12
「ぅあ……」
"秘法"の訓練の中途、唐突に糸の切れるようにプニカがふらついた。
同時に硝子球の内の熱が消え、モリィの行使し続ける力によって一息に銅球表面の熱も鎮まった。
「プニカ!」
誰よりも早く、ベラが絹を裂くように言い、動いた。机の向かいから駆けて回り込んで、今にも硝子球に倒れ込んでしまいそうなプニカを介抱する。
「プニカ! 大丈夫!?」
すっかり顔色の悪くなったプニカは弱々しく、ベラに頷いた。
「ごめんベラ……だいじょぶ。ちょっとふらってしただけ……」
たびたびプニカは訓練のとき集中力を切らした。それでも段々と力を行使し続けることの出来る時間が延びていた。しかし先ほどのようにおぼつかなくなるのは初めてのことだった
「今日はいままでで最長でしたよ、プニカ」
ルブスは弟子の一人の成長に琥珀の瞳を慈しく細めてたおやかに言った。プニカは顔色を悪くしつつも照れて微笑む。それから続けて、ルブスはモリィへと指示を出す。
「モリィ、教室から椅子を持ってきてちょうだい。プニカを休ませます」
「ん、わかった」
モリィはいつも通り淡々と返事をし、動き出した。左の扉へと歩き、扉を開き、この"秘法"の訓練室から教室へと出て行く。
程なくして開け放しの扉から椅子の背もたれを抱えたモリィが戻ってくる。それからプニカの後ろに椅子を置いて、
「プニカ、座って」
と着座を促して言った。
「ありがとう、モリィ……」
「プニカ、ゆっくりね」
ベラの手を借りながらプニカは椅子に腰掛ける。そしていつもの元気な光の弱った翡翠の瞳を振り向きながらベラへと向けて、申し訳なさそうに言う。
「ベラも、ありがと。ちょっと力を使い過ぎちゃったみたい」
「大丈夫だよ、プニカ。私に出来るのは、これくらいだから……」
寂しげに、背中を見送ったあとの
そんなベラにも、無言のままで慈しみの瞳をルブスは向ける。それから師、然としたすこしかたい顔つきへ戻り、口を開く。
「さて、プニカに代わって私が熱を込めましょう。いきますよ、モリィ」
「ん……んー、分かった」
一瞬返事に詰まりつつも、モリィはこくりと頷いた。
ルブスはモリィの隣りへと卓を回り込み歩くと、硝子球の前に立つ。
そんな折に後ろのプニカがモリィに向けて言った。
「モリィ、ごめんね~……」
「いい。仕方ない。プニカは休んでて。……師匠、始めて」
銅球の前でモリィは意を決すように、ルブスへと促した。
「はい、いきますよ」
言って、ルブスは黒の手袋をはめた左手を透明な球へかざす。
--すれば、それは瞬く間に起こる。窓から差し込む西日より遥かまばゆいと、刹那に三人の子らが感ずるほどの熱が灯ったのである。
"黒の子"は次ぐ間に自らが相対する比喩を茫洋と黒い瞳で捉えていた。
そして為される熱は
「う……」
思わずモリィは呻く。じりと肌を灼いた。
あっという間にプニカのそれとは比べものにならぬほど球は赤熱を帯び、黒の瞳に一筋の光を映し出してみせる。
それはいまのモリィが相対するには強大すぎたのだ。"黒の子"は脅威を目の前に後ずさりさえした。
そうしてモリィが躊躇する中、プニカは顔色の戻らぬ中であったが翡翠の瞳を輝かす。
「すご……っ」
自身が至らぬ領域の
「何度見ても迫力あるね、あれ」
ここでの力の行使のないベラさえも、感心を以て加熱された銅球を見て言った。
"赤の子""白の子"が固唾をのんで見守る中、モリィは赤熱する球へと手をかざした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます