第14話 密着

よし、これから実戦形式の訓練が始まるのだが…俺は何をしているんだ?


何故か、王子と密着状態にある。


「レド殿、上の空だけど…僕に教えるのは退屈かい?」


「いえ?俺が子供の頃を思い出すので、なんだか懐かしいです。」


今は剣の握り方を教えているのだが…

ものすごく近い。


俺が真後ろについてレクチャーしているため、王子の…王子のうなじが真横にある…!!

これは危険だ。


俺と王子の背丈は10センチほど違うのだが…

その差がいい感じになって丸見えっっ!!


しかも、ふんわりいい匂いする…


はっ!なんて卑猥なことを考えているんだ!?

訓練に集中集中…


「よし、握り方は完璧ですね。上達が早い。」


「こう見えて、子供の頃は剣術に目がなくてね。剣を持つ機会は少なかったから、木の枝を握ってたなぁ。」


何だそれかわいい。

王子の話、もっと聞いていたいな…

でも、今は訓練中だ。甘い考えは捨てろ!


ブンッ…ブンッ…


「素振りはこんな感じでいいのかな?」


「あっ、もう少し力を抜いてください。そうすれば完璧ですよ!こんな感じで振ると尚…」


ズバァッ…


…やばいやりすぎた。

これじゃ嫌味みたいになって…


「レド殿…どう鍛練したら、そんなことができるようになるんだい!?」


なってなかったみたいだ。

一先ず安心…なのか?


「ちょっ、ミヒャエル王子!これは長い間鍛練を積んだからできることで…」


「普通はできないんだけどなぁ…?あんなにも美しく空を切る素振り、見たことがない!君は本当にすごいよ…!」


そんなにべた褒めされると照れる…困る…


ゴーン…ゴーン…


「今日の訓練は終了だ!片付け、始め!」


「了解っっ!!」


そして訓練が終わってから、1時間ほど経ち…

騎士たち全員での食事の時間に。


俺はこの時間が好きだ。

というより、食事が好きなだけかもしれんが。


「団長、早くしてくださいよ~。俺たち、腹ペコで死にそうっす!」


いつも以上に、皆の覇気を感じる。

やれやれ…訓練の時も、これくらい本気でいてほしいものだ。


「おっと、すまんすまん。んんっ…今日の訓練、大変ご苦労であった!俺たちの腹に入る、全ての命に感謝し…食せ!!」


「うおおぉぉぉ!!」


一種の騎士名物だな。

この覇気は、並大抵の人間には出せない。


皆が一丸となり、初めて出せるものだからな。


「レド殿、隣…いいかい?」


「どうぞ…って、何故ここに居るんです?」


本当にどうして居るんだ?

隣国の王子だし、普通は陛下と食べるものでは…


何より、二人には親交もありそうだ。


「あぁ…あいつとは少し喧嘩していてね。一緒に食事なんてできない。」


王子…かなり怒っているな。

笑顔に圧を感じる。


「むさ苦しい場所ですが、慣れると落ち着きます。俺は好きですし。」


「座るね。今日は無茶を言ったのに、ごめんよ。とても楽しかった。」


そう言ってもらえると嬉しいな…

頷いておこう。

ところで、今日のメニューは?


カタカタ…


まずい…非常にまずい!

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