキメキと軋みを上げている。失礼な言葉遣いをするのはこの口か、ええ?


「ちょっ――!? おいコラ、なにして」


「黙ってろ、こいつの顎がどうなってもいいのか?」


 デービスの後ろにいる連中が色めき立ったので、低い声で牽制した。それから息のかかる距離までデービスに顔を近付け、強い視線を奴の両眼に射込む。


「俺とお前は初対面だ。こっちはちゃんと敬語を使って話しかけてやっただろ。お前も相応の態度を取れ、この礼儀知らずが。知ってるか? 礼儀ってのは弱者が強者と話をするために必要なルールなんだぞ」


「ぎぃ……ぃ……ぁ……!?」


 デービスの両手は自由なので抵抗することも可能なはずだが、奴は激痛に呻くだけで身動みじろぎひとつしない。そんなことをすれば、本当にこのまま顎を握り潰されることを本能的に察知しているらしい。無駄な抵抗は火に油を注ぐだけだと、体で理解しているのだ。


「わかったら、次からは敬語を使え。もちろん、そこの村長さんにもだ。お前がどこの誰様かは知らんが、特定の地域でおさを務めている御仁ごじんだぞ。お前がどこの誰であろうと、然るべき相手には敬意を示せ」


 昨日の国王や王子、将軍に対する自身の態度を思えばブーメランを投げているような気分だが、あれは事情があってのことだ。俺だって昨日までは原則、礼儀作法に則って相対してきたのである。だが、あちらが俺を死刑にするつもりであるのなら、そこに礼儀など必要ない。殺るか殺られるかの関係に落ちたというのに、敬語など使っていられるものか。


「もう一回言うぞ。【口の利き方には気をつけろ】。次はこんなものじゃ済まさないからな」


 もとより下顎を掴まれたデービスには返事にしようもない。力を入れて位置を固定しているので、首を動かすことすら出来ないのだ。よって俺は言うだけ言って、手を離した。


「――っぶっはぁっ!?」


 痛みのあまりブルブルと震えながら涙を流していたデービスが、解放された途端に大きな息を吐く。まるで殴られたかのような勢いで後退あとじさり、俺との距離を開いた。


「お、おい大丈夫か!?」「怪我は!?」「リーダー!?」


 デービスの仲間達がよってたかって群がり、奴の心配をする。デービスは両手で口元を押さえて、荒い呼吸を繰り返していた。


 そして。


「――て、テンメェエエエエェェッッ!!」


 おもてを上げるや否や、怒髪天どはつてんく勢いで叫ぶ。


「……やれやれ」


 そうかい、それがお前の答えかい。まぁ、力には屈さないって気骨はいいと思うよ。反骨精神っていうのかな。そういうのは俺も嫌いじゃない。むしろ共感するまである。


 が、それとこれとは話が別だ。


「じゃあ、格付け開始だな」


 俺がそう言うのが早いか、既にデービスは地を蹴って俺に殴りかかってきていた。


 憤怒の形相。おやおや、ガチギレしてるな。プライドが高いのか、気が短いのか、その両方か。


 どっちにせよ周りが見えていないし、彼我の実力差もわかっていない。


 馬鹿め。


「オォ――!」


 気合いの声を上げて俺を殴ろうとするデービス。動きが遅過ぎるし、大振りだし、というか攻撃のタイミングを自分から教えるとは何事だ。冒険者になりたての素人か?


 俺は右足を蹴り上げ、さくっとカウンターを叩き込んだ。


「――ルァぶはぁっ!?」


 前蹴り――いわゆる『ヤクザキック』を土手っ腹に受けたデービスは、それこそサッカーボールみたいな勢いで吹っ飛んだ。


 軽いものとは言え鎧を着ていてよかったな。手加減はしたつもりだが、生身で受けていたら内臓が破裂していたかもだぞ?


「ぐおっ!? お、ぉぉ……………………!?」


 地面に落下してゴロゴロと転がったデービスは、そのまま腹を抱えて、しばらく無言で体を震わせる。俺のカウンターキックが強すぎて、声も出せないぐらい悶絶しているらしい。


「弱いな、お前。この程度がリーダーなら他の奴らもたかが知れてる。悪いことは言わないから帰れ。残念ながらこの村の周りに来ている魔物は、お前ら程度の手に負える相手じゃないぞ」


