第6話 鬼ごっこ

 それからは逃げ道というものはほとんどない地獄で逃げ回り、息を潜めていた。

 でも、すぐにメロンはやってくるし、どんどん薬屋は疲弊していった。

「薬屋、大丈夫? 息が上がってるよ……」

「俺のことはいい。それに、いいこともある。あいつを倒せば、きっと帰れるし、お前の姉も助けられる」

「え?」

「あいつの気を探ってわかった。あいつは生きている。だから、その命をいただけばお前の姉の命に充てられるし、あいつがここに居ること自体が不自然なんだ。だから、帰ろうと思えば帰れるのがあいつだ。そのあいつが死ねば、お前が帰れる。あいつの代わりにな」

「……なんか、よくわからない」

「とにかくあいつが死ねば、全て丸く収まるってことだ」

「うん。それだけは……、わかったよ。でも、薬屋は?」

「俺は元々地獄の出身の妖怪だ。だから、元居たこの世界に戻るだけさ。安心しろ。そっちの世界までは無事に送り届けてやる。だが、もうあのお化け屋敷には近づくな。あそこは地獄と繋がっている。だから俺が居た。俺が居なくなったら、俺の知り合いに行ってもらう。一度こっちに来ると、また来てしまうことの方が多いんだ。だから、もうあのお化け屋敷には来るなよ」

「わかった。ありがとう」

 そんな話をしていると、蛇が飛びついてきた。

 咄嗟に薬屋が背中を向けて私を守ってくれる。

「薬屋っ!」

「大丈夫だ。こんなの、噛まれただけだ。ただの人間と妖怪じゃ、耐えられるものが違いすぎるからな。それじゃあ、また逃げるぞ。ほら、首にでも掴まっていろ。死にたくなかったらな」

「……!」

 メロンが私達に向かって走ってくる。

 カッターの刃を出して、その刃をこちらに向けて。

――投げた。

 そのカッターは蛇がいっぱい絡んでいて、そのカッターは気持ち悪い色をしてこちらに向かってくる。

「薬屋、危ない……!」

「……っつぅ!?」

 私は、私は何をしていたんだ。

 もっといち早く知らせるくらい、出来たんじゃないのか。

 そうだと言うのに、これは何だ。

 どうして、なんで、薬屋が倒れている?

 綺麗な白い髪の一部が赤く染まって、包帯から赤い雫が垂れて、岩肌にその身を投げ出している。

 ……何度目だ。

 思い出せ、思い出せ!

 この光景、私は何度か見たことがある!

『俺は薬屋、お前には迷惑を掛けたな』

『何度目かな……。また、姉が亡くなったか。いや、こちらの話だ』

『ここまで来たのにな……』

 ……そうだ! 私は、この未来を変えるんだ!

 この地獄に来るのも、もう何回目かわからないけど、でも、確かなのは、私は姉の手も、薬屋の手も離したくないということ。

 だって、離したら、絶対にもう元には戻らない。

 戻っても、またやり直すだけだから……。

 だから、今回で終わらせよう。

 どんな形であれ、今回が、最後だ。

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