賢者 Lv.19
キャスリィがルベリウスの背中に引っ付いてる時、ファミルはルベリウスに背中を預けていた。
波で浮き上がる身体をルベリウスに押し付けた格好である。
「お兄様、何か硬いものがお尻に当たります。これは何です?」
ファミルはニヤニヤしながらお尻を左右にぐりぐりと押し付けた。
確信犯である。
一体どこでそんな知識を身に着けてきたのか。
それも〝僧侶〟という慎ましやかでいるべき職分の持ち主だというのに。
誤魔化しができないと堪忍したルベリウスは〝遊ぶ〟を使う。
ルベリウスは意を決して海水に潜り前と後ろに〝舐め回す〟で二人が
取り残されたキャスリィとファミル。
「ベルくん。大人になったのね。これからも楽しみだわ」
キャスリィは火照った顔でうっとり。
「こんなの知らなかった──お兄様……ファミルは本当におかしくなっちゃいそうです……」
ファミルは何かしら感じるものがあったようだ。
そんな二人をミレアが浜辺に引っ張りあげると──
「二人とも、ベルを甘く見過ぎよ」
そう言って、二人の身体が落ち着くのを待った。
何とかキャスリィとファミルから逃れたルベリウスだったが、姉のアリスに呼び止められる。
「ね、ベル。遊ぼうよ」
またもや海に引きずり込まれた。
「ねえ、ベル? 海って楽しくない?」
アリスは波に揺られながらルベリウスの腕に抱きついて両足を海面から突き出す。
「僕、海は初めてでしたけど、確かに楽しいんですが──」
彼女たちは服と一緒に貴族の女として本来あるべき貞淑さを脱ぎ捨てている。
ルベリウスはそう感じていた。
「ははっ! こんなところに来てまでスマシてちゃイヤよ」
アリスはしかめっ面のルベリウスを笑い飛ばして海水を叩いてルベリウスにかける。
「しょっぱッ!」
ギュッと顔に力がこもるルベリウスを見てアリスは更に笑い飛ばした。
「そうそう。それで良いのよ。だから遊ぼうよ。ベル」
「遊ぼうよって言ったってさ──。というより先程も思ったんですが海の水って本当に塩辛いんですね」
「それはそうよ。だって海だもの」
ルベリウスはアリスの言葉で海を楽しもうと思ったその時、一際大きな波が二人を押し上げる。
すると、ルベリウスの腕に抱き着いていたアリスが──
「あんッ……んッ……」
何やら艶めかしげな声を発した。
ルベリウスは手が触れた柔らかい感触のその箇所で、グリグリと指を動かすと、アリスの顔がみるみるうちに赤くなる。
「ヤぁんっ……ね、ベル……刺激が強いよ……」
波で足がつかない二人だがルベリウスは器用に足を掻いて姿勢を保っているがアリスはルベリウスに抱き着いて顔を海面より上に何とか出していた。
そんな具合でルベリウスの手である。
「あ、お姉様。ごめんなさい」
手を離そうとしたルベリウスだったが、
「ダメ。もう少しこのままで──お願い……」
色っぽい顔でアリスに
アリスはただ、足が地についてなくて怖かったからルベリウスにくっついていたかっただけだったのに──。
強烈な倦怠感でぐったりしたアリス・ヴァン・ダイスはルベリウスのお姫様抱っこでウルリーケの隣に横たわらせられた。
息が荒いアリスにウルリーケは「大丈夫?」と聞くと、アリスは「大丈夫。何でも無いから」と答える。
それから、ウルリーケはマルヴィナに「ベルと海で遊んでらっしゃい。アリスが来たから」と言うと続けてルベリウス「ベル、マルヴィナは私に付き合ってくれてたの。アリスが戻ってきたし、ベルはマルヴィナと一緒に海で遊んでらっしゃい」と送り出された。
「久し振りに海に入りましたけど、本当に気持ちが良い……」
「最初に海に行きたいって言ってましたもんね」
マルヴィナはルベリウスが入ったことのない海を一緒に楽しみたかったというだけだったのだが、結局、ルベリウスの初めてにはならなかった。
「ベルさまが私の紋章や傷を消してくれなければこうして海に入ることもなかったでしょうから、こうして海で遊べることで改めてベルさまに感謝を伝えたく思います」
