第20話 4日目 神西の復讐

(Side 死神)


 海斗くんの気配を辿るように、空を進んでいきます。

 もうすぐ夕方、急がないと彼の身が心配です。


 するとそこへ神西が現れて、私の行く手を阻みました。


「阿久津とかいう人間とは一緒ではないのですね」

「俺様の狙いは最初っからァ貴様だけだァ、八神ィ! 阿久津なんてェガキはァ、そのためにィ利用しただけのことよォ!」


 やれやれ、利用されていたのは自分の方だというのに、おめでたい。


 空中戦は体力的に分が悪いので、私は近くの駐車場に降り立ちました。

 神西もそれに続きます。


 日暮れ前の住宅地。私たちのただならぬ雰囲気を察知して、蜘蛛の子を散らすように逃げていく通行人たち。

 ぽっかりとこの場だけが隔離されたように、シーンと静まり返りました。


「さァ、始めようかァ、八神ィ。昨日の借りをォ返してやるゥ!」

「貸したつもりなどありません。ですから、返していただかなくて結構です」

「うるせェ! ごちゃごちゃぬかすなァ!」


 ごちゃごちゃ言っているのはあなたなのに。


 ですが、神西のおしゃべりはここまでのようです。

 口を閉じた彼は険しく目尻を上げて、ポキポキと指を鳴らします。


 そしてすぐ横の白いワゴン車を抱え上げると、私に向けて投げつけました。


 動きが大きすぎますね。

 あなたがやろうとしていることぐらいお見通しです。


 ――ドゴォォォォォン!


 私は先手を打って、神西の手元で車を爆発させました。


 その爆風で吹き飛ばされる神西。

 私に同じ手が通用するとでも思ったのでしょうか? 愚かな。


 至近距離の爆発のせいで焼けただれた顔。

 腹を押さえているところを見ると、昨日の傷口も完治はしていないようですね。


「あなただって、まだ本調子ではないでしょう? 私への復讐は諦めていただけるとありがたいのですがね」

「アーハァン? 誰が諦めるだァ? 冗談じゃァねェ!」


 まだ強がりますか。

 ならば仕方がありません。


 ――ドゴォォォン! ドドォォォン! ズズゥゥン!


 神西の周囲にある自動車をまとめて爆発させます。

 踊るように宙に舞い、全身をブスブスと焦がしながら神西は地面に叩きつけられました。


 恨めしそうに私を睨みつけています。


 ですが残念。こうなることを見越して、私は車の止まっていないスペースに降り立ったのですよ。


「もう行ってもいいでしょうか? 私は先を急ぐのですが」


 焼け焦げた神西は、もはや炭のようになっています。

 さすがにもう懲りたでしょう。


 それにしても、少し派手にやりすぎましたかね。


 近隣の家の窓から人間たちが顔を覗かせて、不安そうな顔を浮かべています。

 周囲にも野次馬がやってきて、私たちの戦いぶりをスマホで撮影する者も現れ始めました。


「くそォ! 貴様ァ」


 なおも神西は起き上がると、併設されている駐輪場に駆け込みました。

 そしてそこから、次々と私に向けて自転車が投げつけられてきます。


 ですがいくら数を投げつけようと、そんなものが私に当たるはずがありません。

 最小限の動きで飛んでくる自転車を避けていきます。

 その直後……。


 ――死の予感!


 私は咄嗟に身体を投げ出しました。まだ逃げ遅れている子がいたとは。


 しかも運の悪いことに、飛んできた自転車のペダルが昨日鉄パイプで貫かれた部分に引っかかって、身体がもっていかれます。

 それを見逃さなかった神西は、さらに追い打ちをかけるように軽自動車を投げつけて、私の前で爆発させました。


 子供に覆い被さって爆風を一身に受けた私は、背中に大火傷を負ったようです。


 何をしているんでしょうか、私は。

 人間なんかをかばって、我が身を危険にさらすなんて……。


「お嬢ちゃん、今の内にこっちにおいで!」


 その子は駆け寄ってきた大人によって、無事に保護されたようです。


 しかし、これは少しまずいかもしれません。

 治りかけの大きな傷が、今の衝撃で開いたようです。


 ――死の香り。


 よりによってこんな時に……。


 どうやら海斗くんにも死が差し迫っているようです。


 そして振り向けば、そこには神西の姿が。

 弱みを見せるなり、すかさずつけ込んでくるとは敵ながら尊敬に値します。


 あなただって、立っているだけで精一杯でしょうに。


「ぐふゥ……八神ィ、お前、俺様に言ったよなァ殺してやるとォ。ぐふふゥ、今日は俺様がァお前を殺してやるよォ」

「できるものならしてごらんなさい。どうせあなたにはできませんよ」

「強がりもいい加減にしろォ。俺にもわかったんだよォ、死神の殺し方がなァ。今、貴様をォ楽にしてやるゥ」


 神西は私の額の角を握り締め、一思いに折りました。


「ぐぅっ」


 思わず声が漏れる激痛でした。

 そんな私を嘲笑うように、神西が折った角を胸に突きつけます。


「ぐへへェッ……ここだろォ? ここに角を突き立てりゃァ、お前は死ぬんだろォ? おらァ! 死にやがれェ、八神ィ!」


 神西は手に持った角で、私の心臓を一気に貫いた。

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