6

「真実」


 言いつ、思わずモリィは前のめりに息を呑み黒の瞳を見開く。

 プニカとベラはそんな、自身を露わにするモリィを初めて見るものだから、翡翠と灰色との瞳を白黒させて驚いていた。

 ルブスはどこか意を決すように息をつくと、弟子たちに向けて言葉を紡ぐ。


「"灼魔の森"の前身は"鷲の森"と呼ばれていました」

アクィラ……」


 モリィがぼそりと呟くのを、赤と白との子らだけではなくルブスも気付いて頷いた。


「ええ。王家の祖先の住まう地だったのです」

「歴史書にはそんなこと書かれてなかったけれど」


 懐疑的なようすでモリィはルブスに言った。師は、そんな弟子の黒い瞳へ問いを投げかける。


「その書にななんとありましたか? 王家の由緒について」

「争いごとの王都周辺の村々を一人の英雄、王の祖にあたる人物が束ねて国としたって。その名を冠してアクィラアーラという国名になった」

「その書に"森"はなんと?」

「初代王アクィラが古の火の魔性を中心に封じた、って……」


 モリィは真実への関心から段々と表情を疑問や違和を感じているふうに変えていった。プニカとベラは訝しげにその横顔を見るばかり。しかしルブスは教授する数式の答えが分かっている上かのように、モリィへ求めるのだ。


「モリィ? あなたがいま感じていることを口にしてみてください」

「ん……なんでお父さまやお母さまは王じゃなくって"王家"の負の遺産って言ったんだろうって、引っ掛かった。"灼魔"の封印に失敗して大火が来ることを失態と言うなら、初代王ひとりの失敗って言い回すほうが正しいのに」


 モリィは顔を伏して思案にふけり始めてしまう。

 ルブスとモリィとのやりとりに、プニカは黒い髪の右向こう側にいるベラに顔を向けて小声で問う。


「ベラ、分かる? この話……」

「ちょっと読めないね」


 ベラはそれに対してかぶりを振った。


「無理もありません」


 ルブスの琥珀の瞳はどこか哀れみを含んで、三人の子らをとらえる。


「モリィでさえ、周りからなにも知らされていなかったのですから」


 その言葉を聞いたモリィははっと顔を上げ、それから悲しげに一度目を伏してから再びルブスへ顔を上げ黒の瞳を向けて、


「師匠、教えて。"森"の真実を」


 と問うた。

 ルブスはそれにはっきり頷くと、窓の外に広がる"森"へと遠い、琥珀の瞳を向けた。


「私も"この立場"になってから初めて知ったことです。一部の者しか知ることを許されぬ、王家の禁忌事項とでもいいましょうか。……結論からいえば、あの"森"には王家の祖先に莫大なる富をもたらし、その代わりに二百年に一度大火という災厄をもたらす呪いが秘められているのです」


 師の話に、モリィだけでなくプニカもベラも固唾を呑んだ。

 "赤の子"はおとぎ話を聴くように。

 "黒の子"は痛いほど食い入るように真剣に。

 "白の子"は聞いてはいけない話を聞いてしまったというような後ろめたさで。

 三者三様の弟子たちに、ルブスはさらに"森"の深淵へと踏み込むような話を展開していく。

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