遊び人 Lv.15

 アリスが目を覚ますと下着すらつけていない全裸でルベリウスを抱き締めていた。

 大きな胸にルベリウスが顔を埋めていて、愛おしく思う。


「あれ、私、何で裸?」


 寝る前の出来事を思い返す。

 アリスはルベリウスに遊ばれてあれよあれよという間に服を脱がされ下着を剥がされた。


(これが〝遊び人〟の本領なの?)


 これで気分が全く害されない。不思議な魅力を持った弟だとルベリウスの頭を撫でる。

 これならこの勢いでヤってしまって初めての女になっても良いんじゃないか。

 頭に浮かぶ情景だったが、姉弟はダメってイリーナに言う私がこれではイリーナに示しがつかないわ──と、お腹から響いてくる情欲を何とか抑え込んだ。


「アリス様、おはようございます。お召し物はこちらに用意してございます」


 アリスが身体を起こすとターニャが下着や衣服を畳んでいて用意してくれていた。


「お見苦しいものをお見せして申し訳ないわね」

「いいえ。坊ちゃまはいつもこうですから」


 ターニャはアリスが全裸でいることを見越して準備をしていたわけで、アリスは〝いつもこう〟と言ったターニャがルベリウスに良いようにされていることを察する。


「貴女も大変なのね。お身体の方は無事なのです?」

「はい。一線は越えてませんよ」

「そう。今までお世話をかけて姉として謝罪します。それにこれからもよろしくおねがいしますね」

「ええ。任されました。けれどお世話だとも思えないんですよね。坊ちゃまって不思議な魅力があると言いますか、何をされても悪い気が全くしないんです」

「それは私も同感ね。実の姉弟だっていうのに──」


 本当に不思議なのだとアリスも感じている。

 それが〝遊び人〟という職分のスキルなのかも知れないとも思ってる。

 ルベリウスは生後まもなくから一歳の誕生日を迎えるまでの間に〝遊び人〟という職分を天から賜った。

 職分が後から発現した者たち比較して職分の成長開始地点の早さにより能力の差が現れている。

 そこに目をつけている者が居れば、早くに最下級職だと分かってよかったと早めに切り捨てる者もいる。

 そういったことよりも人間としてのルベリウスを、家族としてのルベリウスを大切に思う人間もまたいるのだ。

 アリスは家族としてルベリウスを大切に思い続けていた。

 似た思いでルベリウスと接するターニャにアリスは心の中で同意する。


(彼女が居れば少しは安心ね。ちょっとだけ安心じゃないところもあるけれど──)


 アリスはターニャの介添で下着や衣服を身に着けて支度を始める。

 軽い朝食を摂ると、ターニャはアリスの化粧まで手伝う。

 その化粧の出来栄えにアリスはターニャを褒めた。


「貴女、ベルの専属だと思っていたけれど、化粧も上手なのね。私が第一学校にいた時にお願いしたかったわ」

「こういうのは巡り合わせですよね」

「全く──ほんとうにそうね」

「はいっ。終わりました」

「ありがとう。また機会があったらお願いします」

「ええ、任されました。では私は坊ちゃまを起こしてきますね」


 アリスの身支度と化粧を終えてターニャは再びルベリウスの寝室に入っていった。

 寝室ではルベリウスが大の字になって寝ている。

 ターニャは大きなベッドに膝を乗せてルベリウスに覆い被さって耳元で囁く。


「坊ちゃま。朝ですよ。起きてください」


 そうするとルベリウスは寝ぼけながら手をターニャの尻に回す。

 悪戯するときとは少し違うねっとりとした触り方で、ターニャは頬が熱くなるのを感じる。

 それでもこうしないと起きないのでルベリウスの耳元で再び囁いた。


「坊ちゃま。起きましょう。おはようございます」


 その声でうっすらとルベリウスが目を開けると、柔らかく甘ったるい香りで気分が高揚し、朝が来たのだと気が付く。


「おはよう。ターニャ」


 ルベリウスの声がターニャの耳に入り込んで吐息が耳を刺激する。

 ターニャは身体の奥への刺激に耐えて身体を起こし、着替えを手に持った。


「おはようございます。お着替えいたしましょう」


 ターニャの声を聞いてルベリウスは目を擦りながら立ち上がりターニャに介添をお願いする。


(──私、いつまで耐えられるんでしょうか……)


 こうまで刺激されて我慢をするというのはなかなか厳しい。

 目の前のルベリウスはこれから少しずつ男になっていく。

 今はまだなり始めだからごまかしが利くけれど、もう数年も経てばわからない。

 相手は〝遊び人〟という職分を持ち合わせた男性だ。

 彼はどれだけの人間を狂わせるのでしょう?

