22
時は少し遡る。
"赤の子"の手から目を覚ましたモズが勢いよく飛び立ち、そのまま部屋の外へと羽ばたき、去っていく。
「ああああーーー!!」
悲鳴に近い叫び声を上げるプニカだったが、もう既に小鳥の姿は消えていた。慌て急いで、赤の癖毛を跳ねさせながら後を追う。
部屋々々を走り抜け、階段へと身を躍らせて吹き抜けを見上げる、プニカ。
すれば、モズはちょうど一階層上の部屋の中へと吸い込まれるように入っていった。
「とりあえず、だいじょうぶ……!」
プニカは胸を撫で下ろす。
上の階層、つまり四階層にあるルブスの部屋の奥は壁になって行き止まっており、小鳥がそれ以上逃げることはない。部屋に踏み込み扉さえしめてしまえばよいのだ。
やったり、と意気を吹き返し、プニカは揚々と小気味よく階段を昇り始める。
上に行くにつれ、吹き抜けに浮遊する硝子球の内の光が弱まるものや、中には明滅するものが増えていく。
そのことを気にも留めず、プニカは四階層へと至る。更に上へ続く階段は、"塔"の屋上階層へ出るためのものだった。それを横目に"赤の子"は部屋の中へと踏み込んでいく。
そこには予備の硝子球や雑貨の入った箱などが整然と並ぶ、いわば物置であった。
右に左にと翡翠の瞳を向ければ、右側は壁になっており、左側は次の部屋へと続く扉がある。そして誘うように、扉は開いている--
ベラやモリィならば気が付いたその違和に、プニカはまったく気が付かずに次の部屋へと足を踏み入れていく。
「ど~こ~?」
間の抜けて間延びした声をどこにいるやら小鳥にかけて、壁の前に天井にまで高くそびえる本棚の並ぶ部屋を進んでいく。無論返事はなく、ここにもモズはいないようだった。
知識がただ横向きに積層する沈黙の
「っ! ……なに?」
それは突然のことだった。プニカの左手の甲に鋭く熱い痛みが走ったのである。思わず手を持ち上げて見れば、刻まれた火トカゲの紋章が疼いてる。
疼痛は一瞬にして過ぎ去るも、それを切っ掛けにしてプニカは足を止めた。胸に差したのは不安である。
不安の先はただ--疼痛の余韻は見張る翡翠の瞳と爪先の向こうであった。
「な……に……?」
安堵の象徴たるルブスという師が普段腰を据えているはずの場所から、"赤の子"は言い知れぬものを計り知れぬものを抱いていた。
けれども、自分が行かなければモズはどうなるのかと言って聞かせて、プニカは知識の積層を掘らず乱さず後にする。
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