「いや、そこまでのことをした覚えはないんだけど……それにもう大丈夫だから」
マルヴィナとルベリウスは波に揺られて浮いたり沈んだりしている。
背丈がほとんど変わらないから目線の高さが一緒。
海水で濡れた唇の艶が色っぽいと互いに目を見張った。
マルヴィナはそこが不思議に思う。マルヴィナの足は地についていない。
足で掻いて浮いているからだ。つまり──。
「ベルさま。泳げるんですね?」
「ん。さっきからなんとなくできるようになって……」
ルベリウスは幼い頃からずっと変わらず物覚えの良い子だった。
それがここでも発揮されている。
「なら一緒に泳ぎましょうか」
マルヴィナはこれなら一緒に思いっきり遊べる。
そう思った。
ところが、二人を大きな波が襲いマルヴィナをルベリウスの方向へ押し流す。
ルベリウスは波が来るのが見えていたから体勢を整えて迫る波に耐える準備が出来ていた。
前のめりに陸地へと押されたマルヴィナは視界が一気に狭くなり、唇に柔らかい感触が触れる。
ルベリウスの唇だった。
マルヴィナは気持ちが昂り、ルベリウスの首に腕を回し舌を押し込んでしまう。
波が通り過ぎてマルヴィナは口を離した。腕はそのままルベリウスに抱き着いたまま。
「も、申し訳ございません。波に流されて、つい──」
唇を奪ってしまいましたとまで言葉に出来なかったが、ルベリウスがチュッと唇を重ねてから身体が離れ──。
「波が大きいとこういうこともあるんですね。約得でした」
「ベルさま……」
ルベリウスがはにかんで笑う顔にマルヴィナは安心する。
「泳ぐんでしたよね?」
ルベリウスはマルヴィナが泳ぎ始めるのを待った。
何故なら泳ぎ方を知らないからである。
「あ、そうでしたね。では、一緒に泳いで遊びましょう」
マルヴィナが手足を動かして進み始めると、ルベリウスはマルヴィナに倣って泳いで後ろを付いていく。
そして、あっという間に追い抜いた。
マルヴィナの気が済むまでルベリウスは付き合い、それから岸に上がるとルベリウスが倒したカニとイカが炭火で焼かれているところだった。
海や汽水湖を堪能したプリスティア家とルベリウスたちはあっという間に五日後を迎える。
帰りの馬車ではルベリウスを挟んで座るアリスとファミルの争いが激化。
ルベリウスがアリスを伸してしまったことでアリスは禁断の扉を開いてしまった。
ファミルが魔法についてルベリウスに話しかけると、アリスが横から答えていく。
「むむむぅ……ファミルはお兄様に聞きたかったのにぃ」
「うふふ。ここね。私もベルに教えてもらったのよ。ここはこういう意味だから、より効率的にするのなら、この節はこっちにするべきなのよ」
「ぐぬぬぬぬ………」
アリスはルベリウスに教わったことは一言一句違わず覚えていた。これはイリーナも同じで、ウルリーケも同様。
そして、そのやり取りはアリスとイリーナを見ているようでウルリーケは微笑ましく見ていた。
「もう、良いです! ファミルは学校に戻ったらお兄様のところに通い詰めますから!」
ファミルは第一学校初等部に通う侯爵家の孫娘だったことをアリスはこの時、思い出した。
そして、この言葉の通り、ファミルは侍女と一緒にルベリウスの部屋に入り浸ることになるのだがそれはまだ先のことである。
プリスティア領ダルムット市に戻った一行だが、ルベリウスはマルヴィナと一緒にその翌日にダルムットを発った。
ルベリウスは学費を稼ぐ必要があったため、冒険をしなければならない。
大きな台車を折りたたんでマルヴィナと交替で引きながら歩いて帝都を目指した。
数日後──。
ルベリウスはマルヴィナとふたりで帰路の途中、帝都西の平原で大きな魔物の群れと交戦する少女を見つけた。
真銀色の髪の毛の少女が大きな魔物から逃げ回っている。
「マルヴィナさん」
「あんなものがこんなところに出るものでしょうか?」
マルヴィナはその魔物を見て普通は居ない魔物だと判断する。
「加勢します」
「ベルさま」
考えあぐねている間に危険な戦いにルベリウスを借り出してしまった──マルヴィナは悔やんだ。
