21

 ベラは階段を駆け昇る。このままではプニカが危ない。全速力で急いでいた。

 息も絶え絶え、三階層にある子らの寝室へと戻るべく。

 吹き抜けに浮遊する硝子球。その内に灯る"熱"の光の数々が不規則な明滅を見せたり、あるいは弱ったりしている。

 ベラの頭をよぎるのはルブスの言った"熱の守り"である。

 実際、"魔"アンゴールが"塔"へ侵入することを許してしまったため、師の術が弱まってしまっているのではないかと、"白の子"はどこか見放されるかのような不安を想像の先に憶える。

 そんなベラの心を映し、また抉り嘲るような硝子球の内の不規則な光をらせん状の階段を昇る足取りの横目に見ぬように、忘れるように努めて、二階層へ至る。

 そして談話室、自習室、寝室へと飛び込むようにして走り続けた。


「プニカ--!」


 名前を呼ぶも、しかしそこにプニカはいなかった。

 もぬけの空の寝室を前に、ベラはどっと汗ばむ。一階層から駆け昇ってきたことによるものか、プニカがいないからであるのか。

 ベラは踵を返し、部屋の外へ向かってもう一度駆けだした。

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