第7話 信じる
「ハッ、あれだけ大口叩いてたのに、情けねえな。妖怪っていうのは。あの赤鬼もいなくなっちまったというか、小さくなっちまったみたいだし。俺だけでどうにか、お前らを殺さなくっちゃな。そうすりゃ、俺の小説のランキングはもっと上がるだろうぜ。だって、リアルな作品が書けるからな。現実味のない現実の話が一番売れるんだよ……!」
今も、ずっと自分のことばかり語っているメロン。
私は殺意を持って睨みつけると、メロンは一瞬ぞくっとした表情を、そして恍惚とした表情を浮かべた。
気持ち悪い……。
「いいねぇ。そういうの。いいよ。じゃあ、お前の話を書いてやるよ。でも、名前は変えて書いてやるけどな。そろそろこの作家名にも飽きたところなんだよ。丁度いい」
「あんたには、ランキング上位は無理。だって、面白くないもん」
そう言うと、そいつは今までで一番怒り狂った顔を見せる。
え、何?
「言っちゃいけないことを言ったな……! 面白くないだと? ふざけるなよ。こっちは面白さを提供してやってるんだ! ありがたく読めよ! 面白くないとか決めつけんな! 読解力のないサル同然の癖に!」
「あんたこそ、あんたこそ読者舐めすぎなんじゃないの!? 読者馬鹿にすんなよ! 直に評価受け止めろよ! 上ばっかり目指すのは勝手だけど、押し付けんな!」
「殺す。絶対殺す……」
こちらへと向かって来るメロン。でも、薬屋がメロンの前に立ち塞がる。
「あ? んだよ。てめぇ……」
「お前とも何度目か……。いつも引き分けだな。赤鬼。お前の育てた、依り代とは。もっとも、依り代自身は自分の体だと思っているが」
「何を言って……!? や、やめろ。なんだよ。なんで俺の腕、自分の首を、やめて! やめろ! やめ……っ」
そう言いながら、メロンは自分で自分の首をカッターで切っていく。
恐ろしい……。自殺、ではない。体が自分のものではないようだから、これは、自殺などではない。他殺だ。
おびただしい量の血が出てきて、その首は歪な断面を見せて、落ちた。
「哀れな……。もう、いいだろう。赤鬼」
その時だった。
首が、生えてきた。
そしてその首は見知らぬ男の顔になり、体も変わっていく。服装も……。
「薬屋。いや、黒鬼と呼ばせてもらおう。こっちの姿では、久しぶりだな」
「出来ることなら、会いたくなかったさ」
そっか。そうなんだ。メロンも、結局は赤鬼に踊らされていた一人に過ぎないんだ……。
でも、薬屋が黒鬼って何? どういうこと?
赤鬼と同じ、仲間なの?
「久方ぶりだな。黒鬼。我らの母胎、地獄へよく戻ってきた」
「気持ち悪いことを言うな。それから、いい加減、美冬の姉を解放しろ。お前が本当に欲しいのは美冬の姉の魂だろう」
「……まあな。あいつ、見える力があるし、面白いから食ってやりたくってな。魂を、こちらに呼びたくて仕方がない。手伝ってくれるか?」
「嫌だ。美冬を手伝うと決めたからな」
「なら、お前ら共々食ってやる」
……赤鬼は、歪な笑顔を見せる。メロンと、そっくりな、気の狂った表情で。
でも、私はそんなことで今更怖気づかない。
薬屋の……、黒鬼のことを、私は信じる。
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