 ターニャは少しずつ大人の男性への成長を見せるルベリウスの着替えをしながら息を漏らした。


 着替えが終わってルベリウスは第二学校へ持っていく書類を準備してからダイニングテーブルに移動。

 途中、アリスが準備を終えて茶を飲んでいた。


「おはよう。ベル」

「お姉様。おはようございます」


 通り過ぎようとしたルベリウスにアリスは挨拶をする。

 ルベリウスが声に気がついて眠そうな表情はそのままで挨拶を返した。

 ターニャは頬の熱が引くのを待ってから台所に戻る。

 そうでもしないと顔が真っ赤なのがバレてしまうからだ。

 普段ならルベリウスと二人きりなので気にせずに準備を進めるのだが、今朝は客人が居る。

 ターニャが戻ってきたら続いてチャミルが起きてきた。

 チャミルもルベリウスと変わらないくらい朝が弱い。

 寝ぼけながら起きてきて──


「おふぁようございまふぅ……」


 と、何を言っているのかわからない挨拶をして顔を洗いに行く。

 それもあられもない姿で──。

 茶を飲んで窓の外を眺めていたアリス。

 ルベリウスが朝食べる軽食を準備しているターニャ。

 誰もチャミルを見ていなかったのだ。

 ルベリウスが顔を洗い終わってようやっと目が覚めてきたところに彼女は現れる。

 下着をつけず、部屋着は着崩してほぼ半裸。

 晩秋の肌寒い朝だというのに洗面所に入ってきた。


「あー、おひゃようごじゃいましゅー」

「お、おはようございます……」


 ルベリウスは胸元が乏しいチャミルを見て突起がちょこんと飛び出ているのが気になった。

 遊び心が湧いて思わずその突起をちょこんとつっつく。


「ひゃあっ!」


 身体をびくんとはねさせてチャミルは後退り胸を腕で隠した。


「やんっ。ちょっとびっくりしたじゃないですかぁ。おかげで目が覚めちゃいましたよ」


 ニコリと笑ってみせたルベリウスにチャミルは怒る気に全くならず、むしろ、からかわれて遊び心に火が付く。

 年上の余裕を見せてやるとばかりにルベリウスに抱き着いて


「わー、あったかーいっ。寒いですね。悪戯ばっかりしていちゃダメですよ」


 耳元でそう言って身体を離し、顔を洗うために洗面台に立った。

 顔を洗い終わって目が覚めたルベリウスはチャミルの感触を思い出しながらダイニングテーブルに向かう。


「チャミルの声が聞こえたけど大丈夫だった?」


 ルベリウスの姿を見たアリスが聞いた。

 チャミルの小さな悲鳴は居間まで届いていたようだ。


「たぶん、大丈夫だと思いますよ」


 ルベリウスはそう答えてテーブルの上のふっくらとしたビスケットを口に運んで咀嚼すると、ターニャが


「坊ちゃま。お行儀が悪いですよ」


 というので椅子に座って茶を飲み、口の中のビスケットを流し込む。


「あ、坊ちゃま。食べてるところ済みませんが、本日は、第二学校に手続きに行くのでお休みすると管理室に伝えてきます」

「はい。お願いします」


 ターニャが部屋から出ていくと、入れ替わりでチャミルが戻ってきた。

 チャミルの姿を見たアリスは、


「まーた、着替えちゃんとしてない。今日は教会に行くから身だしなみ!」


 と、チャミルを注意。

 チャミルはパタパタと足を鳴らして──


「はい。今、着替えてきます」


 と、言葉を残してターニャの寝室に向かう。

 ルベリウスは寝室に向かうチャミルの姿を目で追った。


 ターニャが戻ってくると、チャミルが着替えを済ませて戻ってくる。

 今日は四人で貴族街に入るためターニャにも支度が必要。

 ターニャはチャミルに朝食を用意してから自分の準備のためにターニャの寝室に消えた。


 一方、その頃。

 ダイス家邸宅では今日も南通用門が見える茶店に向かって貴族街の大通りを南下。

 ウルリーケはあの日から毎日、欠かさず南通用門に向かって歩いた。

 片道一時間かかる距離を毎日歩いた。

 最初は使用人も一緒だったが、今では一人で茶店でルベリウスを待っている。

 いつかきっとルベリウスと再会できるのだと信じていた。


 この日はアリスが帝都に来るという連絡をウルリーケは受けている。

 予定では教会で働いてから邸宅で過ごす──と、そう聞いていた。

 ウルリーケがいつもの茶店に入ろうとして扉のガラスを見ると、シワの増えた自分の顔と、アリスの姿が映っている。


──アリス?


 ウルリーケは茶店に入るのを止めて後ろを振り向くと四人の男女の姿が見えた。

 アリス。

 アリスの隣にはアリスと同じ服の若そうな女性。

 アリスの後ろに見覚えのある姿──ターニャの姿があった。


──どうしてターニャがアリスと一緒に?


 そう思っていたらターニャの影で見えなかった少年──ターニャより少し背が低いが面影が記憶の底から掘り起こされる。


「ベル────ッ!」


 ウルリーケは叫んだ。

 ウルリーケは走った。

 きっとこれまでの人生で一番大きな声で叫び、一番速く走ったのではないだろうか。

 そして、今までで最もはしたない姿で──。


「ベルッ!」


 ウルリーケの声にアリスが気がついて目線が交わった。

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