第4話 醜い嫉妬

「おいおい、これはどういうことだよ。人間がいるじゃねえか。あれ、誰?」

「知らねーよ。お前が殺したやつの妹じゃねえの?」

「ふうん。あんな妹いたんだ。結構好み。なあ、あれ欲しいよ。俺。あいつのもの、全部奪ってやる。ってか、あいつ女だったんだ。クッソ笑える。どうしようもない鬱話ばかり書いて、男主人公のものばっかだから、てっきり男が書いてるもんだと思ってた」

 目の前を、赤い人の形をした鬼と、黒っぽい人間が私を見てそう言った。

 何。すっごく失礼。お姉ちゃんのことを、何だと思ってるの……!

「お姉ちゃんを、お姉ちゃんを殺すのをやめてよ! あなたがどんな人かわからないけど、私達に関わらないで!」

「わからない、だぁ? 俺のこと、聞いてないの? そうか。そうなんだ。あいつ、ランキング上位にいるから、下位の俺達のことなんざ、何も考えてないんだな。そっか。わかった……。絶対に、殺す」

「下位だからとかそんなの関係ないじゃない! ただ、お姉ちゃんは自分の作品に打ち込んでるだけよ! ランキングは今まで気にしてこなかったもの!」

「うっせえ! そうやってあいつは俺達を鼻で笑ってたんだよ! お前もそうだろ! あいつの妹なんだからな!」

 そう言ったそいつは、私の目の前まで瞬時にきて、カッターナイフで私の首元を切り裂こうとした。

 私が目を見開いていると、あの薬屋が間に入ってその男を蹴飛ばしてくれた。

 包帯がひらひらと舞っている。

「人間の小僧如きが、いい気になるな。命はそんなに軽いものではないと、物書きならわかっているはずだろう」

「はあ? 命? そんなもん超軽いですけど。気に入らないやつは積極的に殺していますが何かー? 作品内で嫌いなやつ、いくらでも殺してるけど。妖怪だからその辺わかってないんじゃね? 今の人間にとって、命なんて軽いんだよ。だろ、赤鬼」

「その名前で呼ぶなよ……。まあ、いいが。おい、薬屋とそこの女。命が軽いっていうのは、俺も同意している。だから協力関係にある。何度も何度も、繰り返しあいつを生かそうとしてきたのはお前だな。魂の匂いでわかるんだよ。殺したあの女とよく似ているし、何度目かの世界で出会っているから、わかるんだ」

「そんな身勝手な……」

「妖怪というのは身勝手だ。だが、あの男も身勝手だな」

 薬屋はそう言って、私に後ろに行くように言うと赤鬼と呼ばれたやつと戦い始めた。

 素早く、人間の目では追えないほどに。

 衝撃音だけが聞こえて、風の騒がしさでどれほどの激闘かがわかる。

 そして私達も、戦うのだろう。

 相手はカッターを持っていて、私は何も持っていないけれど。

 でも、お姉ちゃんのために絶対に何とかするんだ。

 そうしなくちゃ、いけない。

 でもその相手は、笑っている。

 ……気持ち悪い。

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