第9話 今度は

「お姉ちゃん、怖いの苦手なのに大丈夫なのー?」

「大丈夫じゃないから行くんだよ。作り物の方が怖いんだから」

 あの後、私は日付を確認した。

 そうしたら、お姉ちゃんが亡くなるよりもずっと以前まで戻っていた。

 全部、全部覚えている。

 私の大切な記憶達。

 今日は、黒鬼のいる薬屋のあるお化け屋敷に行く日。

 正直、怖い気持ちも強い。だけど、それ以上に、私は今度は間違いなく三人を救いたいという気持ちを持っていた。

 だから、お姉ちゃんが死ぬなどということがない日を絶対に続けていきたい。

 そのためには、赤鬼を倒さなければならない。

 間違ってはいけないのは、黒鬼に全てを託すのではなく、自分でその未来を作っていくのだということ。つまり、戦う術を身に着けるということ……。

 だから、お化け屋敷に行ったら、まずは黒鬼に会いに行こう。


「お姉ちゃん、お化け屋敷に入る前に小説投稿サイトでも見てみたら? ほら、イベントとかあるかもしれないから、先にチェックしておくといいかも」

「あ、そうだね! ありがとう。仕事もあるからその辺り調整しとかないとなんだよねー……。あくまでも趣味だから」

「そういう真面目なところ、本当に頭が上がらないよ」

 なんて言いながら、私はふと思う。

 そういえば黒鬼が言っていた。あのお化け屋敷は地獄に近いと。だとしたら、そこに赤鬼がいて、先にメロンが行っていたのだとしたら……?

 彼は、何を願ったのだろう。

「お、お姉ちゃん。メロンって人の作品読んだことある? 私さ、ちょっとファンで……。よかったら、お姉ちゃんにも読んでほしいなーって」

 向けられる刃は少ない方がいい。

 少しでも。

「ん? ああ、あの人ね。おすすめ作品によく出てくる人だよね。気になってたから読んでみるよー」

「今! 今読んで!」

「えー、ゆっくり読みたいんだけどなぁ」

「この短編とか丁度いいんじゃない?」

「あ、これなら数分で読めるね。オッケー!」

 そして数分後、お姉ちゃんは号泣していた。

「ちょ、お姉ちゃん……やめてよ。いくらなんでもそんな泣かなくても……。まだお化け屋敷に入ったわけでもないのに」

「だって、だってメロン先生の作品、私の好みのドンピシャなんだもん! メロン先生、生きてるのかなぁ。メロン先生に会いたい。メロン先生に直接お礼言いたいぃ……」

「メロンって、あの八木野メロン? ……ですか?」

 通りかかった人がそう言った。あ、この男。

 メロンじゃん……。

「うん、うんそうです。私、鬱の話ばかり書くから、こんな感動的なサクセスストーリー書いたことがなくてっ。感動しちゃって」

「その、メロンって、俺のことですけど……。なんか、ありがとうございます」

「えっ、メロン先生っ!? は、初めまして! 私、点々々という者です! ご存じないかもしれませんが……」

「は、あの、点々々……先生!?」

 メロンは顔を赤くした。

 ……もしかして、嫉妬で狂ってたけど、本当は普通にお姉ちゃんの作品が好きな人だった、ってこと?

「お、俺も先生の作品結構好きで、あの、最新作読んでました。勝手ながら羨望というか醜い感情なのですが……」

 二人は盛り上がってるみたいだし、放っておこう。

 私は一人、お化け屋敷に向かっていく。

 そして薬屋のところまでやって来ると、黒鬼がいた。

「黒鬼!」

「!?」

 黒鬼は凄いびっくりしてから、私を見ると安堵した笑みを浮かべてこう言った。

「美冬か。今回は、大丈夫そうだな」

 どうやら、今回は繰り返さなくて済みそうだ……!

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