10
悶着のような問答を思わぬ副菜に添えた食事を終え、三人は食堂を出る。
--"秘法の塔"の一階層もまた環形の部屋があり、それぞれが役割に応じて区切られている。ただし上階層とは部屋同士が壁でもって完全に独立しているという差異があった。
食堂の、引いては部屋の外には、見渡せば各部屋々々へ繋がる小さめの扉と外へ繋がる大きめの両開きの扉とがある。
見上げれば吹き抜けが"塔"の天井まで吹き抜け、硝子の内に煌々橙に灯る"熱"を閉じ込めた球体が星図を思わせるように複数、浮遊していた。
三人ぶんの足音は螺旋状に壁を上へと這って昇る階段に響く。
"赤の子"は小柄で軽い音を。
"黒の子"は淡々と一定の音を。
"白の子"は威勢のよい音を。
それぞれの靴の裏から一段一段と奏でていた。そんなとき。
「……っと」
次の一段を踏んだとき、モリィが石の継ぎ目で軽くつまづいてしまう。
「大丈夫?」
後ろで足を止めたベラが問えば、前のプニカも振り向いてきょとんとする。
「へいき。プニカ、昇って」
モリィはもう何事もなかったようすで、プニカにそう促す。頷いて、プニカは前へ振り戻り再び軽い足音を立てて階段を昇り始める。
そのような些細な出来事もあり、そうして三人は"塔"の二階層の扉の前へと至る。プニカが開いてモリィが続き、そのあとベラが扉を閉める。
西日が窓から差し込む教壇のある部屋から、隣り右の部屋へと三人は歩を進めた。
再度プニカが扉を開く。
その部屋は中央に木の机が一つあるというだけの空間だった。ただし机上には金属製の受け手二つに左右それぞれ、"塔"の吹き抜けに浮遊するものと同じく、しかし熱の籠もっていない硝子球があり、またそれと同様の大きさの銅球とが置かれていた。
この部屋には既にルブスがおり、窓の外に向けていた視線を入ってくる三人の弟子たちに気付いて向けて言う。
「三人とも、今日はすこし遅かったですね?」
師からの問いかけには、ベラが答えた。
「ごめんなさい、お師匠様。"森"の議論が起きちゃって……」
「けっこう。けれどいますぐ結論を出す必要はありません。それよりもいまは学ぶことが重要です。……プニカ、モリィ、始めましょうか」
ルブスは弟子たちのうち二人にそう促した。
「は~い」
「ん、わかった」
プニカとモリィはおのおの返事をして、二種の球体が乗った卓へと近付いていく。そんな二人の背をベラはどこか口惜しげに見送り、それから二人の向い側、ルブスの隣りへと立つ。 ルブスは弟子たちを見やり、口を開いた。
「さぁ、今日も"熱の秘法"の訓練を始めましょうか」
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