第2章
第7話 3日目 運命の出会い、再び
僕に残された時間はあと4日。
母さんは休暇を取ってくれるらしいけど、今日中に引継ぎを済ませてくると言って朝から仕事に出掛けた。
身辺整理を続けてた僕は、息が詰まったので気晴らしに散歩へ。
公園で桜の木を見上げたらつぼみが大きくなっている。
咲くところが見られるといいな……。
「暇にしているのなら、例の少年のところへ行きませんか?」
「暇じゃないよ! でも、話はしてみたいかな」
面会謝絶の彼とは、死神がいなければ会うことは難しい。
僕の寿命が使われる少年のことを死ぬ前にもっと知っておきたいと、死神の提案を呑むことにした。
相変わらず周囲から突き刺さる同情の視線が痛い。
だけどもう、気にするのはやめた。
というか、気に掛けている時間なんて、今の僕にはない。
僕は大勢の角とすれ違いながら、死神に連れられて少年の病室を訪ねる。
すると今日は、そこに先客がいた。
「死神様、こんにちは。三ッ沢くん!!!」
「えっ、末崎さん」
高校時代の憧れだった
卒業式以来の再会に僕はビックリして、彼女に尋ねる……よりも先に、死神の姿を見つけた少年が歓喜の声をあげた。
「あっ、しにがみのおじちゃん。いまね、おねえちゃんにこの前のことおはなししたの。ぼく、もっといっぱい生きられるようになるんだよね!」
「そうですよ。今日はそれをお知らせに来たんです」
その会話を聞いて、末崎さんが死神に尋ねる。
「そのお話って、本当だったんですか?」
「死神は命に関して嘘は言いません」
顔をほころばせた彼女は、すぐにハッとして僕を見た。
突然目が合って、僕はドキッとしてしまう。
「三ッ沢くん、ちょっと来て」
彼女は僕の手を取って、そのまま病室の外へ。
廊下に出るなり、気まずそうな表情で僕に尋ねてきた。
「まさか
「たぶん、そうかな」
「そんな……」
「ああ、でも、気にしないで。どうせ僕が死ぬことには変わりがないんだし」
末崎さんは複雑な表情を浮かべたまま考え込んだ。
なんて声をかけてあげればいいのかわからなくなる。
しばらくして病室を覗き込んだ末崎さんは、弟に向かって呼びかける。
「お姉ちゃん、ちょっとお話してくるね!」
「うん、ぼくもしにがみのおじちゃんとおはなししてる!」
「行ってらっしゃい」
死神にまで見送られた末崎さんは、僕に軽く微笑みかけながら廊下を歩きだした。
「ちょっとお話しよっか、三ッ沢くん」
「あっ、うん」
中庭に出ると、心地よい春風が頬を撫でる。
二人でベンチに腰掛けると、末崎さんの方から話し掛けてきた。
「話し辛かったら無理には聞かないけど、どうしてこんなことになっちゃったの?」
それを聞かれると自殺を図ったことから話さないといけない。そうなると、その動機についても。
だけど余命あと4日の僕に、隠しておく理由はなかった。
「僕、自殺したんだ、思い止まったけど。その時に死神に見つかってね」
「えっ? そんな、どうして自殺なんて」
「ほら、僕いじめられてただろ。その上、受験も失敗したから辛くなって」
一瞬で末崎さんの表情が曇った。
やっぱり、いじめのことは話さない方が良かったかな。
「ごめんなさい、三ッ沢くん! あなたのイジメ、わたしも目撃してたのに……止めてあげられなくて」
「もういいんだよ。それに悪いのは阿久津なんだから。イジメのターゲットにされちゃうから、みんな逆らえなかったのはわかってるし」
「そうなの……それが怖くて、黙って見てた。本当にごめんなさい」
スカートのポケットからハンカチを取り出して、溜まった涙を拭う末崎さん。
彼女に謝らせるつもりで話したわけじゃなかったから、申し訳ない気分になった。
重苦しい空気。せっかく憧れの末崎さんが隣にいるのに、これじゃもったいない。
「末崎さんは、覚えてる? 1年の美術の授業でやった校外写生」
わざと明るく切り出してみると、意表を突かれたみたいで彼女が僕に振り向いた。
「えっ、ああ、うん。あったね」
「あの時の公園って、こことなんだか雰囲気似てない?」
「ベンチで並んで桜の木を描いた時だよね? こんな感じだったっけ? うーん、ごめん、よく覚えてないかも」
彼女の表情が少し緩む。
遠くを眺める末崎さんは、今でもちょっと眩しかった。
「こんなところにいたんですか。私はもう帰りますが、海斗くんはどうします?」
良いところだったのに……。
だけど、あの少年との接点になる死神がいなければ間がもたない。
末崎さんとの時間は楽しかったけど、ここは帰るしかなさそうだ。
「それじゃぁ、僕も帰ろうかな。また来ます」
手を振って別れを告げると、末崎さんの目に涙が溜まり始めた。そして深々とお辞儀をする。
僕に泣き顔を見せたくなかっただけかもしれないけど。
しばらく歩いて振り返ると、彼女はまだ僕を見送ってくれていた。
表情は神妙だけど、その心遣いにちょっと胸が熱くなる。
「どうしたんですか? ニヤニヤして気持ち悪い」
「うるさいな、ささやかな喜びぐらい噛みしめさせろよ」
隣を歩く死神は、相変わらず腹立たしい。
だけど彼のおかげで、もう見ることもないと思っていた末崎さんに会えたと思うと、少しだけ感謝の気持ちがわいた。
とはいえ、その代償が余命じゃ釣り合わないけど。
「しかし、あの子の姉とあなたが知り合いだったなんて、とんでもない偶然ですね」
「案外、知ってて僕をターゲットにしたんじゃないのか?」
「そんな偶然を狙って起こせるのは、神様だけですよ」
「おまえだって神じゃないかよ」
「死神なんて、神の下で働く使用人みたいなものです」
病院の正門を出たところで死神が足を止めた。
「さて、今日は用がありますので、ここで失礼しますよ」
「えっ、そうなの?」
「あなたのことばかり構っていられるほど、死神は暇ではないのでね。では」
そう言い残して、死神が上空に舞い上がっていく。
僕専属のような気がしてたけど、違ったのか……。
家に帰ろうとすると、向こうの方から忘れもしない3人組が歩いてくる。
その中央で偉そうにふんぞり返っているのは……阿久津だ。
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