ルベリウスが疾風のごとく駆けつけて、銀髪の少女の前に立った。
「大丈夫ですか?」
「あ……。ああ、今は大丈夫。それより勝てるの?」
「何とか、とりあえず危険ですし逃げてください」
「いや、それはムリ。あれを倒さないとウチの生活がかかってるの」
少女はムチを構えて大きな魔物──トロルと向き合った。
「なら、僕も加勢します」
ルベリウスが剣を抜いて構えると、マルヴィナの隣に並び、
「私も戦います」
と、二体のトロルを相手に三人で挑む。
一体のトロルが大きく振りかぶってルベリウス目掛けて棍棒を振り下ろした。
大ぶりではルベリウスを捉えること無く難なく躱す。
トロルの攻撃を躱したルベリウスが棍棒を地面に打ち付けて動きが止まったトロルを剣で打った。
スチールソードの打撃ではトロルの硬い皮膚を裂くことができずダメージを与えられない。
かたや、もう一方のトロルは棍棒を振り回してマルヴィナと銀髪の少女を襲う。
マルヴィナは器用に躱してナイフの切っ先を突き刺すが刃先が少しだけ抉るのみでトロルに痛みを与えてはいるもののどれだけのダメージになっているのかがわからない。
マルヴィナに続いて銀髪の少女がムチを打ち、二体のトロルに攻撃をあてたもののダメージを与えられない。
その間、ルベリウスは魔法をいくつか詠唱してストック。
そのうちの一つはマルヴィナのナイフにかけてナイフの威力を増幅。
すると、少しずつマルヴィナの攻撃でトロルの皮膚を抉れる。マルヴィナは攻撃方法を変え、何度も急所のみを狙う作戦を取った。
ムチによる攻撃が通じないと銀髪の少女は悟る。しかし、ここで逃げるわけにはいかないと、少女は突然踊り始める。
それからというもの少女は次々とトロルの攻撃を躱し、石遊びで不可思議なダメージを定期的に与えていた。
それを見ていたルベリウスはこの戦い方に昔の自分を重ねる。
(この子はもしかして〝遊び人〟では?)
ルベリウスは少女を見て『なんて楽しそうに戦う子なんだろう』と嬉しくさえ思う。
〝賢者〟になってからというもの〝遊び人〟としての本来の戦い方を思い出せずにいた。
剣を振るい強敵には威力の高い魔法を使い封殺してきたのだが、ルベリウスは逆にこれをつまらないと感じている。
戦闘に遊び心は必要ないというのに、ルベリウスはその遊び心を忘れられずにいた。
ルベリウスは〝遊ぶ〟を使い、マルヴィナの尻を撫で、少女の尻を撫でる。
「や、ちょっと、何するのよ!」
少女は一瞬怒ったが、傷と体力が癒えていくのが分かった。
(あれ? これってウチと似てない?)
ルベリウスは踊りながらトロルの攻撃を躱し石を投げる。
少女はその様子を見てそう思った。
ルベリウスは自身に攻撃威力を増幅する魔法をかけている。
それは〝賢者〟だからできる技。
威力の増した石礫は見た目よりもずっとダメージが大きい。
加えてマルヴィナの攻撃力の増幅もルベリウスは絶やさずにかけ続ける。
マルヴィナは一体を倒し、ルベリウスがもう一体を倒す。
それほど労せずに二体のトロルをやっつけた。
「ちょっと! 横殴りして! 酷いよ! ウチの獲物だったのに」
少女は憤慨。
だが、ルベリウスはこのトロルを冒険者ギルドに持っていったら大事になると考えた。
「この魔物の首は持っていっても良いですよ」
「二つとも?」
「はい。その代わり、僕たちが加勢したこと内緒にしてもらえます?」
「そういうことなら喜んで」
「じゃあ、取引は成立。僕はルベリウスという名前だけど、キミは?」
「ウチはレッカ」
「そういうことでレッカさん。僕たちの名前を出さないことを約束にこの二体の首を進呈します。マルヴィナ、良いかな?」
ルベリウスはトロルとの戦いの成果を求めずにレッカに与える。
それをマルヴィナに確認したら「かしこまりました」とトロルの首を削って切り離す作業を始めた。
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