スイマー
海面近くは危ないからと、母は私がそこへ行くことを許さなかった。そこには飢えた化け物がたくさんいて、私たちを容赦なく襲うのだと母は言う。
それでも私は、その恐怖を忍んでも見てみたいものがあった。
何度も母に頼んだが、いつも「危ない危ない」と言って、本当かどうかも分からない話を私に聞かせた。海には凶暴な生き物もいるが、海の外にはさらに凶暴な生き物がいるという。それが母の言う「化け物」であるらしかった。
最初のうちは言いつけを守るべきだと思っていたが、成長するにつれて憧れも強くなり、ある日私は、とうとう言いつけを破った。
夜になって、私は母の目をかいくぐって住処を出た。その後はただ一目散に、海面を目指した。
夜の海中は静かで、それだけ私の胸は高鳴った。輪郭のぼやけた月が光の粒を投げかけ、淡く海に溶けていた。
ようやく海面までたどり着くと、私は水面越しに、絶えず揺れ動く夜空を見た。海底から見る空は、いつもぼんやりとしていた。
私は来た方向に少し戻り、それからまた上を見上げた。助走をつけて、私は思い切り空に向かって走った。
目を開けたときには、私は星空の中にいた。
音も時間も置き去りにして、体に水飛沫を纏いながら、目に映るその光景にただただ見とれていた。水面の向こう側に、知らない世界を見た。
永遠とも思える一瞬の中、私は海面を滑る月光に身を任せ、体を銀色に光らせた。
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