第15話 阿久津の策略

(Side 阿久津)


 困った。

 困った、困った、困った……。


 『わからないんだったら調べろォ』とか、神西かんざいっていう死神に言われちまった。

 俺も、つい勢いで『絶対に調べてみせます!』なんて言っちゃったよ。


 だけど、『死神の殺し方』だぞ? わかるかってんだ!


 スマホで検索したけど、引っ掛かるのはラノベ小説やゲームの攻略法ばっかり。

 なんの役にも立ちゃしねぇ。


 こうなったら言いくるめてやる。

 どうせ相手は腹に穴の開いた手負い。いざとなったら逃げられるだろ。


 俺は目の前で壁に寄り掛かっている、右の角を折られた神西に声を掛けた。


「あの……死神様。死神の殺し方なんですが……」

「おォっ! わかったのかァっ?」

「いえ。ですが、角を使うところまでわかってるなら、実際に試してみるのが早いと思うんですよ」

「なァにィ? 貴様、俺様に自分でやれって言ってやがんのかァ!」


 腹に穴が開いてるってのに、なんて声の大きさだよ。


 今にも殺されそうでハラハラする。

 だけどこいつを上手く利用できれば、海斗に仕返しができるんだ。


「そのお身体じゃ無理なのはわかってます。わかってます。ですから、他の死神を使って試してみりゃいいんですよ」

「はァ? 八神に勝つってこたァ、俺様よりも強えェってこったろォ! そんなやつがこの世に存在するかァ!」


 現に、あんた負けてるじゃねーかよ。

 どんだけ頭悪いんだよ、この死神は。


「いるわけない、いるわけがないです。ですが、10体ぐらいでまとまって襲えば、いくらあいつだってかなうはずがないでしょ?」


 顎に手を当てて、神西が考え始めた。

 そしてしばらくすると、ポケットからスマホを取り出して電話をかけ始めた。


「よォ、久しぶりだァな、成神よォ。ちょっとォ、頼みがあんだよォ……」


 普通に使いこなしてるんだな、スマホ。

 だけどスマホ持ってんなら、死神の殺し方も自分で検索しろってんだ。


「どうせ退屈してんだろォ。ツラ貸せよォ……」


 こうして間近で見ると、なんだか俺たち人間と大差がなくて親近感が沸くな。


 3体、4体と電話をかけまくり、神西は仲間を集めていく。


「なかなか味わえねェ、楽しィことしようぜェ……」


 そしてとうとう、神西は10体目に声を掛けた。


「なァ……死神を殺してみねェか?」



 夜も更けた河川敷。俺はガタガタと身震いが止まらない。


 だけどそれは、吹き抜ける風の冷たさのせいじゃない。

 結局神西は俺が言った通り、10体の仲間を集めやがった。

 勢揃いした死神たちを前にしたら、恐怖で頭がおかしくなりそうだ。


 そんな中、風音に負けない神西のダミ声が響く。


「集まってもらったのは他でもねェ。今からおめェらには、死神を殺してもらうゥ」

「「オォッ!」」

「実を言うとォ、死神の殺し方はまだわからねェ!」

「「ブゥゥッ」」

「あとはァ、こいつが話ァす!」


 えっ、ブーイングの直後に俺に振るとか、こいつ正気かよ。


 険悪な目で睨みつけてくる、10体の死神たち。

 俺はオシッコをちびりそうになりながら、声を張り上げる。


「死神を殺すには角を使うらしい、です。そこで、今からここに八神という死神を呼びますから、そいつの角を折って身体中の至る所に突き刺してみてください」

「よぉよぉ、至る所ってどこよ」


 助っ人の死神もバカなのかよ。『至る所』って言えばあちこちって意味だろうが!

 だけどそんな言い方をすれば即死する。もう泣きたい。


「身体中のあちこちに突き刺して試してください。俺……いや、僕は心臓が怪しいと思ってます」


 趣旨を説明した俺は、中央の位置を神西に譲った。


「じゃァ、ここからはァ、八神が来るまでェ……ってェ、おい! どうやって八神をここに連れてくるんだァよ」

「だから、囮を使って呼び寄せるって説明したじゃないですか」

「あァ、そうだったなァ」


 事前に説明しておいたのに、聞いてなかったのか? それとも忘れたのか?


「じゃァ、早く八神を連れてきやがれェ」

「えっ? 俺? 俺が連れて来られるわけがないでしょ」


 何を考えてんだ、このバカ神。

 こんな奴に頼らなきゃいけないのかと思うと、情けなくて涙が出てくる。


 だけど、それも海斗をぶちのめすため。今は我慢だ。

 

「だったらァ誰が行くんだァ!」

「こうなると神西の兄ィは手が付けらんねえからな。あっしが行って来まっさ」


 名乗り出た助っ人に救われた。


 これで準備は万端。

 あとは八神の登場を待つばかりだ……。



 待つこと1時間。

 やっと街の方から八神がやってきた。


 俺と神西は河川敷の草むらの中から、始まった戦闘をジッと目に焼き付ける。


 段取りも充分に練ったはずだったのに……。


 結果はギリギリまで追い詰めたものの、八神が10体の死神を退けて終わった。


「ちっ、しくじりやがったかァ。使えねェ死神どもだぜェ」

「八神ってやつ、あの大怪我から回復するのにどれぐらいかかるんです?」

「相当にダメージ食らわせたからなァ。ありゃァ、丸一日は動けねェだろうなァ」


 とどめは刺せなかったけど、八神を充分に痛めつけることができた。


 よし、俺の計画はこれで一歩前進だ……。

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