第10話 解放

 あれから、姉とメロンは付き合い始めた。

 これは正直驚きとしか言いようがない。

 そしてあの赤鬼は地獄から出られないように、黒鬼が先手を打ってきたらしい。

 そしてそんな黒鬼だが……。

「また来たのか。暇だなぁ。もう女子大生だろう。友人とか、いないのか」

「またまたぁ。私が来てくれて嬉しい癖に。黒鬼ってそういうところわかりやすいよねぇ」

「そんなことは……というより、何故か顔が赤いな。熱でもあるのか。いつもだが」

「き、気にしないで! これは、その、吊り橋効果よ! 過去にあった、あの出来事のせいでね!」

「さて、どうだろうな。ところで、もうここには来ないように言ったはずだが?」

「じゃあ、黒鬼が遊びに来てよ」

 私はにこっと笑って言った。

「は……? 頭は大丈夫か。熱でも出ているんじゃないか」

「出てるね。確実に。あなたに」

「どうにかしている。妖怪と人間が、付き合っていい方向に向かうはずがない。現に、何度も繰り返させてしまった。辛い想いを、何度もさせてしまった」

「だったら、少しは悪いって思ってるのよね。じゃあさ、パフェでも一緒に食べようよ! いつもお化け屋敷に居たら、楽しいことなんてあまりないでしょ。今度は、私が連れて行ってあげる」

「そうは言っても、なあ。シフトとかもあるし」

「え、やっぱりシフト制なの?」

「もちろん」

「ちなみに休日って何やってるの?」

「地獄の入り口でひたすら天を眺めてる」

「何それ暗っ。楽しみ方が地獄すぎるっ。人間界での楽しみ方を教えてあげるから、一緒に行こうよ!」

「だが、この姿じゃ……」

「包帯を取ればいいよ! 人間にもいろんな髪や目の色の人がいるもの。大丈夫だよ!」

「……しかし」

「じゃあ、私のお願い聞いてよ。今回も完走したから」

「願いは一回だけで」

「今回は一回目だもーん」

「……はあ、で? 願いは?」

「私の友達になって、連絡先交換しよう!」

「……わかった。そのくらいでいいなら」

「やったー!」

 喜んでいると背後から声を掛けられる。

「あのー、後ろ、詰まってるんで、そろそろ」

「すみません……」

 スタッフさんに注意を受けてしまった。そして黒鬼も一緒になって注意を受けた。

 でも、それから私達は連絡先を交換し、たまに遊びに行く仲になった。

 お姉ちゃん達も順調みたいで、もう、繰り返さなくていいのだと思うと嬉しくて仕方がない。

 私は、三人を救えたのだろうか。

 ……うん、きっとそうだ。

 黒鬼の手を握って、その冷たさにやっぱり現実だと思わされる。

 もう、この手も、お姉ちゃんのても離さない。


 私はやっと、あの地獄のような繰り返しの日々から解放されたのだった。

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あのお化け屋敷に行ってから、全てが変わってしまった 根本鈴子 @nemotosuzuko

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