 下級の魔獣ぐらいならこいつらでも大丈夫だろうが、魔竜クラスだと絶対に瞬殺されるに違いない。


「……!?」


 デービスの仲間達が俺を凝視して、絶句する。まぁ、デービスが蹴り一発でかなりの距離を吹っ飛んでくれたからな。それだけでビビってくれてるのだろう。


 正直、こうして直接手を下さず、王城でやったみたいに〝威圧〟すればもっと簡単なのだが――それは出来ない。なにせ、すぐ近くに村長さんがいる。俺に限らず、人間を遙かに超える強さを持つ存在の〝威圧〟は相手を選ばない。敵味方関係なく、周囲一帯全てを圧倒するのだ。


 流石に俺だって、何の罪もない善良な一般人から恐怖の目を向けられるのは好むところではない。


 敵からなら、喜んで受け入れるが。


「て、てめぇ……よくも、よくもやってくれたなぁ……!」


 お、まだ頑張るか。デービスは生まれたての子鹿みたいに全身をガクブルさせながら、どうにか立ち上がった。いいだろう、根性だけは褒めてやる。口には出さんがな。


 デービスは満身創痍にしか見えない風体ふうていで、大きく息を吸い、


「テメェのつらは覚えたからな! おぼえ――」


 てろよ、とでも言いたかったのだろうが、最後まで言わせるわけもない。


「だから【口の利き方には気をつけろ】つってんだろ」


 俺は瞬間移動みたいな速度で奴の前に立ち、再び片手で下顎を掴んだ。


「おがっ……!?」


 十メルトル以上離れた場所に立っていた俺が目の前にいること、気付けばまた下顎を掴まれていること、その両方にデービスが愕然とする。


「言ったよな? 次はこんなものじゃ済まさない、って」


 直後、俺はデービスの顎を握り砕いた。林檎のように、ぐしゃりと。


「アガッ――!?」


 デービスの口から血反吐が飛び出る。が、構いやしない。なにせ冒険者の一味だ。一人ぐらい回復の理術を使える奴がいるだろう。殺さない限り、多少の怪我ならすぐ治る。


 だからこそ、これだけで終わるはずもなく。


 腹に膝蹴り。ゴン、と軽鎧の腹甲がへこむ。さっきの前蹴りと合わせて二度目の衝撃に、デービスの体がくの字に折れる。呻き声の代わりに、奴の口からは血飛沫がほとばしった。


「――~ッ……!?」


 ふわ、と羽毛のように軽く宙に浮いたデービスの頭を、血塗れの手で荒々しく掴む。長く伸びた蛍光ピンクの髪。セットするのに時間がかかったであろうそれを、遠慮なく握り潰す。


 そのまま、デービスの頭を真下へ向かって投げつけた。


「――ンベッ!?」


 べしゃ、と水っぽい音を立ててデービスが地面とキスをした。少しだが、顔が土に埋まる。


 それで終わりだった。


 もはやピクリともしない。立て続けの衝撃に意識を失ったらしい。


 俺は血で汚れた手を適当に振りつつ、呆れ気味の視線をデービスの仲間らに向ける。


「――で? お前らも?」


 言葉少なにそう聞いた。無論、お前らも俺に舐めた口利くつもりか? という意味である。


 四人が同時に、ブンブンブン、と頭を横に振った。蛍光グリーンだのイエローだのといった派手な髪が揃って、何かの玩具おもちゃみたいに揺れる。


「じゃ、何か言うことあるよな?」


 そう念押しすると、派手な頭が一斉に深く下げられた。


『すみませんでしたぁ!』


「よろしい」


 声を重ねての謝罪に、俺は溜飲を下げる。それから、


「おい、誰かこいつを治療してやれ。回復理術を使える奴ぐらいいるだろ」


「は、はい、ただいまっ!」


 冒険者の中でいかにも理術士然とした格好をした男が、慌ててデービスに駆け寄る。


 ひとまず、これにて仕置き完了だ。冒険者連中との格付けも終わった。これだけ痛めつけておけば、もう噛み付いてこないだろう。


 話を戻そう。


「村長さん」


「……えっ?」


 俺が向き直って呼び掛けると、半ば唖然としていた老人はふと我に返った。少々怯えた目で俺を見返す。


 まぁ、〝威圧〟するよりマシだとはいえ、目の前で暴力振るえばこんな視線も向けられるわな。致し方ない。


 それでもなお、俺は少しでも印象を良くするために意識して笑みを浮かべてみせた。


「先程仰っていた『増援』の意味がよくわかりました。もしよろしければ……この件、私に預けてみませんか?」


「あっ……えっ? ええ?」


 オロオロと狼狽ろうばいする村長に、俺はさらに畳み掛ける。


 精一杯の笑顔で。


「大丈夫、悪いようにはしませんから」








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