モンタージュ

 君は何を見ただろうか。星か、校舎か、過去か、はたまた僕か。君はただ眠るように、くうに身を任せた。

 最期の瞬間に、君は何を思っただろうか。僕には分からない。

 ただ落ちていく君は、「今日も空が綺麗」とでも言うような顔をしていた。ふと見上げた星空に、当たり前の美しさを気付かされたような、そんな表情。

 人は、生きているときの方が苦しそうな表情をしている。

「全員嫌い。心底嫌い」

 かつて君は言った。

 一見すると何の苦労も無い人生を送っている君も、自分にしか見えないものを背負っている。偽りの幸せも傍から見れば輝くし、君の笑顔一つで周りはいくらでも楽観的な解釈ができる。

「そんな自分が一番嫌い」

 それが自虐的な微笑みであることを僕は知った。またそれが言葉を介さないSOSであることにも気付いた。

 君が優しくあろうとしていたことも、他人を認めていくことから始めようとしていたことも、本当の自分を愛そうとしていたことも、僕は知っている。

 それでも僕は助けなかった。助けることができなかった。僕の声はもう届かないし、触れることもできない。君の持つ誰よりも深い愛を伝えることもできないし、些細な幸せの存在を教えることもできない。もう手遅れだった。

「帰って来てよ」と君は泣いた。

 それから君は学校の屋上へ行って、一切にお別れをした。星空を抱くようにして、月に飛び込むようにして。

 その目元に光るものを見て、もう遅いのに、僕は伝えられなかった言葉を思い出した。

「どうか君のままでいて」

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